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 話がかなり反れてしまったが、つまりメイヴィスはマーカスを誰かに取られることが嫌だったのではなく、ジュリエット個人が非常に苦手なのだ。


 何故苦手なのか、と聞かれると言語化が難しい。




 少し気が強いけれど、ジュリエットはメイヴィスに対してとても親切だし、結婚してエメロードに来た際には分からないことばかりだろうからどうか助けて欲しい、と言ってきてくれる程友好的だ。

 最初はぎこちなくても、徐々に打ち解けてそれらしい義姉妹になっていくのだろう、とメイヴィスも最初は思っていた。


 しかし、違うのだ。


 これは、彼女のただの直観なので根拠はないのだが、ジュリエットは、本当はメイヴィスと親しくするつもりも、エメロードに馴染むつもりもないのだ。きっと。

 そしてそれを周囲には、巧妙に隠している。


 単純にメイヴィスがジュリエットと合わないだけ、という可能性も勿論あるので、誰かに言ったことはなかった。

 けれど、どうしても何か隠されている、そしてこの人はわたくしのことをちっとも視界にはいれていないのだわ、と感じてしまいジュリエットのことが苦手なのだ。

「メイヴィス様?」

 そこで、当のジュリエットに声を掛けられて、メイヴィスはにこりと微笑む。



「こちらのお菓子、とても美味しいですわ。どこかのお店のものですの?」

 城の厨房で作ったものではなく、カラフルな紙で包装されている焼き菓子を手にジュリエットがそう言って微笑む。

 メイヴィスは頷いて、両手を握り合わせた。

「ええ、そちらはお気に入りのお店で買い求めたものですわ。時折頼んで買ってきてもらうのですけれど、ケーキの方も絶品なのです」


 セシアと最初に行った、あの喫茶店のことだ。

 店先で騒ぎが起きてしまったし、誘拐された所為でメイヴィスの身辺はさらに厳重な護衛が敷かれるようになり、店に行こうものならばどれほど迷惑がかかるか分からない為、あれ以降彼女自身は店には行けていなかった。

 けれどアニタやマーカス、時々セシアもあの店で買ったお菓子をお土産にメイヴィスに贈ってくれることがあり、王女の身の上でありながら彼女はあの店の新作菓子などには、ちょっと詳しくなっていた。


 今回はその中から特に美味しかったお菓子を、茶会の為に用意させた。

 苦手意識はあるものの、仲良くしていきたいと思っているジュリエットに喜んでもらえて、メイヴィスは素直に嬉しい。


「まぁ、メイヴィス様が自ら城下に?」

「あ、いいえ。侍女に買ってきてもらいました」

「そうでしたの。あんなことがあった後ですもの、お気をつけなさってね」

 優しくジュリエットが、メイヴィスの肩を撫でる。

 まるで親し気な姉妹のような仕草だったが、メイヴィスには違和感があった。


 その正体について考えを巡らせる前に、サロンの扉がノックされ、誰何の後に護衛が扉を開く。



「まぁ、マーカス様」

 イーディスが驚いたように、おっとりと声をあげた。

 部屋に入ってきたのはマーカスで、驚いたことに腕には泣き叫ぶ赤子、ロナルドを抱いていたのだ。イーディスはすぐにそちらに駆け寄る。


「どうなさったのです?」

「ロナルドが、母君に会いたくて駄々をこねていたようだ。あまりに暴れるもので、乳母が難儀していたので僭越ながら俺が小さな王子様をお連れした」

 くつくつと楽しそうに笑って、マーカスはやんちゃな甥を義姉にそっと渡す。


 彼の後ろでおろおろとしていた乳母達は、その姿を見てホッとしたようだった。赤ん坊の力は意外な程強くて、イーディスのところまで連れて行く道中ですら、今にも取り落としそうで難儀していたのだ。


 王太子殿下の御子、次代の王。その御身ゆえに、乳母も優秀なものが複数名選ばれていて、普段はロナルドの我儘にも癇癪にもチームで完璧に対応出来ていたのだが、今日のロナルドはどうしたことか、まるで何か異常でも察知しているかのように大暴れだった。


 難儀しつつも赤子の求めに従い母親であるイーディスの元に連れて行こうとするものの、とても苦労を強いられていたので、通りがかったマーカスがひょい、と雑に甥を抱き上げた時は、正直乳母達は助かった、と思った。

 彼は快活に笑いながら、暴れるロナルドをあやし、宥め、けれどしっかりと抱えて、ここまで連れてきてくれた。


「まぁ……マーカス様、それはご迷惑をおかけしました」

 イーディスがロナルドを抱きかかえて礼を言うと、マーカスは楽しそうに笑って首を横に振った。

「俺は忙しくてあまりロナルドを抱いたことがなかったので、嬉しいひと時だった。男児はやんちゃなぐらいな方が頼もしい」

 ロナルドの小さな頭をさらりを撫でると、赤ん坊は先程の癇癪などどこ吹く風で母親にべったりとくっついてご機嫌だ。


「ありがとうございます……あら?」

 イーディスは、ロナルドの手首が少し赤くなっているのを見て、困ったように眉を寄せる。

「それは、ここに来るまでにロナルドが暴れた所為で自分で壁にぶつけて出来たものだ」

 マーカスが説明する。後ろで乳母達が震えあがっているところを見ると、マーカスに会う前にぶつけてしまったのだろう。

 赤ん坊が自分でしたことでまで、乳母を叱るつもりはないイーディスはすぐに息子に治癒魔法をかけようとした。


「義姉上。子供は代謝が高いので、この程度はすぐに治る。それよりもこんなに幼い頃に治癒魔法を掛けてしまっては、自己治癒力の活性を阻害する可能性があるので、自然に治るに任せる方がいいと思う」

「確かに……そうですわね。ありがとうございます、マーカス様」

 イーディスは頷いて、義弟に向かって微笑んだ。


 マーカスも笑みを返し、そこでふと壁際に他のメイドと共に控えているセシアを一瞥する。


 ジュリエットは何故か、この茶会に来る際に連れてくるメイドとしてセシアを選んだのだ。いつもならば他のメイドや、グウィルトから自身が連れて来た者を選ぶのに。

 建前としては、エメロード王族の茶会にお呼ばれするのだから、エメロードから派遣されてきた者を連れて行った方が勝手が分かっているだろう、などと言っていたが怪しい。

 王族の前で、何か盛大な恥でもかかせようとしているのだろうか。



 だとしても今はセシアはジュリエットのメイドなのだから、何かあって恥をかくのはジュリエットも同じである筈。



 それとも、トラブルを起こさせて、こんなメイドをつけるなんて、とでもエメロードに抗議するのだろうか?



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