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恋に気付こうと勝手に失恋しようと、陽は昇るし仕事は来る。
夜。
またもやセシアとフェリクスは、昨日とは違うアンダーグラウンドな夜会に参加していた。
ここ数日、あちこちの夜会に執行官達は顔を出す日々を送っていて、正直かなり疲労している。そこで思い切って範囲を狭めて、年嵩で地位が高く保守的な貴族の催す夜会と違い、比較的年齢層が若く、どちらかというとアウトローな貴族が開く夜会をレインがピックアップしたのだ。
そうなると、規模は小さくそして一夜にいくつも開催されていることとなる。
何せ今は社交シーズン真っ盛り。貴族は皆こぞって着飾り、あちこちの夜会に繰り出しているのだ。
その中でならば、後ろ暗いことをしている夜会の一つや二つあっても目立たない。
今夜は、フェリクスもセシアも髪色と瞳の色を魔法で変えて参加していた。
仮面舞踏会ではないので、せめてもの変装だ。意外と髪の色の印象などは強いので、かなり有効であることをセシアは身をもって知っている。
「フェリクス、知り合いはいなさそう?」
「ああ。まぁ俺は子爵家の次男といっても、騎士学校を卒業してすぐに騎士団に入ったから、社交界では顔は知られていない方だしな」
一応フェリクスは眼鏡を掛けて、申し訳程度に変装を重ねていた。
「アングラなパーティってどんなもの、て思ったけど……つまりはこういうことね」
セシアはうんざりと溜息をつく。
あちこちで紫煙が燻り、人目を憚らず口づけを交わしている者もいる。
ダンスホールに当たる場所にはカードゲームの卓が多く並び、給仕の女性は皆一様に露出が高い。
「俺から離れるなよ、セシア」
フェリクスがキリリとした表情で言うが、セシアはフッ、と鼻で笑った。
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
先日の失敗を蒸し返すつもりはないが、捨て猫と称される痩せっぽっちで魅力のないセシアと、いかにも育ちが良さそうで体格のいい男性であるフェリクスならば、どちらに目をつけられるかは明らかだろう。
「あんたすっっごくカモられそうだから、本当に気をつけて」
「う……了解した」
フェリクスは、実直な男なので考えが顔によく出る。
正直執行官よりも騎士の方がよほど向いていると思うけれど、そこは上司が彼を選んだのだ、セシア同様何かしら見どころがあってのことだろう、と彼女は口出しするつもりはない。
だがその顔に出やすい性質は今現在、カード台で手ぐすねを引いている連中にとっては、彼の明らかに育ちの良さそうな様子も相俟って、極上のカモに見えていることだろう。
二人で座るにはかなり密着しなくてはいけない、やや小ぶりなサイズのソファに並んで腰かけて、いちゃついているフリをして二人はコソコソと話す。
そうでもしていないとフェリクスは、露出度の高い見知らぬ女性達にすぐ腰を触られたり尻を撫でられたりするので、今や籠の中のウサギのようにぷるぷると震えていた。
しかし、そんな彼だがセシアのことは完璧にエスコートして守ってくれていた為、セシアには被害はゼロだ。
それがまた彼女自身には魅力がないので大丈夫!という自信の裏付けになってしまっていることは、不幸なことに二人とも気付けていない。
「とはいえ、ここで二人ちまっと座っててもどうしようもないわね。少しはカードとかに参加するべきかしら」
「カードはリスキーじゃないか?素人なのがすぐバレそうだが」
「そうよね……でも、他ってあんなカンジだけど」
セシアがちらりと視線で誘導し、フェリクスもそちらを見遣ってぎょっとする。
少し離れた位置にある、同じ様なソファに座る男女はまるで情事でも始めそうな程に熱烈にキスを交わしていて、男の手は女のドレスの裾に突っ込まれていた。
「刺激的過ぎないか……!」
「初心過ぎる……」
顔を赤くしたフェリクスに、セシアはぽかんと口を小さく開ける。
セシアだって、年頃の乙女なのでそういったことの刺激には弱い自覚があったが、ディアーヌ子爵家でメイドとして働いていた経歴の所為で多少耳年増になっていた。
年上の後輩の初心すぎる一面に、逆にセシアは冷静になる。
あちらのソファのように振る舞うことは、当然セシアにもフェリクスにも無理だし、そこまですることを上司も望んでいないだろう。
ならば、他の方法でその場に溶け込むべきだ。
「やっぱりカードゲームに参加する方が無難なようね」
「……そうだな」
「フェリクス、出来る?」
「……騎士学校で少しルールを教えてもらった程度だが……」
先の一件から、セシアに対してはすっかりビッグマウスを封印したフェリクスは、自信なさそうに眉を下げる。
元々彼にカードゲームで勝者になって欲しいわけでもなかったし、それを期待してもいなかったのでセシアは軽く首肯した。
「十分よ。新参者が大勝ちしたら怪しいもの。少しカモられて、頃合いを見て切り上げましょう」
問題は、簡単に切り上げさせてくれるか、だが、そこは恋人役のセシアが強引で我儘なフリでもするしかない。
金持ちの坊ちゃんとその恋人が、少し悪いことをしたくてこの夜会に来た、という体を表現出来れば十分だ。
なるべく自然な動作でフェリクスは、セシアの腰を抱いてソファから立ち上がると丁度一人抜けたカードテーブルに歩み寄った。
「俺も参加出来るかな?」
「勿論です。ですが、コインではなく現金での参加が原則ですが、お手持ちに余裕はございますか?」
卓の向こう側に立つディーラーがそう言うと、フェリクスは頷いたがセシアは不満そうな表情を浮かべてみせた。
「あなた、賭け事弱いくせに」
「だって面白そうだろう?」
フェリクスがわくわくとした様子で言うと、彼女は肩を竦める。
そんな二人を見て、ディーラーはにこやかに頷き、卓に座る他のプレイヤーにも目配せをした。
「では、こちらの方が次の回から参加ということで、よろしいですか?」
「ああ、勿論」
「お兄さん、可愛い恋人にいいところ見せないとねぇ」
と、他のメンバーも和やかに受け入れてくれる。
フェリクスは気をよくして椅子に座ると、気合十分!とばかりに指の骨を鳴らした。
そのいかにも張り切った様子を見て、少し過剰な演技かも、とセシアはつい苦笑してしまった。




