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「エ、エドさま……それって、かなり強引では――――」


「うん、ごめんね。私も急に参加できるようになったから連絡する時間がなかったんだ。でも大丈夫だよ。私とビアーテならどの種目でも最高点で一位は確実だからね」


 一位になる必要などまったくない!

 必要なのは、エイミーと対峙して無様に負けて彼女を罵り、その様子をイェルドに見てもらうことだ。そして、そんな言葉の暴力や権力を誇示した圧力に屈せず健気に頑張るエイミーに対するイェルドの好感度を上げてもらうのだ!


 すべてはエイミーがイェルドを攻略するための計画だったのに。


(終わった。……なにもかも終わったわ)


 ビアトリスはガックリと項垂れる。

 そんな彼女にエドウィンが囁きかけてきた。


「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。急な種目変更をしたのは私たちだけではないからね」


「え?」


「イェルドも、転校してきたばかりだから今回は出ないと言っていたのに、急に参加を決めたんだ。でも一人で参加するのは自信がないそうで、仲のいいスウィニー男爵令嬢に一緒の種目に参加してくれるように頼んだそうだよ」


 そういえば先ほどエイミーはイェルドとダンスをしていた。


(え? え? ということは、悪役令嬢にいじめられるイベントから、一緒に定期実技試験に挑んで好感度を上げるイベントにチェンジしたっていうこと?)


 それならそれでオーケーだ。

 むしろエイミーの頑張りようによっては、ただいじめに対抗するよりも大きく好感度を上げられる可能性が高い。


 ビアトリスは無意識にエイミーを捜そうとした。

 目の前のエドウィンの脇から顔を出そうとして――――止められる。


「……エドさま?」


 ガッチリ両肩に手を置かれた。


「安心したなら練習しよう。次は剣術の演技だからね。飾剣を使うとはいえ当たれば痛いから、動きの確認は必要だよ」


 たしかにその通りである。


「わかりました。エドさま」


 素直に頷けばあっという間に手を繋がれた。そのまま引かれて歩き出す。


(そういえばエイミーは剣術の演技なんてできるのかしら? それとも他にペアで出場できる種目があったかしら?)


 ふと気にかかるが、力強い手が立ち止まることを許さない。

 まあいいかと思ったビアトリスは、振り返らすに歩き去ったのだった。






 そして行われた定期実技試験の結果、ビアトリスとエドウィンのペアは、社交ダンスと剣術の演技競技で一位を取った。

 これはある意味予想通り。他の人に負けるなんて欠片も思えなかったのだから当然だ。

 ただ、最後の二人三脚は二位だった。

 優勝したのはイェルドとエイミー組。なんとイェルドは、途中からエイミーをお姫さま抱っこして走ったのだ。

 明らかに二人三脚ではないので失格だろうと思ったのだが、特にそうしてはいけないというルールはないそうで、ビアトリス以外の誰からも疑問の声は上がらなかった。


(さすが乙女ゲームの世界だわ)


 もうそう思う以外ない。

 エドウィンなどは、イェルドがエイミーを抱き上げた瞬間に自分もビアトリスを抱き上げようとしてきたので、やめてもらうよう説得するのが大変だった。


「私は自分の足でエドさまの隣を走りたいです!」


 大声で怒鳴ってようやく止められたのだ。


「ビアーテ、君は――――」


 ひどくエドウィンが感激していたが理由はわからない。それほど特別なことをいったつもりのないビアトリスである。


 ゴールした後も、イェルドは上機嫌でエイミーを抱き上げたままだったので、イベントは成功したと思っていいのだろう。

 たとえエイミーが真っ赤な顔で怒っていようが、涙目でビアトリスに救いを求めるような視線を送ってこようが、イェルドが笑っている限り成功は成功だ。


 なお、ビアトリスに視線を送ってきたエイミーは、その後すぐに顔色を悪くして視線を逸らしてしまった。

 どうしたのかと気になったが、直後に背後からエドウィンに話しかけられてしまい確認できていない。


(いったいどうしたのかしら? なにか気が変わるようなモノでも見たのかな? 私とエドさまくらいしか視界に入っていないと思うけど?)


 他人の心はわからない。

 しきりと首を捻るビアトリスだった。


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