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 ショックを受けたビアトリスは、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がる。


「嘘っ! そりゃあ、イェルドは超面倒くさい相手だけど惚れたら一途だし、トゥルーエンドなら第一王子から国王へ一直線でリビード王妃になれるけど……でもでもトゥルーエンドはハッピーエンドとは限らないのよ!」


 イェルドのトゥルーエンドは、内乱を征したとはいえまだまだ安定しない王国を治めていく苦労と抱き合わせの茨の道なのだ。その険しさは、同じ王妃エンドでも安定したハイランド王国の王妃となるエドウィンルートとは雲泥の差。


「ちょっと! エイミー、あなたったらなにを血迷っているのよ!」


「血迷ってなんていないわよ! だ、だいたい、誰がイェルドを好きだなんて言ったのよ? そんなはずないでしょう!」


 エイミーは真っ赤になって否定した。

 それを聞いたビアトリスは、ドッと体から力を抜いて椅子に座りこむ。


「もう驚かせないでよね」


 ずいぶん焦ってしまった。

 エイミーには必ずイェルドを攻略してもらわければならないのだが、だからといって最終的にイェルドを選んでもらっては困るのだ。


(無事にイェルドを攻略した暁には、今度こそエドさまを攻略してほしいんだもの! でないと私が婚約破棄してもらえないわ!)


 エイミーがモブ担だったせいなのか、それとも他にも理由があったのか、現在ビアトリスはエドウィンにものすごく好意を向けられている――――らしい。

 それは、他ならぬエイミーから『溺愛』とか『盲愛』とか『ゾッコン』だとか断言されるほどで、彼女は、エドウィンにとってビアトリスが『掌中の珠』で『メロメロ』に『ベタ惚れ』されているのだと言い張っている。


(そんな自覚ないけれど! ……でもでも、もしそうだとしたら、私は絶対婚約破棄してもらえないじゃない? それはとっても困るのよ! だからエイミーにはきちんとエドさまを攻略してもらいたいの!)


 しかしエイミーは、何故かわからないがエドウィンを怖がっている。

 そのうえ彼女の真の目的は、モブキャラベンジャミンの攻略なのだ。

 知れば知るほど問題ありまくりのヒロインに、さすがのビアトリスも押され気味。彼女を説得するのはたいへんそうだ。


(でもでも! 隠しキャライェルドの登場は彼女にとってもいい教訓になったはずよね? やっぱりヒロインには正しく攻略対象者を攻略してもらわなくっちゃ! きっと今回のことでエイミーもそれを思い知ったはずだわ。辛抱強く説得すればわかってくれると思う!)


 そして、ビアトリスも正しく婚約破棄されるのだ!


(……そ、そうよ! たとえエドさまや悠兄が私に……こ、こ、恋していようがいまいが! 私の目標はベンさまとのハッピーエンドなんだから! イケメンなんて断固お断り! モブとの平穏で平和な生活を絶対手に入れてみせるのよ!)


 ビアトリスは心に言い聞かせる。




「――――あ~あ、でもそれじゃあイェルドの好感度を知る方法はなにもないのね? これじゃあいつまでこんなことを続けなきゃならないのかわからないじゃない」


 少し落ち着いたのだろう。まだ多少顔は赤いものの、エイミーはため息混じりの言葉をもらした。

 たしかにこのままでは困るなとビアトリスも思う。


「いっそのこと全部いろいろすっ飛ばして誘拐イベントが起こるといいのにね」


 なんとなくそう言った。

 誘拐イベントは、イェルドイベントのクライマックスだ。


「いやっ! いやよ! なにそれ、怖い! 誘拐されるのって私でしょう?」


 エイミーは憤然として叫ぶ。

 もちろん誘拐の被害者はヒロインと相場が決まっていた。


「でも、そのときのイェルドの対応で好感度が丸わかりになるのよ。――――すぐになにも考えず犯人の言う通り行動すれば好感度はMAX。焦りながらも状況を確認し対応策を考えて動けば好感度は八割くらい。落ち着き払って情報収集、エドウィンに協力を願って動き出せば五割ってとこかしら? ちなみにフンと鼻で笑って知らんぷりしたのなら好感度はマイナスよ」


 千愛が前世でやったときは好感度八割で、メリバエンドだったのは既にご存じだろう。


「いやぁぁっ~! 鼻で笑われる未来しか見えないわ!」


 エイミーは頭を抱えて机に突っ伏した。


「えぇ~? そうかしら? かなり仲がいいと思うんだけど? だっていつも一緒にいるじゃない!」


「あれは、おもちゃにされているだけよ! たとえるならネコがネズミをいたぶっているみたいな感じ! 全然愛情とか感じないから!」


 エイミーはそう言うが、二人は本当に仲睦まじく見える。

 だからこそビアトリスは、先ほどあんなに焦ったのだ。

 それにエイミーといるときのイェルドの笑顔は柔らかく、彼の本性を知っているビアトリスでさえドキリとするくらい。

 エイミーはともかくイェルドの好感度が高いのは間違いないだろう。


「きっと大丈夫だと思うんだけどなぁ~。どう? 一回思い切って誘拐されてみない?」


「絶対にいや! っていうか、誘拐なんてされてみようと思ってもできるものじゃないでしょう?」


 エイミーの言う通りである。

 一人では誘拐劇は起こりえない。


 それでも万が一の用心として、ゲームで知っている誘拐イベントに関する知識のすり合わせをした。

 その後、他にイェルドの好感度を知る方法がないかも話し合う。


 しかしこれといったいい方法も見つけられないままに、今日はお開きとなった。


(……やっぱり誘拐イベントに匹敵するほどの好感度を知る方法はないのよね。そうそう思い通りにはいかないか)


 このときのビアトリスは、まさか本当(・・)に誘拐事件が起こるなんて思ってもみなかったのである。

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