2
そんな彼の目に、ある日、はじめて鮮やかな色が飛びこんでくる。
それは萌える若葉のごとき新緑で、キラキラと輝いていた。
しかも、二つだ。
(いったいどうして? ……ああ、でも、この輝きは見たことがある!)
前世も合わせれば何十年ぶりかの興奮をおさえて見つめれば、二つの緑の輝きが少女の目だとわかった。
(どうして、彼女の目の色だけが鮮やかに見えるんだ?)
少し考えれば、答えはすぐに判明する。
二つの目の輝きは、色こそ違えど前世で愛した幼なじみの眼差しと同じだったから。
(まさか! …………千愛、君なのか?)
彼自身が転生しているのだ、その可能性はゼロではない。
それになにより、彼自身が千愛を見間違えるはずがなかった。
その日は、エドウィンの誕生会で、同時に婚約者候補のご令嬢たちとの顔合わせの日。
千愛と思われる少女は、集められた貴族令嬢の一人だ。
名前は、ビアトリス。銀の髪も美しい、ムーアヘッド公爵家の一人娘だ。
あらかじめ姿絵を見せられていたエドウィンは、すぐさまそれを思いだす。
(絵からは、こんな輝きを知ることはできなかったけれど)
「はじめまして、ムーアヘッド公爵令嬢。少しお話してもよろしいですか?」
興奮を隠し、彼は丁寧にビアトリスに話しかけた。
驚いた少女は、ポカンと口を開く。
まさか、エドウィン自身から声をかけられるとは、思ってもいなかったのだろう。
(ああ、こんな顔も可愛いな)
心から、そう思った。
周囲を見回せば、彼女のみならず他の誰もが驚いた表情で彼を見ている。
父である国王なんて玉座から腰を浮かしかけているほど。
「はい。殿下、よろこんで」
そんな中、あっという間に気持ちを切り替えたらしいビアトリスは、ニッコリ笑ってそう返してきた。
(ああ、千愛の笑顔だ)
「ありがとう。ムーアヘッド公爵令嬢」
「どうぞ、ビアトリスとお呼びください」
「では、ビアトリス。私のこともエドウィンと呼んでください」
「はい。エドウィンさま」
名前を呼ばれただけで、天にも昇る心地になる。
同時に、五歳の少女とは思えない落ち着きように、内心舌を巻いた。
(まさか、前世の記憶を持っているのか?)
たしかめるのは、……怖いと思う。
――――千愛は、彼のせいで死んだのだから。
(俺が悠人だと気づいたら、千愛は逃げようとするかもしれない。……その前に、絶対逃げられないようにしなければ!)
昏い決意をエドウィンは固める。
出会える前ならばいざ知らず、もう、彼女なしの人生など考えられなかった。
手を差し伸べれば、ビアトリスはその手に自分の手を重ねてくれる。
ギュッと強く握りしめた。
幼く小さな手は壊れそうで、でも力をゆるめることはできない。
(この手を離さない! ……離せない! 絶対に!)
どうすれば、彼女を手に入れられるだろう?
そればかりを考えるエドウィンだった。