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その後、なんとか言い合いを収めたビアトリスとエイミーは、当面の戦略を立てる。
「まずは出会いよ! 顔を覚えてもらっているかどうかもわからないクラスメートから、気になる女の子にランクアップしなきゃ、お話にならないわ」
拳を握り力説するビアトリスに、エイミーは真剣な表情で聞き返す。
「ゲームではそうなっていたの?」
「私も一回しかしていないし、メリバエンドだったから参考にならないと思うけど……たしか、最初のイベントは悪役令嬢にいじめられている現場に、偶然イェルドが通りかかって起こるんだったわ」
メリバエンドとは、メリーバッドエンドの略。見る人によってハッピーエンドかバッドエンドか判断の分かれる結末のことをいい、監禁エンドはその代表みたいなものだ。
(私的に監禁されるなんて、バッドエンドとしか言いようがないけれど)
「イェルドがいじめから助けてくれるの?」
「まさか! あいつがそんなヒーローキャラのはずないでしょう? 見て見ぬ振りをして通りすぎるわよ。ただ、そのときのヒロインの対応を見て興味を持つの」
「興味?」
「そう。だからプレイヤーの選択肢は、いじめを受けたときの対応に現れるのよ。――――A じっと我慢する。B 相手の目を見て抗議する。C 後で百倍返しにする。――――この三つの中からどれを選ぶかでイェルドの好感度が変わってくるみたい」
「はぁ~?」
エイミーは、心底呆れたみたいな声を上げた。
「なに、その選択肢? AとBはともかく、Cは乙女ゲームとしてありえないでしょう?」
「そこは、ほら、イェルドルートだから? なんというか、イェルドの好感度が上がりそうな選択肢じゃない?」
「ないない! それで好感度が上がる攻略者って、どうなの?」
ビアトリスだって、そう思う。
でも、それがイェルドなのだ。
「……まさか正解はCじゃないわよね?」
「そんなのわからないわ。ただ、私はAを選んでメリバエンドになったけど」
ビアトリスの言葉にエイミーは驚いたようだ。
「へぇ? Aを選んだの。てっきりBだと思ったわ」
「……ちょっと当時はね。そういういじめをしてくる相手になにを言っても通じないって実感していたのよ」
あのときの千愛がAを選んだ理由は、ただそれだけだ。
「ふ~ん。あなたもいろいろあったのね。……まあ、だからって同情なんてしないけど。私は絶対Bだわ!」
胸を張り言い切るエイミーが、少し眩しい。
「イェルドの好感度は上がらないかもしれないわよ?」
「だからなによ? イベントはそれだけじゃないでしょう? ここで失敗しても次で頑張ればいいだけだわ。……それに、この世界は乙女ゲームの世界かもしれないけれど、今の私たちには現実なのよ。イベントだけ無難にこなしていればいいわけじゃないもの。いつもの自分と違う選択肢をして普段の生活でボロを出したら、そっちの方が怖いわ」
エイミーは、ツンとしてそう言った。
ビアトリスは、呆気にとられてしまう。
「――――意外だわ。案外考えているのね?」
「ちょっと! 私を誰だと思っているの?」
「ヒロインよ! つまりは、脳天気でなにもしなくても周囲に愛されるお気楽キャラでしょう?」
「なんですって! そんな都合のいい存在、いるはずないでしょう!」
ビアトリスとエイミーは、再びぎゃんぎゃんと言い争う。
この日、イェルドとの邂逅イベントの話し合いがなんとか纏まったのは、奇跡としか言いようがないことだった。




