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真相究明! と意気ごんだビアトリスだが、ことはそう簡単ではなかった。
調べれば調べるほど謎が深まるばかりなのである。
幸いにして、ビアトリスとヒロインは同じクラスなのだが、片や王子の婚約者の公爵令嬢、片や田舎育ちの男爵令嬢と、立場も身分もまったく違う。当然二人に接点はなく、迂闊にビアトリスが興味を示しでもしたら、どんな憶測が飛び回るか想像もつかない状況だった。
(思うように動けないってもどかしいわ。ゲームではヒロインがエドさまにぶつかったから、私が彼女に目をつけてもなんの不思議もなかったんだけど、今の彼女はまったく目立たない普通の女子生徒なんだもの。私が気にかける理由がないわ)
そんな中でも、慎重に慎重を期しながら入学式以降のヒロインの行動調査を行った。
結果、判明した事実に首を傾げることになる。
まずヒロインは、エドウィンは元より彼以外の攻略対象者にも、全然近づいている様子がなかった。邂逅イベントは、ひとつも起こしていないし、その後のイベントも、今のところなにひとつ起こっていない。
ゲームとまるで違う行動をするヒロインの意図も目的も不明のままだ。
それでもなんとか調べた情報を、ビアトリスは頭の中で整理した。
まずヒロインの名前は、エイミー・スウィニー。
男爵令嬢だが本当の娘ではなく、現スウィニー男爵の妹が平民出身の傭兵と結ばれて産まれた一人娘。両親が不慮の事故で亡くなって、伯父である男爵に引き取られ養女となっている。
天真爛漫で可憐な癒し系美少女ながら頭もよく、たまたま男爵領を訪れた王立学園の副校長に見いだされ、学園で学ぶ機会を得たという。
(まあ、ここまではゲームの設定で知っている内容と同じなんだけど)
彼女が王都に着いたのは一週間前。当然制服も余裕を持って受け取って、入学式にも一時間前に登校した。式まで時間があったので、学園内のあちこちを夢中で見学して回り、おかげで入学式のはじまるギリギリに式場に飛びこんできたのだそうだ。
(このへんはゲームとまったく違うわ。ゲームでは入学式前日に王都に着く馬車に乗って、それが遅れて制服を受け取れなかったはずだし、それに入学式だって一時間も早く登校しなかったわ)
エイミーが学園に着いたのは、ビアトリスたちと同じくらいのはずだ。そうでなければエドウィンにぶつかることができない。
(ゲームとは違う事情があったのかしら? まさか、わざと早く登校したわけじゃないわよね?)
もしもわざとだとしたら、エイミーはイベントが起こることを知っていたことになるから、そんなことはありえない。
(きっとなにか事情があったのよ。この世界はゲームと同じ世界に見えるけど、まったく完全に同じじゃないもの)
その一番の証拠が、ビアトリス自身だ。
今のビアトリスはゲームのビアトリスとは、かなり違っているはず。
(だから、エイミーがゲームのヒロインと違う行動をとることは、十分ありえることだし、それは納得できるんだけど――――)
絶対納得できないことがある!
それは、エイミーが早く登校した一時間の間に、ベンジャミンと知り合いになり一緒に式場にきたことだ。
(なんで? どうして? わざわざ選りに選ってベンさまなの? 他にも学生は大勢いるし、なんなら他の攻略対象者で、早く登校していた人だっていたはずよ! どうせ知り合いになるなら、そっちの攻略対象者にしなさいよ! 私のベンさまと一緒に式場入りするなんて――――羨ましすぎるでしょう!)
要は、ビアトリスは嫉妬しているのだった。
指先が白くなるほどに力を入れて、ギュッと拳を握る。
本当はハンカチを噛み千切りたかったのだが、なんとか我慢した。
(私を! この私を差し置いて! ベンさまと仲良くなるなんて!)
心は血涙を流している。
(絶対! 絶対許せないわ。ヒロイン! ……いやさ、エイミー! こうなったら、徹底的に貴女とエドさまとの好感度アップイベントを応援してやるわ! そして、王子妃ハッピーエンドルートに邁進させてやるのよ! そうすれば、私はベンさまと幸せになれるもの!)
ビアトリスは、メラメラと闘志を燃やした。
転生悪役令嬢としては、果てしなく方向性が間違っているような気がするが……気にしない!
(次のイベントはなんだったかしら? 今度こそ、エイミーとエドさまをエンカウントさせなくっちゃ!)
決意を固めるビアトリスだった。