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 さて、言うまでもないことだが、物事というものは何事も計画通りには進まないというのがセオリーだ。


(万全に万全を期しても予期せぬことが起こって狂うのが計画なのよね)


 なんでそんな身も蓋もない考えに陥っているのかと言えば――――。



「ビアーテ、私と踊っているときに他のことを考えてはいけないよ」


 クルクルと羽根のような軽くステップを踏みながら、エドウィンに注意されたビアトリスは「すみません」と謝った。

 真っ直ぐ視線を向ければ、超至近距離でエドウィンが優しく微笑みかけてくる。

 なにせ社交ダンスの真っ最中なのだ。至近距離も当然のこと。




 ――――そう、何故かビアトリスは定期実技試験の社交ダンスにエドウィンとペアで出ることになったのだった。

 ついでに言えば、エイミーもイェルドとペアを組んで出場中だ。


(いったいどうして? いつの間にそうなったの?)


 誓ってビアトリスはそんな申請していない。三種目目として無難に百メートル走を選んだはずだ。

 なのにいつの間にかダンスに変更されていたのだ。


 チラリと視線で問えばエイミーもブンブンと激しく首を横に振っているので、社交ダンスを申請していないのは間違いないだろう。


「ビアーテ、よそ見しないで」


「はい」


 美しく一分の狂いもなく踊るビアトリスに、エドウィンは注意した。

 ダンスの技量は十分なはずなので彼が要求しているのは心構えの方だろう。


(たしかにそうよね。ペアを組んだ相手が心ここにあらずでは失礼だわ。今はダンスに集中しましょう)


 急な種目変更の原因を追及するのは、その後だ。

 ――――まあ、十中八九エドウィンのせいなのはわかっていたりするのだが。

 ビアトリスはエドウィンを見上げ、男らしい大きな手に自分の体を委ねる。

 極上の笑みを浮かべた彼にリードされ、優雅に踊りきった。



 そして――――


「エドさま、今回の定期実技試験は公務と重なったことから免除されたとおっしゃられていませんでしたか?」


 社交ダンスが終わるやいなや、ビアトリスはエドウィンに質問する。

 理由も告げられずあれよあれよという間に社交ダンスの会場に連れてこられ、ぶっつけ本番で試験に挑ませられたのだ。この程度の性急さは許されるだろう。


「ごめんね。実は今日予定されていた公務が急に中止になってね。実技試験を受けられるようになったのだけど、準備もなしに無難にこなせそうな種目というのがあまりなくて――――社交ダンスなら、ビアーテといつもしているから大丈夫かなって」


 微笑みながら謝ってくるエドウィンだが、さほど悪いと思っている様子はない。


「エドさまなら、どんな種目だってダントツ一位が取れますでしょうに」


「そんなことはないよ。……まあ、社交ダンスを選んだ一番の理由はビアーテと一緒に踊れるからなんだけれどね」


 キラキラと美しい笑顔に、目が眩む。


「だから他のふたつもビアーテと一緒に出られるものを選んだんだ」


 しかし、続いた言葉に眩んでいた目の前が真っ暗になった。


「――――他の二つ?」


「ああ。出場種目数は三つだろう。剣術の演技競技と二人三脚にしたよ」


 剣術の演技競技とは、戦って勝敗を決めるものではなく、二人一組で定められた技をいかに正確に美しく演技できるかを競う競技だ。普通の試合と違い優劣は付けるものの明確な勝ち負けとならないため、社交の場で披露されることが多く、当然エドウィンもビアトリスも嗜んでいる。

 二人三脚に説明はいらないだろう。定期実技試験の種目に二人三脚があるのはいかがなものかと思うのだが、ここが乙女ゲームの世界ということを考えれば、まあアリなのかもしれない。


「さ、三種目ともペア競技を選ぶのは、ルール違反ではないのですか?」


 少なくとも個人の実技レベルを測る試験としておかしいと思う。


「いや、そんなペナルティは聞いたことがないよ。むしろ生徒間の信頼を深めるためにペア競技を選ぶことは推奨されているくらいだ」


 そういえば、この定期実技試験はゲームのイベントだった。ペアで出場して好感度を上げるのが目的なので、この世界的にはおかしくないのかもしれない。


「……え、えっと、その……わ、私も出場する競技がありますから、三種目ともご協力するのは、難しいかもしれませんわ」


 エドウィンとこれ以上好感度を上げる必要はない!

 絶対ない!

 むしろ下がってほしいくらいなので、ビアトリスは遠回しに断わった。


 ところが、エドウィンから返ってきたのは満面の笑顔。


「そんな心配はいらないよ。ビアーテの出場種目も私と同じものに変更してもらったからね。――――実は、今日までの君の様子を見ていたのだけれど、あまり練習もしていなかったし、本当は出たくない種目を選んだんじゃないのかな? 少なくとも百メートル走以外は得意種目ではないよね?」


 練習しなかったのは、エイミーに負けるためである。


「と、得意種目ばかり選んでは、自分のためにならないですもの」


「うん、さすがビアーテだね。その心意気は感心するよ。……でもそれなら私の選んだ種目につき合ってもらっても同じことじゃないのかな?」


 それはそうかもしれないが。


「まあ、どのみちもう変更手続きは済んでいるから、一緒に出てもらうしかないんだけどね」


 しれっと告げられた言葉に絶句した。

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