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 ビアトリスは、倒れているエドウィンを抱き締めるように縋りつく。



「……ビアーテ、本当に?」



「はい。エドさま……愛しています。私は、あなたとずっと生きていきたい!」



 だから死なないでと、エドウィンの胸に顔を寄せる。


 その顔を思いの外強い力でエドウィンに上げさせられた。

 ビアトリスの片頬に添えられていた右手がうなじに回り、そのまま彼の目の前に引き寄せられる。



「ああ! ビアーテ、嬉しいよ! 愛している! 前世も今も、私は君を、君だけを愛しているんだ。 もう、一生君を離さない! 二人で幸せになろうね!」



 エドウィンは、声高らかにそう叫んだ。


 ――――彼の顔はまだ青白いまま。

 額には脂汗が浮いている。


 しかし、黒い瞳は生き生きと――――そう、本当に力強く輝いて活力に満ち満ちていた。



「エ、エドさま?」


 正直、とても瀕死の人間には見えない。


 そこに、その場に不似合いな明るい声が聞こえてきた。


「――――ハイハイ、いちゃつくのはそこまでにしてくれるかな。いくら左腕をかすめただけの軽傷(・・)でも、それだけ出血しているんだ。そろそろ治療しなきゃマズいだろう? ほら、離れて離れて!」


 それはイェルドで、眼鏡をかけた優男はニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。




「…………軽傷?」


 ビアトリスは、ポカンとした。


 エドウィンが、忌々しそうに舌打ちする。


「……空気を読め、イェルド」


「読んださ。読んだからこそ今まで待っていたんだろう? まあ、僕はこのまま君たちの『愛の告白劇場』を見物していても、いっこうにかまわないんだけどね。でも、さすがにそろそろ止めてあげなくちゃビアトリス嬢が可哀相だって、エイミーが言うからね」


 ビアトリスは、ギギギと視線をイェルドの横に向けた。


 そこにはエイミーがいて、真っ赤な顔を両手で覆って隠している。しかし指の間が大きく空いていて、そこからビアトリスを見ているのは間違いなかった。

 さらに少し離れた場所には何人もの騎士たちもいて、なんだか生温かい視線が向けられている。




「…………え?」


 その中の一人。白い制服を着た医師が、申し訳なさそうな表情でこちらに近づいてきた。


「殿下、防弾チョッキ(・・・・・・)を着ておられたそうですので、負傷は左腕だけで他に致命傷はない(・・)と思いますが、出血が見られますので救急処置をさせてくださいませんか。本格的な治療は帰城してから行いますので」




 ――――致命傷はない?


 安堵と困惑を両方一緒に感じながら、ビアトリスは目をパチパチと瞬いた。


 そう言われれば、エドウィンは一度も自分が重傷だとは言わなかった。

 顔から血の気は失せていたし、脂汗は浮かんでいたが、腕とは言え銃弾を受けて流血していたのであれば、それくらい普通だろう。



(ひょっとして私、勘違いから、ものすごく恥ずかしいことをしちゃったの? ――――みっともなく縋りついて『死なないで!』とか、あ、あ、『愛しています!』とか、叫んで――――)



 ビアトリスの顔に、みるみる血の気がのぼってきた。

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