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 ――――そう。たしかに、そう思っていたときが、ビアトリスにもあった。


 もしも今のビアトリスが、あのときの自分に会えたなら、『なに、甘っちょろいこと言っているのよ! しっかりしなさい!』と、怒鳴りつけたことだろう。


(そう。あのときの私は、本当にどうかしていたわ。悪役令嬢とヒロインが手を取り合えると、本気で信じていたなんて。……そんなこと、あるはずないのに!)


 心の中でビアトリスは、過去の自分を叱りつける。

 彼女がそう思うようになったのは、たった今。

 場所は学園の教室で、放課後一人で帰り支度をするエイミーを、ビアトリスは廊下からそっと覗いている。

 周囲に他の生徒の気配はしない。

 足を挫いて一週間。捻挫そのものはもうかなりよくなっていたのだが、エドウィンから授業復帰の許可が出たのは昨日で、ようやく彼女は、自由に出歩けるようになった。

 しかも、本日エドウィンは王子独自の公務のため学園より早退している。

 このため、ビアトリスはこれ幸いとエイミーの後をつけ回していた。

 そして、先ほど彼女の独り言を聞くチャンスを得たのである。

 息を殺し、耳を澄ませたビアトリスの元に、決定的な言葉が聞こえてくる。


「あぁ~あ。今日もベンさまとお話できなかったわ。やっぱり、エドウィンの好感度を上げないと、ベンさまと親しくなるのは無理なのかしら? でも、メイン攻略対象者と関わるのなんて、絶対ごめんだし。なんとかうまくエドウィン抜きでベンさまと会えないかなぁ?」


 深いため息交じりの言葉は、聞き違いではありえない!


(やっぱり! エイミーは転生者だったんだわ!)


 彼女は『攻略対象者』と、はっきり言った。

 そして、同時に『ベンさま』とも!


(しかも、一国の王子を呼び捨てにして、そのお付きを『さま』呼びにするなんて!)


 ビアトリスは体を、ブルブルと震わせる。


(まさか? まさか! まさか! エイミーは、ただの転生ヒロインじゃなくて、私と同じ『モブ担』の転生者なの!)


 今のエイミーのセリフからは、そうとしか思えない。

 フツフツと心の奥底から、怒りが噴き出てきた。

 だって、ビアトリスは、『同担拒否』なのだから!


(なんてこと! やっぱりヒロインは悪役令嬢の敵なんだわ! わかりあえて協力し合えるなんて、夢のまた夢なのね!)


 そうとわかれば、黙ってなんていられない。

 ビアトリスは、覚悟を決めて教室の中へと駆けこんだ。


「ちょっと、貴女! ヒロインともあろう人が、攻略対象者に関わりたくないなんて、いったいなにを言っているの? さっさとエドさまを攻略して、ハッピーエンドになりなさいよ! それがヒロインの役目でしょう!」


 大声で怒鳴る。

 すると、ビクン! と震えたエイミーが、クルリと振り返った。


「……え? ビアトリス……さま?」


「今さら『さま』付けで呼んでもらわなくて結構よ。あなたはヒロイン、私は悪役令嬢。わたしたちは敵同士なんだから!」


 エイミーの青い目が、限界まで見開かれる。


「今、『ヒロイン』って……『悪役令嬢』って、言った? それに、さっきは『エドさまを攻略』って、言ったわよね?」


 ビアトリスは、腰に手を当て、これでもかと胸を張った。


「言ったわよ。――――ヒロインは貴女で、私は悪役令嬢。そしてエドさまは攻略対象者だもの」


 今度は、エイミーの赤い唇がポカンと開く。



「…………そんな! まさか……あなた、転生悪役令嬢なの?」



 まるで信じたくないと言いたいかのように、エイミーは首を横に振った。

 ビアトリスは、ますます胸を反らす。


「その通り。私はエドさまに婚約破棄される立派な悪役令嬢なのよ! そして、あなたは曲がりなりにもヒロインだわ。この世界に転生したからには、きっちりと役目を果たしてもらうわよ! 撤退なんて認めないから!」


 居丈高に言い放てば、エイミーはいやそうに顔を顰めた。


「そんなこと言われても、私、他人の婚約者を取るとか、無理なんで。――――ていうか、お互い転生者同士なんだもの。そんな高飛車に言わなくてもいいんじゃないの? 私がヒロインだってわかるってことは、あなたもこのゲームをやっていたんでしょう? あなたが悪役令嬢だからって、私は、あなたの不利になることなんてしないわよ」


 阿るようにエイミーは、そう話す。

 それが真実ならば、ビアトリスだってここまで敵意むきだしで対峙したりしなかっただろう。



「いいえ! あなたは私の敵よ!」



 ビアトリスは、ギン! とエイミーを睨んだ。


「そんなことしないって、言っているでしょう!」


 さすがにムッとしてエイミーも言い返してくる。


「いいえ! あなたは、既に私に宣戦布告をしたのよ! 私のベンさまを『ベンさま』と、呼んだ時点でね」


 ビアトリスの言葉を聞いたエイミーは、ハッ! と表情を引き締めた。

 次いで、訝しむように眉間にしわを寄せる。



「……誰のベンさまですって?」


「私のよ! 決まっているでしょう! 私は、ベンさま一推しのモブ担なんだから! しかも、断固、同担拒否よ!」


「モブ担? あなたも!」


 エイミーは、ビックリ顔で聞き返してくる。そして、見る見るうちに表情を険しくした。


「冗談じゃないわ! ベンさまは私のモノよ! 私だって、ベンさま命! のモブ担なんだから! あと、言うまでもないでしょうけど、私も断固、同担拒否よ!」


 可愛い顔を真っ赤にして、エイミーが怒鳴る。


「あなたはヒロインでしょう! さっさと王子を攻略しなさいよ!」


 もちろんビアトリスもまけていない。


「あなたは王子の婚約者でしょう! 絶対邪魔しないから、そのまま結婚してちょうだい!」


 バチバチバチ! と、二人は火花を散らして睨み合う。

 ――――この日、ビアトリスは、エイミーと敵同士になった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで カクヨムさんで  転生シリーズをそれなりに読んで来ましたが このパターンは初見です。 展開が全く読めないww ありがとうございます!
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