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そして、その機会は思いのほか早くやってきた。
放課後、帰ろうとしたビアトリスに、いつも一緒に帰るエドウィンが両手を合わせて謝ってきたのだ。
「ごめん、ビアーテ。学園長に頼まれて、転校生のリングビスト君に学園内を案内することになってしまったんだ。今日は一人で帰ってほしい」
王子同士、きっと内緒の話があるのだろう。
もちろんビアトリスは、快諾した。
(それにしても、イェルドの正体は私にも内緒なのね? ちょっと寂しいけれど……エドさまのことだもの、情報を知った私が危険な目に遭わないようにっていう配慮なのかもしれないわ)
彼女自身、そんなヤバい情報、進んで知りたいとは思わない。
(ずっと内緒にしていてくれたらベストよね)
エドウィンと別れたビアトリスは、その足でエイミーを探した。
五分後に肩を落としトボトボと歩いていた彼女を発見。即行で確保して、自分の馬車に連れこむ。
「エ、エ、エドウィン殿下は?」
何故か一番にそう聞かれた。
「エドさまはご一緒じゃないわ。理由はわかるでしょう?」
エイミーは、あからさまにホッとする。
その態度にちょっと引っかかったビアトリスだが、今はそんなことよりとエイミーに詰め寄った。
「ちょっと! 隠しキャラの登場なんて、いったいどうしてくれるのよ!」
馬車は防音になっているので遠慮なく怒鳴られる。
「うううぅぅっ……どうしよう? 私は、いったいどうしたらいいのぉ~」
エイミーは、泣きだした。可愛い顔をクシャクシャにして、目から涙がドバァーと出る。
「――――泣いている場合?」
「うわぁぁぁ~ん! イェルド怖いよぉぉ~。ラスボスじゃん!」
「ラスボスじゃなくて、隠しキャラでしょう!」
「紛う方なきラスボスだもん! 攻略サイト見たことないの? 『暗殺された』とか『誘拐からの監禁』とか『戦争で爆死』とか、バッドエンドのあまりの多さに、乙女ゲーム最凶魔王の呼び名をほしいままにしているキャラじゃない!」
悲痛なエイミーの叫びに、ビアトリスは視線を逸らした。
そのサイトは見たことがある。まったくその通りだと千愛も思ったものだ。
「どんなにラスボスでも、出現したからには戦う以外ないでしょう? だいたい、誰のせいでイェルドが出てきたと思っているのよ?」
ビアトリスが問い詰めれば、今度はエイミーが視線を逸らす。
「……やっぱり、私?」
「決まっているでしょう! あなたがさっさとエドさまを攻略していれば、隠しキャラなんて出てこなかったのよ!」
「エドウィンの攻略なんて、絶対無理よ! それに私はベンジャミンさま一筋のモブ担だもの! 彼に会うためだけにエドウィンルートを攻略して、最初の一回以外は、ベンジャミンさまの出番がなくなった瞬間にゲームリセット。また一からやり直していたのよ! 隠しキャラルートにベンジャミンさまが絡まないのは攻略本で知っていたから、イェルドなんて、影も形も見たことないし!」
それは、筋金入りのモブ担だ。同じモブ担の千愛でさえ、隠しキャラルートを一回だけ挑戦している。誘拐からの監禁ルートになって、そっとリセットボタンを押した苦い思い出があった。
(本当に怖いルートだったわ。……なにが怖かったかって、誘拐するのはイェルドの敵だけど、監禁するのはイェルド自身だってところよね。――――『外の世界は危険だ。もう誰も僕から君を引き離せないように、二人で一生ここにいよう』――――とか言っちゃって、笑って閉じこめてくるんだもの! すごく美麗な笑顔のスチルだったけど、内容的に絶対アウトだわ!)
いくらイケメンでも、ヤンデレ監禁お断り!
やっぱり世の中、平凡モブキャラが一番だ。
「ともかく! 出てきてしまったものは仕方ないわ! なんとしても無難に攻略してもらうから、覚悟してね!」
ビアトリスは居丈高に怒鳴った。




