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 だいたいビアトリスとイェルドは食べさせあってなんていない!

 寸前でエドウィンに阻止されたのだ。


 きっと学園に潜入した者は、ビアトリスとイェルドだけを確認してエドウィンが来る前にその場を離れたのだろう。


(もっとしっかり確実に調査し直してほしいわ! しかもその誤解のせいで誘拐されただなんて、私が可哀相すぎるでしょう!)


 憤懣やる方ないビアトリスだが、ここで抗議をしてしまえば自ら自分がイェルドの想い人ではないと認めることになる。うっかり間違って誘拐してしまった被害者を誘拐犯がどうするかは、定かではない。


(口封じとか言って殺されたりして? ……どうしよう? どうすることが正解なの?)


 眼を見開いたまま固まっているビアトリスを見て怯えていると思ったのだろう。男たちが嘲るような笑みを浮かべた。


「はじめまして、お嬢さん。ずいぶん大人しいな? まあ、突然こんなところに連れてこられて怯える気持ちはわからなくもないが……状況はわかっているのかな?」


 少し訛りのあるハイランド語で聞いてきたのは軍服姿の男だ。「お嬢さん」などと呼びかけてきてはいるが、ビアトリスを侮っているのは間違いない。


(悔しいけれど……でも、警戒されるよりいいはずよ。これ以上状況を悪くしたくないもの)


 そう思ったビアトリスは、先ほどまでの怒りを抑えてひどく怯えるふりをした。


「こ、ここはどこですか? あなたたちは、誰? いったいどうして私は、こんな目に遭っているの!」


 声をふるわせヒステリー気味に尋ねれば、男たちの歪んだ笑みが大きくなった。


「悪いな、お嬢さん。俺たちもあまり余計なことを喋るなと上から命令されているんだ。……ただそうだな、あんたがこんな目に遭っている原因は『イェルド』だってことだけは教えてやろう。恨むんならあいつを恨むんだぞ」


 余計なことを話すなと命令されていながら『イェルド』の名前を漏らす。この誘拐犯たちは、間違いなく三流だ。


(……これは、つけこむ隙があるの?)


 この瞬間、ビアトリスの頭にはじめて希望の光が灯った。


(そうよ。まだ絶望するのは早いわ。ひょっとしたら、助かるかもしれないもの。……ううん! 私は、絶対助からなくっちゃならないのよ! だって、まだこんなところで死にたくない! それに、万が一、イェルドに助けられてしまったら――――私、そのまま監禁ルートまっしぐらなんじゃない?)


 ようやく頭が回り出す。

 考えはじめたビアトリスは、自分が陥るかもしれない危険に気がついた。


 現状ビアトリスとイェルドの間には、好感度が上がるような要素がまるでない。つまり彼が誘拐犯の要求を聞き入れて助けにきてくれる可能性は限りなく低いのだ。

 しかし、行動や考えの読めない天邪鬼なイェルドのこと、気まぐれにビアトリスの救出に重い腰を上げてしまうとも限らない。


(それって、私が前世でやったイェルドルートと同じになるんじゃないかしら? あのときも好感度はそれほど高くなくて、その状態でイェルドが救出に来て……それで監禁されたんだわ!)


 それはいやだ!

 絶対いやだ!

 あれはゲームだからリセットボタンを押せたのであって、現実にはそんな都合のいいものありはしない。



(ダ、ダメよ! のんびり救出なんて待っている場合じゃないわ!)



 ビアトリスは心の中で悲鳴を上げた。

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