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転生ヒロイン地雷を踏む

 エイミーの前世は、ゲーム好きで引き籠もり気味の女子高生だった。

 別に友だちがいないとかいじめられていたとかではないのだが、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり言ってしまう性格で、周囲となあなあで馴れ合える人間ではなかった。


(家族や友だちは私の性格をわかってくれていたし、たいして興味を持てないようなその他大勢と無理に仲良くしたいと思わなかったから全然不満はなかったんだけど……世の中にはいるのよね、「みんな仲良く」をモットーに善意の押し売りをする人が)


 彼女の場合、それはクラスのリーダー的な存在のイケメンだった。

 彼に悪気はなかったのだろうが、彼女を一方的に『可哀相な子』認定したイケメンは前世のエイミーの生活を引っかき回し滅茶苦茶にしてくれた。


 このためエイミーはイケメンが大嫌いになった。


 乙女ゲームは好きなので続けてやってはいたが、もはやイケメン攻略対象者に興味は持てず、好意を向けるのはモブキャラオンリー。ついには、モブ推しの立派な『モブ担』となった。


 そんな自分が乙女ゲームのヒロインに転生するなんてなんの冗談かと思ったのだが、このゲームの中にはモブキャラの中でも一推しだった『ベンジャミン』がいる。


(こうなったからには、ベンさまを攻略してやるわ! 今の私にとってここは現実。ベンさまとおつき合いするのも不可能じゃないもの!)


 鼻息荒く決意し、エイミーは学園生活に挑む。攻略対象者とのイベントはすべてスルー。憧れのベンジャミンとも入学式早々会うことができたし、話もできたため大満足だった。



 しかし、その後の進展は思うようにいかない。

 ゲームの中でベンジャミンと知り合うためには、彼の主人であるエドウィンの攻略が必須条件だ。

 そのせいなのか、ベンジャミンは会いに行っても不在だったりすれ違いだったりと、顔を見ることさえ難しかった。


(モブなのに、どうしてこんなに攻略難易度が高いの)


 嘆いていれば、思わぬ事実が発覚する。

 なんと、悪役令嬢のビアトリスがエイミーと同じく日本からの転生者だったのだ。

 しかも、狙いも同じモブキャラのベンジャミン。

 ビアトリスも、エイミー同様の『モブ担』で『同担拒否』だった。


「あなたはヒロインでしょう! さっさと王子を攻略しなさいよ!」

「あなたは王子の婚約者でしょう! 絶対邪魔しないから、そのまま結婚してちょうだい!」


 ビアトリスをはっきりと敵認定したエイミーは、焦り警戒する。

 しかし、幸いなことにビアトリスは王子の婚約者。立場上か学園を欠席することが増え、エイミーは、今がチャンスと思った。

 急いでベンジャミンに接近しようと思ったところに、ビアトリスからの招待状が届く。クラスの令嬢全員の参加を求められたため、渋々参加した。


 そしてそこで事件は起こってしまう。


 エイミーは、メイン攻略対象者のエドウィンと密室に閉じこめられてしまったのだ。



「ビアーテ、遅れてすまない――――あ?」

「え?」


 突然のエドウィンの登場に驚いていれば、その直後にバタンとドアが閉まりガチャンと鍵のかかる音がする。


(やられたわ!)


 咄嗟にそう思った。これは間違いなくビアトリスの策略だ。未婚の男女が長時間ひとつの部屋にいれば、それだけで大きなスキャンダルになる。


(こんなベタな手を使ってくるなんて、なんて姑息な悪役令嬢なの!)


 心の中で悪態をついても事態は好転しなかった。どうしようと焦っていれば「ハー」という大きなため息が聞こえてくる。

 部屋の中には二人だけ。当然ため息をついたのはエドウィンだ。

 ドアの方を見れば、そこには酷く冷たい表情をした王子がいた。

 思わずエイミーは体を震わせる。

 それほど彼女を見るエドウィンの目は怖ろしかったのだ。


(え? エドウィンってこんなキャラだった? そりゃあ、むやみやたらに愛嬌を振りまくキャラじゃないけれど、基本優しい王子さまなはずなのに?)


 動けず見つめれば、エドウィンは忌々しそうに前髪をかき上げる。


「君は、エイミー・スウィニー男爵令嬢か。……正直、私は君がベンジャミンとどうなろうとまったく興味は無い(・・・・・・・・・)が、君が余計なことをするとビアーテの関心が君に向く。彼女を煽るのだけはやめてもらいたいな。……しばらくは行動を控え大人しくしているように」


 低い声で命じられた。



「は?」


(え? 今、この人ベンジャミンって言った? 私がベンさまを好きだってことを知っているの? しかもそれでビアトリスを煽るって――――いったいなにをどこまで知っているの? ひょっとしてこの人も転生者?)


 その証拠はない。

 今の言葉だって、転生者でなくとも、エイミーとビアトリスがベンジャミンを好きだと知っていれば話せる内容だ。


 どう考えていいかわからず呆然としていれば、エドウィンはフッと笑った。


「まったく、ビアーテも困った子だ」


 そう呟くと、おもむろにドアに向かって足を振り上げる。


『ドゴォォッォ~ン!』と、派手な音がした。

 エドウィンがドアを蹴った音だ。


 エイミーは思わず耳を塞ぐ。

 見ればドアは大きく歪んでいた。


(へ? ウソっ! あの重いドアが凹んでいる?)


 エドウィンは、何事もなかったかのようにドアの前に立っている。


「フム。案外丈夫だな。さすがムーアヘッド公爵家のドアか。ビアーテを守るにはこのくらいの強度は必要だからな」


 呟きながら、もう一度足を振り上げた。



『ドドドゴォォォッッンンンン!』



「きゃぁぁぁっ!」



『バキバキ!』『メリメリ!』『ドスン!』と音がして、今度こそドアは倒れてしまう。




「――――へ?」


 あまりのことにエイミーは、言葉もなかった。

 目を瞠る彼女の目の前で、エドウィンはたった今倒れたばかりのドアをヒョイと避けながら部屋から出ていく。



「やあ、ビアーテ」


 嬉しそうな声が聞こえて、エイミーはガクガクと震えだした。

 エドウィンと一緒に部屋を出ればいいのだが、とてもじゃないが動けない。


(あんな丈夫そうなドアを蹴破るなんて、尋常じゃないわ! それに、私にした命令といい――――エドウィン、怖すぎる!)


 その場からエドウィンとビアトリスの気配がなくなってから、エイミーは即行で自宅に戻った。


 その後、うんうんうなされながらビアトリスに対し手紙を書く。



『とりあえず休戦にしとくから、私には構わないで!』



 絶対エドウィンには逆らわないと心に刻んだエイミーだった。


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