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 イーディスと侍女達が別室に下がる際、ロナルドがメイヴィスの指を離さなかった為仕方なく彼女も一緒に下がって行った。当然護衛も一緒だ。


 そうなると、部屋に残ったのはジュリエットとセシア、そしてアニタだけになった。

 恐らくアニタは戦闘訓練は受けていないから、何かあれば大声を出して外の護衛を呼び加勢してもらうしかない。

 メイドとして待機しながら、セシアは内心緊張しながら僅かな時間を過ごす。


 と、


 突然ジュリエットが熱い紅茶の入ったポットを掲げた。

「ジュリエット様? 何を……」

 突然の奇妙な動きに、セシアは呆然と呟く。ジュリエットは彼女を見て、ニヤリと嫌らしく笑うと自分にそのポットを向かって振り下ろした。

「!!」

 わざと狙いを外したのだろう、ポットはジュリエットに当たることなく彼女のすぐ傍の床に振り落とされ、ガシャンッと大きな音をたてて破片を撒き散らす。

 そして、彼女はその音に負けないぐらい大きな声で叫んだ。


「きゃあああっ! セシア! 何をするの、やめてぇ!!」


「は?」

 セシアは驚いて固まった。

 ジュリエットが何をし出したのか、意味が分からなかったのだ。


 床に飛び散った陶器と紅茶、そしてそこに座り込んだジュリエット。ドレスの裾は紅茶の所為で染みがじわじわと広がっていく。

 その広がっていく染みを見て今他人がこの光景を見ればどう思うのかを考え、セシアは雷に打たれたかのように震えた。

 ぱっ、と顔を上げると、向こうの壁際に立つアニタと目が合う。だが、彼女の視線はすぐに逸らされてしまった。


 アニタ!!


 彼女が、内通者。

 セシアが衝撃に心を震わせている瞬間にも、叫びを聞きつけた護衛達が廊下から飛び込んでくる。

「何事ですか!」

「大丈夫ですか!?」

「助けて! セシアが……メイドが、わたくしをポットで殴ろうと……!!」

 駆けつけた護衛に、ジュリエットは縋って助けを求める。セシアは首を横に振ったが、この状況で他の者の証言なしに信じてもらえないことは明白だった。


「違います! ジュリエット様は自分でポットを」

「わたくしがそんなことして何になるというの!?」

 セシアの弁明をかき消すように、ジュリエットの叫びが響く。


「何事なの!?」

 そこで、奥の部屋から侍女と護衛を二人伴ってメイヴィスが姿を現した。しかしすぐに部屋の惨状を見て、顔を顰める。そこにすかざすジュリエットが哀れな声を上げた。

「メイヴィス様!セシアがわたくしに暴力を!」

「セシアが……?何かの間違いでは?彼女はそんな人じゃないわ」

 メイヴィスは翡翠色の瞳を大きく見開いて驚いていたが、すぐにジュリエットの言葉を否定してくれる。

 一瞬ホッとしたセシアだったが、メイヴィスの傍にまるで彼女を守るように駆け寄った忠実な侍女長・アニタは信じられないことに首を横に振ったのだ。


「いいえ、殿下。私もセシアがジュリエット様に向かってポットで殴りかかろうとしたのを見ました」


「嘘よ!! 私は何もやっていません!」

 セシアは鋭く叫んだが、アニタは残念そうに首を横に振るばかりだ。そんなアニタの背に庇われながらも、メイヴィスは真実を見極めようと部屋を見渡す。


 優秀な魔法使いを連れてきて、過去を見ることの出来る高等魔法を使えば状況を再現出来るかもしれないが、王族専用のサロンであるこの部屋では盗聴などを防ぐ為にそういった魔術干渉が出来ないように防御魔法が掛けられている。

 その大がかりな防御魔法を解いてから過去視の魔法を掛けるには、時間が経ちすぎていて今のこの状況を見ることは不可能だろう。


 セシアの凶行はメイヴィスは信じたくなかったが、ジュリエットだけではなくアニタまで証言しているのならば現状では疑いようがない。

 メイヴィスは唇を噛んで、この場で最も立場のある者として口を開いた。


「セシア・カトリン。グウィルト王女への不敬行為・暴力行為によりあなたの身を拘束します。……きちんと調べてもらうから、今は大人しくしていて」

 メイヴィスの言葉は厳しく、しかし眼差しは真摯だった。

 別の状況であったならば、セシアはこの要請に従っていただろう。


 けれど、今は駄目だ。

 アニタが、ジュリエットの内通者だったと分かった以上、このままセシアが拘束されたのち正しく捜査が行われて真相が明るみに出ることはないだろう。

 それどころか犯罪組織の黒幕としてのジュリエットのことは、まだ経理監査部二課は現状証拠しか掴めていないというのに、内通者であるアニタの存在をセシアに分かるような方法を使ってまで彼女を陥れたのだ。


 つまり、この機会はジュリエットとアニタによって作られたもの。

 セシアがここで拘束されてしまえば、彼女に不利な証拠がどんどん見つかるように出来ているのだろう。


 そこまで考えたセシアは、咄嗟に駆けだしていた。

 廊下へと続く扉の前には護衛が、奥の部屋に続く扉の前にはメイヴィスとアニタがいる。他に逃げ道として残されているのは、バルコニーに出ることの出来る床まで続き大きな窓だけ。

 開け放たれたそちらから外に出て、セシアはバルコニーの欄干に手をついた。


「セシア!!」

 メイヴィスの悲鳴が聞こえる。お姫様には少し刺激の強いものを見せてしまって、本当に申し訳なく思う。それでもここで捕まることは、セシアだけではなくマーカス達の敗北をも意味していた。


 バルコニーは想像よりも高い位置にあり、隣の部屋にでも飛び移ることが出来れば、と考えたがこの部屋は建物からせり出している所為で隣室のバルコニーははるか向こうにあった。

 高さは五階程度。落ちれば死ぬとは限らないけれど、確実に無事ではいられない。木々がクッションになってくれることを期待するのは、希望的観測が過ぎるだろう。


 セシアを拘束しようと掛かってくる護衛達に、風魔法を使って牽制しながらさほど広くもないバルコニーを彼女は逃げ回る。

 狙いが外れた魔法はいくつか室内にも入り込み、床を打ち抜いた。メイヴィスとジュリエットは、アニタや残った護衛に庇われて部屋の奥へと追いやられていく。


 そのおかげでようやく魔法の動線が開いたのを見て取って、セシアは風魔法とは”別の魔法”を室内に向かって打ち込むと、結果を見ることなくすぐに欄干を蹴ってバルコニーから飛び出した。



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