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 しかし、その後ずっと、なぜかビアトリスは、ほぼ毎日王宮に通い詰める日々を送ることになる。

 婚約式から一ヶ月経ったこの日も、王宮のエドウィンの部屋にきていた。

 今日は王族独特のティーセレモニーを教えられ、つい先ほど終わったばかりだ。


「本日()、ありがとうございました」


 お茶でタプタプしているお腹を折り曲げ、ビアトリスはお辞儀した。


「ああ、また明日」


 思わず出そうなゲップを堪え、目の前のエドウィンを見つめる。


「……あの、明日も登城するのですか? 特に公務はなかったと思うのですが」


「明日は、隣国の大使夫人が王宮にくるんだ。彼女は著名な言語学者でね。私にかの国の言葉を教えてくれている。君も一緒に講義を受けたらいいのではないかと思って予定に入れたんだよ。外国語の勉強をはじめるのは、早ければ早いほどいいと言われているだろう?」


 たしかに、日本でも幼児からの英語教育が推奨されていた。それはわかるのだが、ビアトリスがわざわざ王宮で隣国の大使夫人に教えてもらう必要はないはずだ。


(公爵家でも、十分な言語教育は受けられるもの)


 微かに眉をしかめた彼女を見たエドウィンは、困ったように笑う。


「実は、大使夫人は大の子ども好きでね。これは外交の一端でもあるんだよ。特に可愛い女の子には目がないそうだ」


 そう言われては、断わるわけにもいかない。


「わかりました」


 頭を下げながらも、なんとなくスッキリしないものを感じていた。


(だって、明日だけじゃないんだもの。昨日も一昨日もその前日も、なんだかんだと理由をつけられては、私は登城してエドウィンさまと会っているわ)


 しかも、たまにビアトリスがお城にいかない日には、エドウィンの方から公爵家に会いにくるから、婚約後二人が会わなかった日は一日も無いのが現実だ。


(いくら婚約したからって、これはないわよね? ……あまりそうは見えないんだけど、ひょっとして、エドウィンさまは婚約したって事実に浮かれているのかしら?)


 婚約者となって一ヶ月。この間にわかったことだが、エドウィンは非常に優秀で大人びた王子だった。彼の言動は五歳児とはとても思えず、婚約したからといって動じているようには見えない。

 しかし、実際はそこそこ舞い上がっているのかもしれなかった。


(なんといっても、五歳児なんだもの。まあ、嬉しいのは自分に婚約者ができたってことで、その婚約者が私だろうと誰だろうと変わらないんでしょうけど)


 ともあれ、婚約に浮かれているのだとしたら、しばらくすれば落ち着くだろう。


(きっと半年もすれば、上がっているテンションも下がるわよね? 今は、できたての婚約者に夢中でも、一年後には見向きもされないようになっている可能性が高いわ)


 ぜひ、そうなってもらいたい!

 五歳児とはいえエドウィンはイケメン。つまりは、ビアトリスが苦手な容姿をしている。しかも今後の成長に十分期待できる類いの美幼児だ。

 できることなら、あまり近づきたくはない人物だった。

 ビアトリスがそう思った瞬間、エドウィンがカタンと椅子を引く音をさせて立ち上がる。


「――――ああ、そうだ。ちょうど王宮の外に用があるんだった。門まで送ろう」


 ビアトリスの側まで近寄ってきて、手を差し出した。


「……ありがとうございます。エドウィンさま」


 とりあえず、あと半年か長くても一、二年の辛抱だ。

 そう信じ、彼の手に自分の手を乗せるビアトリスだった。

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