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【書籍化】悪童王子と捨て猫~ワケあって、王子の推薦で執行官やってます~  作者: 林檎


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 一方、セシアの方はマーカスの思っていた通り活き活きと過ごしていた。

 張り切りすぎてはまた失敗を誘発しかねないので、自分を少し抑えるぐらいの心地で行動する。すると結果、周囲がよく見えるようになった。

 誰もがセシアの失敗を望んで、粗を探して観察してしていると思い込んでいたが、それはただの被害妄想で使用人達はただ貴人の一人としてセシアを遇しているだけで、貴族の特に老齢に差し掛かった方達はセシアのことを心配していて何かあれば助けてくれようとして見られているだけだった。

 それというのもセシアが彼らの信頼している第二王子・マーカスの婚約者だからであり、どこまでもセシアはマーカスの存在に守られていたのだ。


 気づくのが遅くなったが、気づいたからにはセシアにはようやく戦い方が見えてきた。

 マーカスの愛情さえ疑う必要がないのならば、セシアはどこに出ても己の持てる力でその愛情と信頼に応え続けるだけだ。

「セシア様は、男爵位を授爵したとお聞きしましたけれど領地はどこなのでしょう?」

 夫人に尋ねられて、セシアは微笑む。

「王都の北です、しばらくは私に爵位を下さったアクトン侯爵が今まで通り領地経営をなさってくださることになっていて、本当に助けていただいています」

「まぁ、アクトン侯爵は本当に面倒見の良い方ですのね」

「そろそろご長男に家督を譲られるとか」

「ほら、ご令嬢の……」

 話はどんどん人の口を渡って行き、セシアにだけ注目が集まっているのではないことも分かった。冷静に考えてみれば当たり前のことだ。

 セシアは今注目されることの多い存在だが、彼女の存在だけで国の何かが左右されるものではない。

 彼らは今夜情報交換を兼ねて晩餐会に集まっているのであって、セシアのことを品定めする為の会ではないのだから。


 適度に話が動いていて、時折セシアにも意見が求められたり彼女から言葉を挟んだりしつつ和やかに食事が続く。

 王城で催される晩餐会なだけあって料理もワインも素晴らしく、彼女は久しぶりに人前で食べ物を味わうことが出来た。

 今夜だけでセシアを見る貴族達の目がガラリと変わる、ということは当然ないがこうやって少しずつ信頼と実績を積み重ねていけばいいのだ、と手応えを感じていた。

 どんな困難であろうとも、セシアは常に徹底抗戦。勝てるまで、結果を得られるまで、戦い続ければいいのだ。


 表面上は和やかに微笑みながら、セシアはふと隣のオルコット公爵夫人を見た。

 料理によっては自分で味を足してもいいように、香辛料などの小瓶がテーブルの中央に置かれているのだがどうやら彼女はそれが欲しいらしい。

 彼女の専用の従僕はこんな時に限って、次の料理の取り分け用の皿を取りに離れていてほんの少しだけ公爵夫人は一人になっていたのだ。彼女は優雅にワインのグラスを傾けながら従僕を待っているが、何に手こずっているのかなかなか従僕は戻ってこない。

 そうこうしている内に料理はゆっくりと冷めてしまうし、あまり長い間皿に手を付けないと不審に思われてしまう。


 セシアは、サッと香辛料の小瓶を手に取って、ほんの少しだけ料理に掛けた。それから、老婦人の方を向く。

「夫人もいかがですか?」

 そう言うと公爵夫人はまるでセシアに促されたから、と言う様子でそれを受け取った。

「ありがとう、セシア様」

 にっこりと嬉しそうに微笑まれて、セシアも嬉しくなる。ちょっとしたことだし、きっと誰も気にも留めていない些細なことだ。

 それでも、ロザリーに言われた人を思いやる気持ちを表すことが出来たような気がしてセシアはとても嬉しかった。


 それから、セシアは徐々に本領を発揮し始める。

 元々人よりも勉強に長い時間を費やしており二度の学園卒業資格を得ている彼女は、一般的に見てかなりの知識を有していて才女と呼ばれて差し支えない経歴なのだ。人には言えないけれど。

 外国語も日常会話程度ならば問題ないし、歴史や文化にもそこそこ詳しい。変なプライドがないので、疑問に感じた点はその場で質問することに躊躇がなく人によってはその質問が的確だと感心する者もいた程だ。


 着々と社交界での評判を上げて行き、ロザリーは最近夜会の後でまで彼女を励ます為に待つことがなくなった。

「この前の質問は深入りし過ぎよ。皆気になりつつも暗黙の了解で聞かないこともあるの」

「……そうよね、でもなんか話を聞いていると皆誤解してるんじゃないかと思って、私ぐらい外から来た者が何も知らないフリをして聞いた方があっさり答えてもらえるかなって思ったの」


 それでも相変わらず、昼間には貴族の常識をロザリーは教えてくれる。それに対してセシアは頷いたものの、ドキドキしながら自分の見解を告げてみた。

 アドバイスをくれているのに反論するのはまだ早いかもしれない、と思ったのだがセシアはただの貴族令嬢になるわけではないのだ。

 彼女自身が男爵であり、その内国を代表して意見を言う機会があるであろう王子妃という立場になる。

 その時に誰にでも言える通り一辺倒のことだけを言う訳には行かない。自分の意見と考えをきちんと持っておくべきだ、と考えていた。


 真剣な表情のセシアを見て、ロザリーは思案する。

 元々、セシアの持ち味はこういった機転の良さや大胆さにある。マーカスは当然心得ているだろうし、国内の貴族達に彼女の気質を知ってもらうのも大切なことだろう。

「……一理あるわね。でも毎回その考えがあっているとは限らないのだから、きちんと心得ていて頂戴。失礼になる場合も当然あるんだから」

「分かった」

 セシアが力強く頷くのを見て、ロザリーは顔に出ないように気をつけつつ内心で感嘆していた。

 彼女の成長速度は早い。吸収が早いのは勿論、勘の良さからの応用も効いている。元々学生時代から“セリーヌ”の能力は認めていたが、ここ最近何が切っ掛けだったのかまるで花開くように急成長していた。


 正直、そろそろ本格的に結婚式の準備に取りかからなければならないロザリーは、王城に来る日を減らす必要が出てきていた。

 第一王女殿下には事前にお許しを頂いていたが、セシアのことが気がかりでギリギリまで引き伸ばしていたのだ。


 この様子ならば、安心して結婚出来そうだ、と考えてなんとなく悔しくてロザリーは唇を尖らせた。あれほど、生意気な女だと思っていたのに今となってはロザリーの人生の目標である結婚よりも彼女を優先してしまっているなんて、と。


 だが、その気持ちはどこかくすぐったくて悪くない気分だった。



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