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「ど、どうして、こちらに?」


「ちょうど通りかかったんだよ。イェルドと一緒にね。そうしたら、私の婚約者に対する不当な訴えが聞こえたんだ」


 どうやらエドウィンとイェルドは、連れだって帰るところだったらしい。

 予期せぬ王子の同行に、エイミーは焦っていたのだ。


(……『イェルド』と、名前で呼ぶようになったのね)


 ビアトリスは、現実逃避気味にそんなことを思った。

 しかし、どんなに考えたくない事態でも、現実から目は逸らせない。


(エドさまが出てくるなんて想定外だわ! どうしたらいいの?)


 焦っていれば、エドウィンが優しい笑みを向けてきた。


「大丈夫。私に任せておいて」


 そんな言葉をビアトリスにかけてくる。

 たいへん頼りになる優しい言葉だが、今このときに限っては余計なお世話だった。

 任せたくないビアトリスの前に出て、エドウィンは冷たい表情でエイミーを睨む。


「もう一度聞くよ。()を許せないって? もしもビアーテだと言うのなら、君は、他ならぬ私の婚約者を非難するんだ。それ相応の覚悟(・・)はあるんだよね?」


 まるっきり悪役の雰囲気とセリフである。

 エイミーは今にも泣き出しそうになっていたが、それでも健気に頑張った。



「……だ、だって、本当のことです! 私を突き飛ばしたのはムーアヘッド公爵令嬢ですから!」


「――――証拠は?」


「え?」


「証人でもいい。私のビアーテが君に危害を加えたところを見ていた者はいるのかな?」


 聞かれてエイミーは言葉に詰まった。

 ビアトリスも固まってしまう。


 証拠なんてない。


 あえて言うのなら、今のこの状況がそっくりそのまま状況証拠なのだが、エドウィンにその主張が通じるとは思えない。


(すれ違いざま、エイミーが自分で勝手に転んだんだろう? くらいは言いそうよね?)


 証人は、たった一人(・・)だけ。

 そうなるように、ビアトリスとエイミーが企んだのだから、当然だ。


 エイミーは、そのたった一人の証人――――イェルドに視線を向けた。


 たしかにビアトリスがエイミーを突き飛ばした瞬間を見ていたはずの男は、薄笑いを浮かべるばかり。口をだす素振りは少しもない。


(まあ、そうよね。ゲームでも『見て見ぬ振りをして立ち去る』キャラなんだもの)


 ビアトリスは、心の中でため息をついた。

 エイミーは、グッと拳を握りしめる。


「そんなものなくたって、実際に被害に遭った私が、ムーアヘッド公爵令嬢のやったことだって一番わかっているんです! 自分を突き飛ばした相手に文句を言って、なにが悪いんですか?」


 至極真っ当な主張である。

 しかしエドウィンは、これ見よがしの大きなため息をついた。


「悪いに決まっている。証拠も証人もなく、私のビアーテを責めるなど、ずいぶん大胆な真似をしてくれるね? ビアーテは理由もなく他人を突き飛ばすようなことはしないし、百歩譲って、もししたのだとしても、それにはやむにやまれぬ理由があるはずだ。それを感情だけで怒鳴り散らして責めるなど……許せない(・・・・)な」


 ゾクリと、ビアトリスの背中に悪寒が走った。

 エイミーも同じなのだろう。顔色が青を通り越し蝋のように白くなっていく。


 エドウィンは、本気で怒っていた。

 ビアトリスからは彼の背中しか見えないのだが、それでも怒りが伝わってくるのだ。


(なっ! なんでこんなことになっているの? おかしいわ! いくらイベントをしていないといっても、エイミーは乙女ゲームのヒロインで、エドさまはメイン攻略対象者なのに! なにがなくても好感を持ちやすい相手でしょう? ……ここまで敵意を向けるなんて、ありえない!)


 どうすればいいのかと焦っていれば、頭上から声が聞こえてきた。


「あれ~? 殿下、まだそんなところにおられたのですか? もうとっくに帰られたと思っていたのに。今日は騎士団と打ち合せがあるって、おっしゃっていませんでしたか?」


 どこかのんきな声には、聞き覚えがあった。

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