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 そんなボッチの千愛の趣味は、ゲームだった。王道のRPGからアクション系、シミュレーションやパスルゲームまで、いろんなジャンルに手をだしていて、特に乙女ゲームが大好きだ。


(私だって女の子なんだもの。心ときめく恋愛には憧れていたのよ!)


 小学生高学年頃から乙女ゲームに嵌まった千愛のゲーム歴は十年ほど。最初はキラキラしたイケメン攻略対象者との仮想恋愛を心の底から楽しんでいた。

 しかし、幼なじみの悠人を原因としたいじめが酷くなってきたのもちょうどその頃で、千愛はだんだんゲームのイケメン攻略対象者の言動に苦痛を覚えるようになってしまう。ゲームのヒロインの中には、能力はともかく容姿は平凡と設定されている者もいて、多くの場合、美人で意地悪な悪役令嬢にいじめられるからだ。

 ヒロインの境遇が自分と重なってしまうのである。


(もちろんヒロインは、いじめに負けたりしないでイケメン攻略対象者と幸せになるんだし、最初はそこがよかったんだけれど……でも、現実はゲームみたいに上手くいかないのよね)


 そんな中、目に留まったのが、攻略対象者の傍らにいるモブキャラだった。彼らは、ゲームの進行にはほとんど関わりがないものの、さり気なくその場に存在している。


(なになに、この攻略対象者の友人Aってとってもいい人じゃない? 好感度を教えてくれたり、居場所を教えてくれたり、派手なイケメンじゃないけど、普通に優しいわ!)


 そう思って注目すれば、イケメン攻略対象者にはないモブキャラの当たり前の言動に好感を持つようになってきた。なにより平凡な容姿が、千愛の心に親近感と安らぎを与えてくれる。


(モブキャラ最高! ああ、どうしてこの人とのハッピーエンドがないのかしら?)


 よくよく考えてみれば、恋愛はともかく結婚するのなら、ずっと一生その人と生きていかなければならない。どんなにイケメンでも、年を取ればしわだらけの老人になるんだし、ひょっとしたらハゲ親父になってしまう可能性だってある。

 そうであれば、重要なのは顔の美醜ではないんじゃないかと思った。


(イケメンかどうかなんてどうでもいいわ。私が好ましいと思うのは、モブキャラの安心安全で地味な存在感よ!)


 目から鱗。それに気づいた千愛は、その後は乙女ゲームをする際には、攻略対象者よりもその周囲のモブキャラに注目するようになった。


(ああ、このモブキャラは、目は小さいけれどいつもニコニコしていて優しそうだわ。こっちのモブキャラは、ぽっちゃりだけど、きっと性格も太っ腹でおおらかなんでしょうね)


 アイドルグループなどで、自分が一番好きなメンバーを応援することを、その人を『担当』するという。そういった意味で言うのなら、千愛は間違いなく乙女ゲームのモブキャラ担当、略して『モブ担』になった。

 しかも、徹底した『同担拒否』――――同じメンバーを応援する人は断固お断り! のタイプである。


(攻略対象者は五人も十人もいるけれど、ゲームにきちんと描かれるようなモブキャラは、一人か二人だけなんだもの。しかも私はそんな稀少なモブキャラを結婚したいくらいに好きなのよ。誰かと一緒に共有して愛でるなんて、絶対無理だわ!)


 千愛は、独占欲の強い性格のようだった。

 まあ、世の中にそれほどモブキャラ好きがいるはずもないので、問題はないだろう。

 それからも、千愛のモブキャラ愛は日々深まるばかり。


(もしも乙女ゲームのヒロインに転生したとしても、私は絶対モブキャラと結婚したいわ! ……ああ、でもどうせ転生するのなら、いじめられるヒロインより悪役令嬢の方がいいわよね!)


 ――――それを、人はフラグを立てると呼ぶ。

 自分が立ててしまった不穏なフラグには気づかずに、今日も千愛はゲームに嵌まっていた。



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