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数日後。
メイヴィスとジュリエット、王太子妃であるイーディスの三人でお茶会を楽しんでいた。
ジュリエットは数ヶ月後にはマーカスに輿入れし、エメロード王族に仲間入りする為、その準備や友好を築きたいから、という口実で他の来賓よりもエメロード王族に接する機会が多い。
王族だけが使うことを許されている最上階のテラスは、大きく張り出したバルコニーから向こうの森や山が見えて、春先特有の新緑の香りが遠いここまで香ってくる。
天気のいい日は、かなり上階にあたると言うのに小鳥などが飛来することもあるらしく、メイヴィスはそれを窓の内側からこっそり観察するのが大好きだ。
異母姉である第一王女が公務で時間が取れなかった為、ジュリエットととのお茶会に欠席する、と聞いた時はちょっと怯んだが、長兄の妻である王太子妃・イーディスがいてくれて本当によかった、とメイヴィスは思っていた。
数ヶ月後には義姉となる、グウィルトの第二王女・ジュリエット。常に公平であれと育てられたメイヴィスだったが、実はどうしても彼女が苦手だった。
最初は大好きな兄、マーカスと結婚する相手なので子供じみた嫉妬を抱いているのだと思い、自分を内心で叱っていた。
けれど、どうやら違ったらしい。
話が逸れるが、メイヴィスは兄の部下であるセシアのことが大好きだ。
繰り返すが公平であれ、と育てられたのだから、国民の一人に必要以上に傾倒するのは良くないと分かっているので精一杯律してみてはいるが、それでも溢れるほどに慕わしい。
セシアは何故か自分はいかにも平凡な人間だと思っているようだが、姿も心もとても美しい女性だ。それに王女であるメイヴィスに遜ったり媚びたりしないし、それでいて一人の人間として尊重し、接してくれる人は貴重だ。
少し王女に対する扱いが雑ではないだろうか、とは思うが、その接し方に含みを感じず、セシア自身の素直な気持ちだけが伝わるのも心地よい。
友達、というものに近いのでないか、と密かにメイヴィスは考えているのだが、まだ誰にも打ち明けていない。
そして、彼女がジュリエットに対して兄を取られてしまう、という嫉妬感情で苦手意識を持っていたのではない、と分かったのがそのセシアのおかげだった。
兄は、マーカスは、セシアのことが好きだ。彼のことが大好きで、何時も見ていた妹だからこそ分かる。
マーカスは、セシアを女性として、愛しているのだと分かるのだ。
人に隠し事の得意なマーカスだが、メイヴィスには比較的心のガードを下げている。そんな彼が、セシアの話をする時だけは全く違うのだ。
まさにメイヴィスの目指す公平な王族、模範的な王子様であるマーカスは、部下のいいところも悪いところもいつも楽しそうに話してくれる。
メイヴィスに話してもいい範囲なのだろう、誰々がどんなヘマをした、だとか、その代わり素晴らしい功績を上げた、だとかとても楽しそうに、活き活きと説明してくれるのだ。
かの王子の元で働く部下は、尊敬出来る上司でさぞ幸せなことだろう、なんてメイヴィスは身内贔屓全開で思ってしまうほどに。
しかし、セシアの話をする時だけ、マーカスはとても歯切れが悪い。
「あれは無茶をしすぎるから、本当に困る」
弱り切った声。
心配、というよりは彼女の無茶に苛立っているかのような響き。少しの怒り。
他の部下には、マーカスはそんな言い方はしない。適切なアドバイスをして、時には一緒に悩んで、そして本人にとって一番いい方法を見つけてくれる。
セシアに対してだけ、自分の想い通りにならないことに苛立つのだ。セシアにとっていいやり方、ではなく、マーカスにとってセシアにそうであって欲しい、と願うこと。
公平なマーカスが、唯一、セシアにだけは自分のエゴを押し付けたがっているのだ。
それは恋に他ならない、とメイヴィスは思う。
それに気付いた時、彼女はとても嬉しかった。
大好きな兄と、大好きなセシア。二人が恋仲になってくれたら、少しだけ寂しいけれどそれよりももっともっと、嬉しい。
セシアの方もよくよく観察してみれば、マーカスに対してまだ芽生えたばかりの恋情の育て方に四苦八苦している様子が見て取れて、メイヴィスは歓声を上げそうになったものだ。
マーカスは王子であり、他国の王女と婚約している身だが、メイヴィスは悪いことだと分かっているのについ、セシアとの恋を応援してしまう。
なのに、二人とも己の立場や状況を鑑みて始めからこの恋が成就することはないのだと、決めつけてしまっている。
そうかもしれない、いや、きっと、そうなのだろう。
恋が育てば育つほど、実ることのないそれは二人を苦しめるのだろう。
でも、メイヴィスは二人に抗って欲しかった。
これはメイヴィスの我儘だけれど、大好きな二人に幸せになって欲しかったのだ。
その為の協力は、彼女は何一つ惜しまないつもりでいる。
我欲を抑えて国に尽くしている兄と、自分に価値がないと思い込んでいる友達。
二人が望んだことが、叶うといいのに、というのがメイヴィスの願いだった。




