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そして移った別室に、エイミーを招き入れる。
「少し待っていてくださる? 食べ物と飲み物を運んでくれるように指示してくるわ」
一旦ソファーに座らせてから、そう言い置いて室外に出た。
その後、そのまま廊下の物陰に隠れて待機。ジッと息を潜ませる。
ものの五分もしないうちに、待ち人がやってきた。
スラリとした長身を黒のジュストコールに包み、優雅に歩く青年。それは、王宮での仕事を終えて駆けつけてきてくれたエドウィンだった。
きっと急いできたはずなのに、彼の服装はもちろん息の乱れもない。
完璧な王子さまの姿に、ビアトリスは感心した。
エドウィンには今日クラスのご令嬢たちを招いて親睦会をすることをあらかじめ伝えてある。
そして、もしできればその場で一言挨拶がほしいことと、その前にお話がしたいと招待状に書いたのだ。
公爵邸にきたら、まず指定した部屋にきてほしいとも。
(約束通りの時間にきてくださるとか、エドさまは律儀だわ)
その律儀な彼を、ビアトリスはこれから嵌めなければならない。
(すべては、私とベンさまの輝かしい未来のため! 協力をお願いしますエドさま!)
心の中でビアトリスが願っている間に、エドウィンは彼女が指定した部屋――――エイミーが中にいる部屋の前にやってきた。
一度立ち止まったエドウィンは、クラバットの位置をキュッと直す。
自分の服装を見直して、それからドアを開けた。
「ビアーテ、遅れて済まない――――」
まったく遅れてもいないのに、そう断って入っていく。
「――――あ?」
「え?」
開けたドアが自動的に閉まる寸前、部屋の中からは驚いたような二つの声が聞こえた。
ビアトリスは、急いで隠れていた場所から飛び出し、バタンとドアが閉まると同時にガチャンと鍵をかける。
実は、この部屋の鍵は外鍵で、中からは開けられないようになっていた。
(つまり、乙女ゲームや学園恋愛マンガの定番、体育館倉庫イベントなのよ!)
体育館倉庫イベントとは、ヒロインが恋心を抱くヒーローと二人っきりで偶然閉じこめられてしまうという、恋愛モノにはお約束のイベントだ。
誰かが捜しにきてくれるまで、二人だけというシチュエーションの中でヒロインとヒーローは想いをたしかめあったり、キスしたり、ともすればそれ以上のこともするのだ。
(ここは体育館倉庫ではないけれど、でもそのくらいは許してもらえるわよね?)
要は、ヒロインと攻略対象者が密室に閉じこめられれば、それでオーケーだ。
(エイミーがゲームのイベントを避けまくっているせいで、エドさまとエイミーには今までこういう場面がなかったのよ。ここは、ぜひこの機会を利用して好感度を上げてほしいわ!)
ビアトリスは心からそう願った。
それに、万が一うまくいかなくても、エドウィンとエイミーが二人きりで密室に長時間閉じこめられたという事実が知れ渡れば、それだけでも収穫はある。
貴族令嬢にとって男性と二人っきりで部屋にいたなんて、それだけでもとんでもないスキャンダルになるからだ。
(あとは私が、一時間後くらいにクラスのみんなを連れてきて、二人を発見すればいいわよね。きっとあっという間に学園中に噂が広まるわ)
そんなことになれば、エイミーは結婚も婚約もエドウィン以外の誰ともできなくなるに違いない。
そうなれば優しいエドウィンは、きっと責任を取ってエイミーと結婚すると言い出すことだろう。
(多少罪悪感は湧くけれど……でも、大丈夫。二人は相性バッチリのヒロインとメイン攻略対象者なんだもの。結婚すれば絶対うまくいくに決まっているわ! そうしたら私は無事に婚約破棄されるから、その後で押しの一手でベンさまに迫って、彼と結婚してみせるのよ!)
ビアトリスは、決意も新たに前を向く。
とりあえずこの場から離れようと背を向けて――――背後から聞こえた『ドゴォォッォ~ン!』という音に、焦って振り返った。




