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告げられた内容に、人々が大きく騒めく。
セシアは思わず頭痛を耐えるようにこめかみを叩き、セリーヌを睨んだ。
「好き好んで私があんたの名を騙ってたみたいに言わないで頂戴。あんたの父親に脅されて、命令されて無理やり通わされていたのよ」
「ほぅら、皆聞いた?身分を偽って通っていた事実を認めたわ!」
セリーヌは勝ち誇った様子で囃立てるが、同時に自身の家のことも貶めていることは分かっているのだろうか?
「ディアーヌ家も罪に問われるわよ」
「構うもんですか!あんたを引き摺り下ろす為なら、わたくしは何でもするわ」
「馬鹿……!」
「何とでも仰い。何が男爵よ、何が王子妃よ!ドブネズミがわたくしより高い地位に就こうだなんて、分不相応なのよ!!」
セリーヌの叫びに、周囲の貴族達が顔を顰める。
「あんたが才女だの何だの持ち上げられてるのも気に入らないのよ、学園の卒業資格を剥奪されるがいいわ!」
「……私はあの後改めて本名で入学試験に合格し、実力で卒業試験をクリアしているの。あんたが王都を出て行った後にね」
セシアがそう言うと、すっかり“セリーヌ”として通った経歴で学園卒を称していたと思い込んでいたセリーヌは顔を顰めたが、すぐに気を取りなおす。
「例えそうだとしても、身分を偽って通っていたのは事実。この件に関しては遡って罪の裁きを受けた者も多いと聞くわ、あんただって例外じゃない筈よ!」
それは間違いなくそうだろう。
セシアとてずっと気にかかっていたのだ、ディアーヌ子爵がこの件で罪に問われてないのはセシアの罪が明るみに出ていないから。
彼女は学園には再度正規の試験を受けて入学・卒業したが、二年間セリーヌとして嘘をつき続けたことは事実なのだ。
ここまで来たら、今更この話を蒸し返してどうこうしようとはセシアも思っていなかった。代わりに残りの人生は正しく生きようと決めていたのに。
過去に置き去りにしてきた罪が、彼女を追いかけてきたのだ。
「あれは……セリーヌ・ディアーヌ?どうやってここに……」
ホールの方で騒ぎになっているのが聞こえて、マーカスはすぐにそちらに向かおうとした。
が、扉の前にレインが立ちはだかり彼の行く手を邪魔する。
「レイン?」
「……あなたが関わらなければ、この件はセシア一人の話になります」
その言葉にマーカスは目を丸くした。レインはやや青褪めてはいるが、しっかりとした表情でマーカスを祈るように睨んでいる。
「つまり……この件を企てたのはお前か、レイン」
マーカスが悲しみと確信を持って言うと、彼は頷いた。
「俺は、あなたを助けたいんです……セシアはいい奴ですが、罪人です。あなた自身の罪ではなくとも、王子妃に罪人を選んだことで後々あなたが糾弾されてはかなわない」
レインが言うと、マーカスは顔を顰めた。セシアを罪人と言われたことが、思ったよりも悲しかったのだ。
「……幼い子供が、保護者に強要されていたことであったとしても本人に罪があると?」
セシアは、幼い頃にディアーヌ子爵に強要されて学園の入学試験を受け、セリーヌの代わりに通い始めた。
子爵は彼女の実の伯父であり、対外的にも法的にも彼女の保護者だ。そんな相手に命じられてしまえば、善悪の良し悪しが分かっていようといまいと子供に拒否出来る筈がない。
「俺もそれは悩みました。セリーヌと身を偽っていたのはセシアの意思ではなかったのでしょう。ですが、あなたは同じ様に罪を犯したアニタのことをきちんと断罪したではないですか」
そう言われて、マーカスは辛そうに眉を顰める。
マーカスはアニタのことも、助けたかった。助けたかったのだ。
しかし彼女のやってきたことは到底王子一人の裁量で何とかなる域を超えていて、彼女の関わってきた事件には死者も行方不明者も大勢いた。何よりアニタが救われることを望んでいなかったのだ。
大恩あるジュリエットを裏切ったこと、自分を無条件に受け入れてくれたメイヴィスを騙していたこと。それらに対してアニタ自身が最後に正しい行いをして、そして自分が罰を受けることを強く望んだ。
ジュリエットの企てに関して知っている情報や証拠を全て提示し、刑が決まった後のアニタはメイヴィスやセシアとも面会せず、静かにその時を待っていた。
事件に関する功績を認められてせめて苦しまずにいけるように、という配慮の毒杯だけは受け入れたが誰かに何かを言い残すこともなかった。
亡くなった実父の伯爵家から引き取りを拒否された彼女の遺体は、グウィルトからの移民扱いとなり無縁墓地に埋葬された。その手配をしたのはマーカスだ。
本来王子であるマーカスが罪人に肩入れしてはいけないのだろうけれど、彼にはどうしても機械的にアニタの死を処理することが出来なかった。妹の侍女長として少なからず彼女と過ごした時間があることも理由だったが、そもそもマーカスは王子として力ある存在に生まれたからには、アニタやセシアのように力がない子供を助けたい、という思いがずっとあった。
その為に女装して学園に潜入したり、王城内に経理監査部二課などという私的な調査部署を作っていたのだ。
ディアーヌ家に搾取されていたセシアを救って後見をしたのも、最初はその考えに基づいたものだった。彼女を女性として愛するようになったのは自分でも驚きだったが、セシアを助けられたことは、マーカスに取ってもこれまで自分がしてきたことは無駄ではなかったという自信を与えてくれる出来事だった。
その為アニタのことは彼の助けようのない外国での、それも過去のことだったとしても、マーカスを打ちのめした。




