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「グッ…………」


 低く呻くと同時に、不自然に強ばるエドウィンの体。


「え? …………エドさま!」


「…………ビアーテ、無事でよかった」


 見上げた蒼白なエドウィンの顔。

 その向こうでは、突撃した騎士たちが誘拐犯を地面に打ち倒しているのが見えた。

 いつの間に合流したのだろう、イェルドがいてエイミーを抱き締めている。


 しかし、それらすべてはビアトリスにとって意味のない背景だった。

 目を見開いた彼女の視線を集めるのは、眉間にしわを寄せ苦しそうに顔をしかめるエドウィンだけ。

 彼の体に回したビアトリスの手がヌルリと濡れた。

 見れば、その手は赤く染まっている。




「…………あ、まさか、撃たれて…………エドさま?」


「ビアーテ……君が、無事で…………よ、かった」


 力なく呟いたエドウィンの体が、ドサリと地面に崩れ落ちた。


「エドウィン殿下!」

「殿下が賊に撃たれたぞ!」

「早く、担架をここに!」

「医師を呼べ!」


 騎士が騒ぎ立てる声が、ビアトリスの耳を通りすぎていく。



(嘘よ! 嘘よ! 嘘よ!)



 信じられずに見つめれば、一度は閉じられたエドウィンの黒い目がゆっくりと開いた。

 血の気を失った右手がビアトリスの頬に伸ばされて、たしかめるように撫でられる。



「…………ち、千愛…………今度は、助けられて……よかった」



 紫色の唇が、はっきりと「千愛」という音を紡ぎだした。


 ビアトリスは、呆然としてしまう。


 エドウィンは弱々しく笑った。



「君……の、いない世界で…………生きるのは、辛かった。……もう、二度と、あんな目には遭いたくない」



 その言葉の意味するモノが、ビアトリスの中でひとつの言葉になる。



「…………悠兄?」


「うん……千愛」


「悠兄……ホントに、エドさまが悠兄なの?」


 苦しい息を吐きながら、エドウィンは頷いた。


 その瞬間、今まで散らばっていたすべてのピースが、ビアトリスの中でパチリと嵌まる。



 ――――エドウィンは、悠人だった。


(だからあんなにエドさまは悠兄に似ていたんだわ)


 エドウィンを見て度々悠人を思い出すのも当然のこと。

 だって、本人だったのだから。


 そして、エドウィンは、ビアトリスを「千愛」と呼んだ。

 それは彼が、ビアトリスが千愛の生まれ変わりだと知っていたということを表している。



 ――――いったい、いつから知っていたのだろう?

 それに、それならどうしてそう言ってくれなかったのか?

 教えてくれていれば、そうしたら――――。



(――――そうしたら私は、どうしたのかしら? もっと早くに、この想いに気づけていた?)



 いや。

 ますます気持ちがこんがらがって、もっと本当の心を見失っていたかもしれない。

 その証拠に、今だって動揺して混乱して、どうしていいかわからなかった。


 動けないビアトリスの頬をエドウィンがもう一度撫でてくる。



「千愛……ビアーテ……私の、最愛。……愛している。愛しているんだ、ビアーテ。……君を助けられてよかった」



 弱々しい声が、強く胸に響く。

 ビアトリスの目から涙がこぼれ落ちた。

 心はぐちゃぐちゃだけど、たしかなことがひとつだけ。



(私、…………嬉しい)



 エドウィンに「愛している」と言ってもらって嬉しいとビアトリスは感じるのだ。

 こんなときなのに、心が喜びに震える。


 だから――――。


(ようやくわかったわ。私の気持ち。……これだけは、もう間違えない!)


 ビアトリスは、真っ直ぐにエドウィンを見つめた。



「悠兄……エドさま……私も。……私も、愛しています。私は、エドさまがいなかったら生きていけないんです! だから、だから、死なないで!」



 心のままにビアトリスは叫んだ。

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