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(そうよ。本当に誘拐されるなんて思いもしなかったのよ! それも、まさか私が誘拐されるだなんて!)


 こんなおかしなことが起こるのだろうか?



 ――――エイミーとの話し合いが終わった後、自宅へと帰る馬車に乗ったビアトリスは、うつらうつらと居眠りをしていた。

 それが急に止まったのは学園からさほど離れていない場所。

 急ブレーキの衝撃で前の座席に強かに体を打ちつけられたビアトリスは、一瞬呼吸困難に陥ってしまった。


 そんな彼女が馬車に押し入ってきた賊に抵抗できるはずもなく、あえなく誘拐されてしまったのは当然の流れだ。


(なんで、私が誘拐されるの? 絶対人違いでしょう!)


 拘束された上で別の馬車に押しこめられ、どこをどう走ったのかも不明のまま数時間後にビアトリスが監禁されたのは、ほとんど使われた形跡の無いガランとした一室だ。

 見回せば、味も素っ気も無い灰色の漆喰の壁に、板を打ちつけられた小さな窓。家具は壊れそうな簡易ベッドと五十センチ四方のドロワーデスクのみだった。


 ――――認めたくはないのだが、とても見覚えのある部屋である。


(間違いなく、ゲームのイェルドルートで誘拐されて監禁される部屋だわ。……なんで? どうしてヒロインじゃなく悪役令嬢の私が攫われたの?)


 あまりに想定外な出来事に呆然とする。


(リビード王国ではお家騒動が起こった気配の欠片もなかったはずなのに、誘拐事件だけ単発で起こるとか、あり得ないでしょう!)


 脳内で叫んでいれば、ドアの向こうから声が聞こえてきた。


『――――おい、間違いなく、イェルド王子のお気に入りの女を攫ってきたんだろうな?』


 ――――リビード語だ。

 それに内容も、ゲームで知っている通りのセリフだ。

 本当に本物の誘拐なのだとわかったとたん、ビアトリスは怖くなった。


(……ど、どうしよう? もしも誘拐されたのがエイミーだったのなら、イェルドが助けにきてくれる確率はかなり高いけど……でも私じゃほぼ期待できないわよね? ……ここは、正直に私はイェルドのお気に入りじゃありませんって伝えた方がいいのかしら? ……ううん! そんなことをしたら、あっという間に口封じとか言って殺されちゃうかもしれないわ!)


 八方塞がりの現状に、血の気が引いていく。


(そもそも、どうして私がエイミーと間違えられたの? 似ても似つかないはずなのに!)


 ビアトリスは銀髪緑眼で背が高くスラッとしている。そのくせ出るべきところは出ている大人っぽい体型だ。

 翻ってエイミーは金髪の青目。小柄で愛くるしい可憐な美少女なのだが、実は控えめな胸にコンプレックスを持っていて、時々羨ましそうにビアトリスの胸を見ているのを知っている。


(一目瞭然で、人間違いなんてあり得ないのに!)


 憤懣やるかたなく怒っていれば、古い扉がギギギッと音を立てて開いた。

 入ってきたのは男性二人。

 一人は黒い軍服みたいなものを着た体格のいい壮年の男で、もう一人は町人らしき小男だ。

 二人は、ジロジロとビアトリスを見てきた。


(あぁ! どうしよう。エイミーじゃないってバレちゃうの?)


 しかし、男たちに慌てた様子は見えない。それどころか『聞いていたどおりだな』と頷きあう。


『フン、ずいぶんな美人だ。しかも上流階級のお嬢さまなのは間違いない。……本当にこんな目立つ女がイェルド王子の恋人なのか? 奴は一応この国で身分を隠して潜伏中なんだぞ』


 偉そうな言い方は軍服姿の男だ。


『間違いありません。先日学園に潜入した手の者が、この女とイェルド殿下が人目を忍んで食事を食べさせあっているところを目撃していますから』


 ペコペコと頭を下げんばかりの小男の返事を聞いて、ビアトリスは、目を見開いた。



(食事を食べさせあうって…………あの、例の『あ~ん』のこと? 嘘っ! 運悪くあの場面だけ見られて私がイェルドと近しいって判断されたの?)



 誤解もいいとこだった。

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