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「いったいどうしたのよ? 作戦は成功だったんでしょう?」
「成功じゃないわよ! だって、あのドS、絶対私のことなんて気にかけてもいないもの! あいつが興味があるのはエドウィンだけなのよ!」
ビアトリスの腕をぎゅうぎゅうと握りしめながら、エイミーは叫ぶ。
ちょっと、いやずいぶん腕が痛いので離してもらえないだろうか。
「エドさまに興味のあるイェルドが、どうしてあなたに貼りついているの?」
エドウィンに興味があるのなら彼と一緒にいればいい。
事実、昨日までのイェルドはエドウィンと行動を共にしていた。
「エドウィンが一番大切にしているのがあなただからよ! 本当はあなたに近づきたいけれど、あなたの周囲はエドウィンがガチガチに固めているから近づけない。そこに、あなたがちょっかいをかける私が現れたのよ! つまり、私にくっついていれば、あなたが釣れるっていうことでしょう! 昨日から私がイェルドに聞かれたことなんて、あなたとどんな関係か? とか、あなたがどんな人間か? とか、そんなものばかりだったわよ!」
「……なんだってそんな面倒なことしているの」
ビアトリスは呆れてしまった。回りくどいにも程がある。
「それがイェルドっていうキャラでしょう! ……あと、彼が本当に知りたいのは、エドウィンの弱点だからだと思うわ。そしてあなたくらい彼の弱点になりそうな人がいないから、私を通して知ろうとしているのよ!」
――――弱点?
ビアトリスは首を傾げる。
「エドさまに弱点なんてないわよ」
ましてや、それがビアトリスだなんてあり得ない。
大真面目に言ったのだが、エイミーに怒鳴られた。
「この溺愛され系鈍感ヒロイン――――じゃなくって悪役令嬢! ちょっとは自覚しなさいよ! あんなにエドウィンに愛されていてよくそんなセリフが出るわね! ……おかげで私は毎日ビクビクしながら暮らしているっていうのに!」
ビシッとエイミーに指摘され、ビアトリスは固まった。
なんでエイミーがビクビクしているのかはわからないが、エドウィンの自分への好意については、以前チラッと思ったことがあるからだ。――――自分は、かなりエドウィンに好かれているのではないだろうか? と。
(でもでも、エドさまの態度は悠兄と同じだったもの! 悠兄は私を幼なじみとしてすごく大切にしてくれたけど……でも私たちは恋人とかじゃなかったわ!)
だからエイミーの『愛されていて』発言は、ちょっと意味合いが違うと思う。
「そりゃあ、私はエドさまに大切にしていただいているけれど――――」
「大切なんて一言で言い表せる程度じゃないでしょう! あれは『溺愛』よ! 『盲愛』よ! 『ゾッコン』よ! エドウィンにとってあなたは『掌中の珠』で、あなたはエドウィンを『メロメロ』にさせているじゃない! もっと『ベタ惚れ』されている自覚を持ってよね! あなたがしっかりしてくれなくっちゃ、私は、私は――――本当に怖いんだからぁっ!」
涙目で震えながら叫ぶエイミーに、ビアトリスは困惑していた。
「……えっと、さすがにそこまでじゃないと思うけど。……私、エドさまと同じ様な態度の人を他にも知っているし」
「えぇっ! あのエドウィンに張り合うなんて、そんな命知らずの人がいるの! いったいどこの誰よ? 巻きこまれたくないから、名前を教えて!」
エイミーは鬼気迫る表情で詰め寄ってくる。
「ちょっと落ち着いて! その人は、こっちの世界の人じゃないから!」
そう言えば、エイミーは「ああ」と頷いた。
「転生する前の恋人なのね。あなたって前世でも溺愛されていたのね」
いやいや違う。
ビアトリスは、ブンブンと首を横に振った。
「違うわ! 悠兄はただの幼なじみよ」
「えぇ? エドウィンと同じ態度だったんでしょう?」
「そうだけど」
「だったら恋人に決まっているじゃない。幼なじみってことは結婚できる相手よね? 婚約者がして不思議じゃ無いことを赤の他人がしたんなら、相手にあなたへの恋心がないとは思えないわ」
きっぱりと断言されて、ビアトリスは動揺した。




