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 ――――その確信が儚い幻想だったと判明したのは、一週間後のことだ。


 場所は学園の教室。

 今日は公務のため一旦学園を早退したエドウィンなのだが、ビアトリスの足が心配な彼は、即行で仕事を終え、婚約者を送るためだけに学園に戻ってきていた。

 既にほとんどの生徒が、帰宅したり課外活動に出ていたりで、教室はほとんど無人になっている。

 それなのに、ビアトリスはまだ教室に残っていた。

 彼女を待つ公爵家の馬車の御者から、それを聞いたエドウィンは、やはり足の具合がよくないのかと不安に思う。


 心配しながら教室に近づけば、なにやら言い争う声が聞こえてきた。


(残っているのは、ビアーテだけではなかったのか?)


 不穏な雰囲気に耳を澄ます。



「――――さっさとエドさまを攻略して、ハッピーエンドになりなさいよ! それがヒロインの役目でしょう!」



 大声で怒鳴っているのはビアトリス。


(は? ――――俺を攻略? それに、ヒロイン?)


「……え? ビアトリス……さま?」


「今さら『さま』付けで呼んでもらわなくて結構よ。あなたはヒロイン、私は悪役令嬢。わたしたちは敵同士なんだから!」



 エドウィンは、愕然とした。


(悪役令嬢? ビアーテが?)


 その後も、ビアトリスと誰かは、なにかを怒鳴りあっている。

 しかし、あまりに驚きすぎたエドウィンの頭には、言葉が入ってこなかった。


(ヒロインと悪役令嬢……といえば千愛が好きだった乙女ゲームのことか? ……それの攻略対象? 俺が?)


 前世ではゲームをそれなりにやった悠人だが、さすがに女性の好む乙女ゲームには手を出していない。ただ、千愛に頼まれて、誕生日だかクリスマスだかのプレゼントとして買ってあげたことがあった。


(やたらキラキラしいイケメンキャラがパッケージを飾っていて、千愛に『こういう男が好みなのか?』と聞いたら、きっぱり『違う』と言われたんだよな)


 パッケージの中心にいるのだから、そのキャラが主人公なのだと、悠人は思ったのだ。

 なんで好みでもない主人公の出るゲームをするのか不思議になったのだが、イケメンは主人公ではなくメイン攻略対象者。悠人は、そのときはじめて乙女ゲームの概念を知った。


(要は、恋愛シミュレーションゲームの女性版なんだよな。ヒロインが複数の攻略対象者と恋をするゲームだ……と、思う)


 男性向けであれ女性向けであれ、恋愛シミュレーションゲームそのものをやったことのない悠人には、よくわからないことなのだが――――。

 しかし、その乙女ゲームの用語が、なんで、今、ここで、怒鳴られているのだろう?

 しかも、エドウィンのみならず、ビアトリス自身もゲームの登場人物のような言い方をして。




(まさか、ここはゲームの世界なのか?)


 前世の大学時代の友人に、そんなラノベに嵌まっていた奴がいた。


(たしか、ゲームのキャラに転生した現代人が、ストーリーをぶち壊して自分の幸せを掴む話だった。今の流行りだから読んでみろって、しつこく勧められたんだ)


 結局悠人は読まなかったのだが……それと同じことが、自分たちに起こっているのだろうか?


 エドウィンは、混乱してしまう。


 しかし、その中でもたったひとつだけ、はっきりとわかったことがあった。



(そうか。千愛には前世の記憶があるんだな)



 どうやらそれだけは、間違いない事実のようだった。


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