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 そんな彼の目に、ある日、はじめて鮮やかな色が飛びこんでくる。

 それは萌える若葉のごとき新緑で、キラキラと輝いていた。

 しかも、二つだ。


(いったいどうして? ……ああ、でも、この輝きは見たことがある!)


 前世も合わせれば何十年ぶりかの興奮をおさえて見つめれば、二つの緑の輝きが少女の目だとわかった。


(どうして、彼女の目の色だけが鮮やかに見えるんだ?)


 少し考えれば、答えはすぐに判明する。

 二つの目の輝きは、色こそ違えど前世で愛した幼なじみの眼差しと同じだったから。



(まさか! …………千愛(・・)、君なのか?)



 彼自身が転生しているのだ、その可能性はゼロではない。

 それになにより、彼自身が千愛を見間違えるはずがなかった。


 その日は、エドウィンの誕生会で、同時に婚約者候補のご令嬢たちとの顔合わせの日。

 千愛と思われる少女は、集められた貴族令嬢の一人だ。

 名前は、ビアトリス。銀の髪も美しい、ムーアヘッド公爵家の一人娘だ。

 あらかじめ姿絵を見せられていたエドウィンは、すぐさまそれを思いだす。


(絵からは、こんな輝きを知ることはできなかったけれど)




「はじめまして、ムーアヘッド公爵令嬢。少しお話してもよろしいですか?」


 興奮を隠し、彼は丁寧にビアトリスに話しかけた。

 驚いた少女は、ポカンと口を開く。

 まさか、エドウィン自身から声をかけられるとは、思ってもいなかったのだろう。


(ああ、こんな顔も可愛いな)


 心から、そう思った。

 周囲を見回せば、彼女のみならず他の誰もが驚いた表情で彼を見ている。

 父である国王なんて玉座から腰を浮かしかけているほど。


「はい。殿下、よろこんで」


 そんな中、あっという間に気持ちを切り替えたらしいビアトリスは、ニッコリ笑ってそう返してきた。


(ああ、千愛の笑顔だ)


「ありがとう。ムーアヘッド公爵令嬢」

「どうぞ、ビアトリスとお呼びください」

「では、ビアトリス。私のこともエドウィンと呼んでください」

「はい。エドウィンさま」


 名前を呼ばれただけで、天にも昇る心地になる。

 同時に、五歳の少女とは思えない落ち着きように、内心舌を巻いた。


(まさか、前世の記憶を持っているのか?)


 たしかめるのは、……怖いと思う。


 ――――千愛は、彼のせいで死んだのだから。


(俺が悠人だと気づいたら、千愛は逃げようとするかもしれない。……その前に、絶対逃げられないようにしなければ!)


 昏い決意をエドウィンは固める。

 出会える前ならばいざ知らず、もう、彼女なしの人生など考えられなかった。


 手を差し伸べれば、ビアトリスはその手に自分の手を重ねてくれる。

 ギュッと強く握りしめた。

 幼く小さな手は壊れそうで、でも力をゆるめることはできない。



(この手を離さない! ……離せない! 絶対に!)



 どうすれば、彼女を手に入れられるだろう?

 そればかりを考えるエドウィンだった。

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