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(え? え? 悠兄が私に恋心?)


「で、でも、私は悠兄に告白されたこととかないんだけど!」


「ああ。幼なじみによくある『近くに居すぎて今さら告白できない』っていうあのシチュエーションね。『今の居心地のいい関係を壊したくない!』ってやつ。……いいわよねぇ。純愛だわ!」


 うんうんと頷きながら一人納得するエイミー。

 ビアトリスの思考はグルグルと渦巻いた。


(純愛? 悠兄が私に? どうしてそんな結論になるの?)


 今までビアトリスは、悠人と千愛が恋人関係ではなかったから、エドウィンの自分への感情も恋愛ではないと思っていた。

 なのにエイミーは、エドウィンのビアトリスへの感情が恋愛だから、悠人も千愛に恋していたのだと言うのだ。



(逆転の発想? っていうか、そんなことあり得るの? …………悠兄が私を?)



 グルグルグルと頭の中でエドウィンと悠人の顔が回る。

 あまりに回りすぎて、どっちがどっちかわからなくなるくらい。



 混乱の極みにいるビアトリスなど気にもかけず、エイミーは話を続けた。


「まあ、それはいいわ。あなたが気をつけてくれればいいだけだから。――――それより今後のことよ! これからどうするの? 私とイェルドの物理的な距離は近づいたけど、心情的には一ミリも近づけた気はしないわよ。てことは、まだゲームのイベントを起こさせなくっちゃいけないってことなんでしょう?」


 よくない! ちっともよくないが……たしかに今優先的に考えるべきは、イェルドの攻略の方だ。

 なにせイェルドルートは、ヒロインが正しく攻略しないと、隣国の戦争に巻きこまれバッドエンドコースまっしぐらだからだ。


(べ、別に考えるのが怖いとか、できれば知らないフリをしたいとか――――そんなんじゃないわよ! ……そ、それに、そうよ! 私にはベンさまがいるんだから! エドさまや悠兄がどんな気でいたとしても、私の心はベンさまのもの! この想いは変わらないわ!)


 そうそう、そうだった。


 ビアトリスは、自分の心の推し! 愛するベンジャミンの平凡極まりないモブ顔を思い出して心を落ち着けようとする。


 同時にブンブンと首を横に振って、エドウィンと悠人の顔を頭の中から追い出した。



「なによ? ゲームのイベントを起こさなくても大丈夫ってこと?」


 ビアトリスの動作を勘違いしたエイミーが、訝しそうに聞いてくる。


「違うわ! 首を横に振ったのは別のことよ。イベントは起こした方がいいと思うわ」


「なによ紛らわしいわね。だったら次はどんなイベントにするの? ……あ、エドウィンが絡むものは、絶対お断りよ!」


 そう言うとエイミーは、自分の両手で両腕を抱きしめて、体をブルリと振るわせた。


 どうしてエドウィンが絡むものはお断りなのだろう?

 疑問には思ったが、とりあえずビアトリスは、自分が覚えているゲームのイベントを口にした。


「そうねぇ、私があなたを池に落としたり、階段から落としたりするのはどう?」


 乙女ゲームでは定番とも言えるイベントだ。


「ダメよ! なによその怖い選択肢! 落とされる以外のものはないの?」


 ところがエイミーは気に入らなかったらしい。


「う~ん。そうね、他は、私があなたの頭上からバケツの水を被せるとか、植木鉢を落とすとか?」


「ダメダメ! ダメよ! どうしてそんな被害が大きそうなものしかないの! 植木鉢なんてヘタすりゃ死んじゃうじゃない」


(いやいや死なないでしょう? ヒロインだし)


 そうは思うのだが、そんなことをエイミーに言ってもたぶん火に油。キレさせるだけだと思ったビアトリスは、他のイベントを思い出そうと考えこむ。


「一方的なものがいやなのなら、対決イベントはどうかしら? もうすぐ定期実技試験があるでしょう? そこで優劣を競うの。負けた私が勝ったあなたを逆恨みして罵るっていう流れだったと思うけど」

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