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 その後。

 アニタの部屋から発見された大量の証拠が鍵となり、今まで状況証拠のみで立件出来なかったジュリエットがエメロードに対して行ってきた犯罪は次々に暴かれた。

 二課からもかなりの調査資料を提供し、他国でのこととはいえさすがにジュリエットに極刑が下されようとしていた頃、タイミングよくグウィルトから「本物の」外交官であるペック伯爵が交渉の為にやってきた。

 彼は、ジュリエットと共に拘束された男はペック伯爵の名を騙った偽物であり、禁術使いの殺し屋としてグウィルトでも手配されていた犯罪者なのだと堂々と言ってのけた。


「……そのような言い分が通ると本当に思っているのですか」

 エメロード側の交渉役である外務大臣、マイロン卿が厳しい言い方をしたが、本物のペック伯爵と名乗った男はいかにも残念そうに首を振った。

「通る通らないではなく、事実そうだとしか私には申しようがありません」

 ふざけるな、というマイロン卿の雰囲気を察して、ペック伯爵は素早く言葉を続ける。

「嘆かわしいことに、ジュリエット王女は自分の立場を利用して大犯罪を行っていました。当然、グウィルト国はそれを知りませんでした。知っていたら勿論止めていましたとも、ええ」

 伯爵がまるで馬鹿にしているかのようにペラペラと喋るのを聞いて、マイロン卿は眉間に深い皺を刻んだ。


「……ペック伯爵。事はそのような屁理屈で誤魔化せるような規模のことでないことは、お分かりでしょう」

 あくまでグウィルト側の主張は、ジュリエットの単独犯行だというのだ。

 規模の大きな国際的犯罪組織を操っていたことも、その資金源も、アニタのような密偵をエメロード城内に潜入させていたことも全て。そんなことがこの場で罷り通るわけがない。

「我が国の王族を三人も誘拐し、最終的には王太子をも亡き者にしようとしていた計画、これはもはや国に対する宣戦布告です。グウィルト国が関知しておらずとも、貴国の王女がその権力を使って行った罪。全くの無関係で押し通せるとは思わないでいただきたい!」

 マイロン卿が更に語気を強めて追い詰めようとした時、ペック伯爵はすらりと書類を取り出した。

「無論ジュリエット王女が独断でしたこととはいえ、彼女は我がグウィルトの王女であり、今回の訪問は王の名代だったことは事実。グウィルト国王も非常に胸を痛めております」


 狸爺の黒い腹だの胸だのが痛もうと、エメロードにとっては何にもならないのだ。マイロン卿はグウィルトからの正式な謝罪と賠償を勝ち取るまで、断固戦い続けるつもりでこの場に立っていた。

 マーカス王子が無茶をしがちなことは、彼の父親ほどの年であるマイロン卿からすれば有名な話だ。

 かの王子は才覚に優れているが、政治には自分はあまり関わるべきではないと考えていて、兄王子に全て任せてしまっているところがある。ゆえに、それ以外のところで万事片付けようとする癖があった。


 確かに政治は、荒事を解決するように白黒ハッキリつけられるものではない。しかし、ここらであの若造にもしっかり教えておいてやりたかった。

 彼が国と民を思い遣って無茶するように、政治とて彼や彼の愛する国を守ることが出来る、という姿を。

 同じく、国を守る盾なのだということを。


「……結構。では、まずはジュリエット王女とマーカス王子の婚約破棄に関する賠償の話に移らせていただきましょう」

 マイロン卿は搾り取れるところからは何もかも搾り取るつもりで、決然と顎を引いた。




 結果。

 後日賠償の内容と金額を聞いたマーカスは、腹を抱えて笑っていた。彼の落とした書類を拾い、内容を見たクリスは青褪める。

「この額は……!」

「えげつないな!さすがマイロン卿、素晴らしい働きぶりだ」

「いや、しかし殿下達が危険に晒されたことを考えると、金品で贖えるものではありませんからね」

 グウィルトからの正式な謝罪も勿論取りつけたが、それは「ジュリエットに勝手をさせて申し訳ない」という主旨の謝罪。彼女一人を切り捨てて、グウィルトは体面を保ったのだ。


 真面目なクリスもマイロン卿と同じく、ジュリエットが勝手にやったこと、などとグウィルトの主張を受け入れていない一人だ。

「だが戦争をするわけにはいかないのは、うちも向こうも同じだ。メイやロナルドには悪いが、膿を切り出して国を豊かに出来たのだから王族の義務を果たしたとしなければな」

 戦をすれば、一番被害を被るのは民。それはなんとしても避けねばならない事態だ、グウィルトとて王女の一人を切り捨てる方が容易かったのだろう。

 王族としても義務を第一に考えすぎるマーカスに、クリスは悔しい気持ちを抱える。彼の敬愛する主は、素行には問題があるものの我がなさすぎるのだ。

 本人は自分の好きなように行動しているというし、実際そうなのだが行動する目的が全て国の為、なのだ。

 少しでもいいから国ではなく自分を優先して欲しい、そう考えることはマーカスの在り方を否定することになるので、クリスには言えなかった。


「さて、そろそろ体が空くか?今後の予定は」

 ひとしきり笑ったマーカスは、書類に判を押してクリスに押し付ける。

 今回は色々と無茶をしたものだから、処理する書類が通常の倍ほどもありマーカスは二課に通う暇がない。しかし賠償の額を考えると、彼らの経理監査部としての本業も忙しそうなので遊んではくれなさそうだ。

「セシアからの面会願いが来ていましたので、許可しておきました」

 クリスがしれっと言ったので、マーカスは驚く。

「なんで許可した!怒られるだろう、絶対!!」


 マーカスが血を流す姿を見て、青褪めた顔で彼を睨んでいたセシアの表情は記憶に新しい。

 あれは絶対叱られる。なんなら今度こそ一発食らうかもしれない。いや、別に彼女を避けて二課に行っていなかったわけではないのだ、実際かなり忙しかったし。


「……殿下がセシアを避けておられるようでしたので。可哀相でしょう」

 怒られてしまえ、というクリスの本音は笑顔に隠した。


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