表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/81

 ビアトリスとエイミーは、二人同時に勢いよく上を向く。

 右側の校舎、二階の窓から茶色い頭がのぞいている。取り立てて目立つところのない平凡顔は、間違いなくベンジャミンだ。


(ベンさま!)


 ビアトリスとエイミーの心の声が、ハモった――――と感じた。

 それくらい二人の動きは同じで、息がピッタリだったのだ。




「――――ベンジャミン」


 一方、エドウィンはいやそうな声をだす。

 そんな不機嫌丸出しの声もなんのその。ベンジャミンは話を続ける。


「もう、殿下、頼みますから道草しないでくださいよ~。後で騎士団長に怒られるのは私なんですからね。ホントはべったり張りついてスケジュール管理をしなくちゃいけないのに、学園では近づくなとか、無理難題を押しつけているのは殿下でしょう? きちんとやることやってもらわなきゃ困りますよ」


 グチグチとベンジャミンは不平不満をこぼす。まったく場を読まないセリフは、ある意味すごいと思う。


(ああ! こんなに長いセリフを聞くのは、はじめてなんじゃないかしら!)


 そんな愚痴にも感動し、ビアトリスは自分の胸の前で両手を組み合わせた。

 フッと見れば、エイミーも同じように手を組んでいる。


 場の空気を読まないのは、どっこいどっこいかもしれない。


 なおもうっとりとビアトリスが見上げていれば、唐突に手を引かれた。

 驚いて視線を移せば、そこにはエドウィンのどこかムッとしているような顔がある。


「え? エドさま?」


「帰ろう。ビアーテ。城に行く前に公爵家まで送るよ」


 表情を一変させたエドウィンは、ニッコリ笑ってそう言った。


 いや、急いで城に帰らなければならないのではないか? とか、エイミー突き飛ばし事件をどうするのだ? とか、もう少しベンさまを見ていたい! とか、いろいろ言いたいことはあったのだが――――ビアトリスは、言葉を呑みこむ。


 とてもなにか言えるような雰囲気ではなかったのだ。



(笑顔なのに……怖い!)



「…………はい」


 彼女が頷いた途端、エドウィンはさっさと歩きだした。


「イェルド、悪いけど先に失礼するよ」


 後ろも見ずにそう告げる。


「ああ、かまわないよ。僕もずいぶん慣れたからね。もう一人で帰れるさ」


 イェルドは上機嫌な声を返してきた。

 あんまり機嫌がよさそうで、ちょっと不気味だ。


(絶対ろくなこと考えていなさそう!)


 エドウィンに半ば引き摺られるような形で歩きながら、ビアトリスは後ろを振り向いた。

 視界に入ってきたのは、目を眇めてエイミーを見つめるイェルドの姿だ。口角がニンマリ上がって弧を描いている。


(なんていうか、まるでネズミを見つけたネコみたい)


 ゾクゾク! と、再び背中に悪寒が走った。

 先ほどからずっとベンジャミンを見上げていたエイミーも、なにかを感じたのか体を震わせている。



(……え、えっと、イェルドの興味は引けたみたいだし、一応計画は成功なんじゃないかしら?)


 いまいち自信は持てないが、たぶんそう言っていいだろう。

 見て見ぬ振りで立ち去る予定のイェルドが、いまだに残っているのがその証拠だ。


(とりあえず! 後は任せたわよ、エイミー!)


 ビアトリスは、心の中でエイミーに手を合わせた。……合掌ではない、声援の祈りである。




「――――ビアーテ、前を向いていないと危ないよ」


 エドウィンと繋いでいる手が、ギュッと握られた。いつにない強さで、ちょっと痛いくらい。

 まるで「逃がさない」と言っているような気がしてしまう。


(……馬車に乗ったら、絶対今のことを聞かれるわよね。……ああ、どう言い訳しよう?)


 エイミーの心配をしている場合じゃなかったのだ。

 自分のためにも、心の中で手を合わすビアトリスだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ