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 わけのわからないことに悩んでいても、時間は進む。


「――――どうしたの? この演劇は気に入らなかった?」


 隣にピッタリくっついて座るエドウィンに気遣わしそうに聞かれて、ビアトリスは我に返った。


「いいえ。そんなことありません。とても素敵なお話だと思います」

 今日は、先日約束した王立歌劇団の創立記念公演会に二人できている。

 クラスの令嬢を招いた親睦会の後もビアトリスは、学園に行けない日々が続いていた。


(今日もそうだけど、最近王族の皆さまが体調を崩すことが多いのだもの)


 その度にエドウィンとビアトリスに白羽の矢が立つ。

 昨日は騎士団の閲覧式で、一昨日は学術功労者表彰。

 騎士団の方は国王夫妻の代理で学術功労者表彰は、ダートナー公夫妻の代理だ。

 ダートナー公は先代国王の末の弟君で、エドウィンにとっては、大叔父になる。


(こんなに体調を崩す方が続くなんて……王族方に、なにか悪い病気が流行っているのじゃなければいいんだけど)


 ビアトリスは、心配で表情を曇らせる。


(まあ、でもどの方たちも翌日には元気になって、お礼を言ってくださるから大丈夫よね? それより問題は私がますます学園に登校できないことだわ! ベンさまにも会えないし、エイミーの手紙の真意もわからないから、一日でも早く登校したいのに!)


「――――ビアーテ、本当に楽しんでいるかい? つまらないのだったら無理をしなくていいんだよ。今すぐ城に帰ろうか?」


 いろいろ悩んでいれば、エドウィンに心配されてしまった。

 主賓である第一王子とその婚約者が途中退席などしようものなら、劇団側は阿鼻叫喚の大騒ぎになるに決まっている。

 ビアトリスは慌てて首を横に振った。


「無理なんてしていません! 演劇は本当に面白いですわ。こういう展開は、大好きなんです!」


 それは、満更嘘でもない。今日の劇のシナリオはビアトリスの好みにぴったりなのだ。


(前世で悠兄と一緒に見たことのある演劇と似ているわ。事前に調べてみたけど、ロマンスの王道で、ちょっとハラハラするけれど、安心して見られるハッピーエンドものみたいよね。前世のお話もとても面白かったわ。……ただ、すごく人気のある俳優さんが出たから、チケットを取るのが大変だったみたい。悠兄は、なんにも言わなかったけれど、わざわざ私のところにきて『ワガママも大概にして!』って、怒鳴った女の人がいたもの)


 自称『柴田さまのファンクラブ会長』だというその女性は、千愛のワガママに振り回される悠人が可哀相で忠告にきたのだそうだ。『柴田さまを解放してあげて!』と、真っ赤な顔で叫んでいた。


(自分で自分の言葉に酔っていたみたい。私から演劇のチケットを強請ったことなんて、一度もないのに)


 さすがに、ムッとした。

 まともに相手にするのもいやだったので無視していたら、掴みかかってこようとして、危ないところを悠人に助け出されたものだ。

 その後、彼女の姿を見たことはない。一度どうしているのか悠人に聞いたことがあるのだが『二度と近づいてこられないようにしたから気にしなくていい』と、言われてしまった。

 どういう意味かは――――ちょっと怖くて、聞けない。

 世の中には知らない方がいいことがたくさんあるのである。


「頑張っているヒロインが幸せになる物語は、大好きですわ」


 エドウィンの顔を見ながら伝えれば、端整な顔が少し歪んだ。


「……知っている」


「エドさま?」


「幸せになろうね。…………私たちは」


 それは、いったいどういうことだろうか?

(私たちはって、他の誰かは幸せになれなかったってことなの? そんな人いたかしら? それとも、まさかこの演劇のこと? エドさま、ハッピーエンドものだって知らないの?)



「エドさま! 大丈夫です。間違いなくハッピーエンドになりますから」



 急いで教えてあげれば、エドウィンはクスリと笑う。


「ああ、そうだね。必ずハッピーエンドになるよ。……必ずね」


 力強く断言するエドウィンに、案外演劇好きだったのね? と、驚くビアトリスだった。



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