表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/106

103.コミカライズ1巻発売お礼SS(親友とアフタヌーンティー)


「怪しい……」


王都の貴族街にある、瀟洒なカフェ。

この店で特に人気なのがアフタヌーンティーで、豊富に選べる茶葉などがその理由である。

今そこに、セシアがマリアに連れられて来店していた。


「うーん、そうねぇ……お茶はアールグレイで、ジャムは何があるの? まぁ、杏子? いいわね、私はそれにして頂戴」

「…………すごく、怪しい……」


向かいでブツブツと言うセシアを無視して、マリアはニコニコとメニューを眺めている。


「ねぇ、セーラ、あなたはどうする? 茶葉はハウスブレンドと季節のオススメ、あとコーヒーが選べるのよ。あとスコーンにつけるジャムね! 私は断然、季節のジャム!」

「変に詳しい……」

「前食べた柑橘のジャムも絶品だったわ、販売して欲しいぐらい!」

「恐縮です、お嬢様」

「常連……?」


マリアは店員に向けて優雅に微笑み掛け、さすがに熟練の店員も如才なく礼を言う。

そこでようやく、マリアはセシアへと視線を向けた。


「もう、セーラったら! どうしたの? あなた柑橘とチョコのケーキ好きだったわよね? あとイチゴのタルト」


にっこりと微笑むマリアの笑顔が、大変胡散臭い。彼女に応えることなく、セシアは店員に顔を向けた。


「…………私はこちらのお店は初めてなので、茶葉もジャムも一番人気のものにしてください」

「かしこまりました」


店員が優雅に頭を下げて、メニューを下げて去って行く。


「あやしい……」

「もう、セーラったらすっかり疑い癖がついちゃって! 今日はあなたと美味しいアフタヌーンティーを楽しむのが目的よ?」

「じゃあ何故セーラと呼ぶ……?」


セーラは潜入任務時のセシアの偽名だ。マリアは可愛らしく首を傾げた。


「……ノリ?」

「嘘だぁ」


あっけらかんとセシアが否定すると、マリアはころころと楽しそうに笑う。

今日のマリアはストライプにシンプルなレースのドレスで、アクセサリーも小さな真珠のみだが、それでも優雅な佇まいの所為で、高貴な令嬢の様子が隠しきれていない。

セシアのドレスもマリアがコーディネイトしたが、十分に街娘に溶け込めていた。


「今日はなに? 誘拐? 麻薬? 横領?」

「うふふ、聞いて驚いて。全部よ」

「わぁー……フルコースかぁ……」


話している間に、店員が銀のケーキスタンドを運んでくる。

上段には艶々の苺のタルトにチョコレートと柑橘のケーキ。中段に二種類のスコーンとたっぷりのジャムとクリーム。下段にはハムとキュウリのシンプルなサンドイッチ。

他にも果物とチョコレートの皿が別皿に盛られたものがテーブルに並ぶ。


「うう……せっかく美味しそうなアフタヌーンティーなのに、そんな話を聞いちゃったら素直に味わえないじゃない」


セシアが唇を尖らせると、マリアは自分の皿に載っていた苺を一粒つまみ、セシアの唇に押し付けた。


「だから内緒にしてたのに」

「むぐ……これで懐柔されたりしないからね」


苺を咀嚼して、セシアはまだマリアを睨む。


「あらあら。じゃあ後は何を貢げば許してくれる? チョコレート?スコーンかしら」

「苺のタルト」

「冗談だろ?」

「素が出てるわよ、マリア」


表情を無くして、つい『本来の口調』で喋ってしまった相手に、セシアはわざと『マリア』と名前を呼んで注意喚起する。


「……。やぁだ、それはちょっとひどいんじゃないかしら? メインのケーキよ。ここのタルトは絶品で、日によっては売り切れの時もあるんだから!」


気を取り直したマリアが、優雅な仕草で首を傾げてみせる。


「どんだけ常連なのよ。……分かった、じゃあ半分ちょうだい」

「どうしてそんな意地悪言うの?」

「結構主旨変わってない? じゃあ一口! 一口ならいいでしょう?」


セシアが強めの口調で言うと、マリアは渋々頷いた。


「珍しく執着してるわね」

「途中からやり取りを続けるのが楽しくなっちゃって」


うふふ、と笑って、マリアはナイフで丁寧にタルトを切り分ける。タルト地もシロップのかかった苺も、間にたっぷりと挟まったカスタードクリームも完璧に収まった、一口サイズだ。


「美味しそうっ」


小さく囁いて、セシアはその一口をもらおうとフォークを手に取る。が、マリアが自分のフォークを突きさす方が早かった。


「ん? 私にくれるんじゃないの?」


ムッと眉を寄せてセシアが顔を上げる。すると、マリアは艶やかに微笑んでフォークをセシアの口元へと運んだ。


「はい、あーん」

「はぁ?」

「あ、ほら、形崩れて落ちちゃうから、早く」


マリアはにこにこと微笑んで、再度「あーん」と言ってくる。

先程苺を食べさせられた時は平気だったのに、こんな風に意図的にされると恥ずかしくてたまらない。

顔を赤くしたセシアは、ええい、とフォークに齧りついた。


もぐもぐと咀嚼すると、タルトは本当に美味しかった。が。


「さっきの仕返しね?」

「どうしてそんな意地悪言うの?」


先程と同じ言葉をもう一度呟いて、マリアがふふっと笑う。というか、ずっと笑っている。


「やけにご機嫌ね……」

「だって、久しぶりのデートだもの」


セシアの唇の端についたカスタードを、マリアのほっそりとした指先が拭う。そのままマリアはぺろりと指を舐めた。


「……誘拐で麻薬で横領なのに?」

「そんなの、私とセシアにかかれば、デートのちょっとした前哨戦よ」

「デートと前哨戦は普通一緒に語らないと思うけど……」


二人は視線を合わせて、ニヤリと笑い合う。

そんな風にお喋りを続けながら、順調にお菓子を摘まむ。マリアオススメのチョコレートのケーキの絶品で、こちらもマリアに一口奪われた。


香り高いお茶を飲みきって、たっぷりと甘いものを食べ終えた二人は、ほう、と満足の溜息をついた。


「んんー! 美味しかったぁ」

「でしょう。ココ、本当にオススメなの」


二人は店を出ると、横の裏路地に素早く入る。柱を伝って店の屋根に上ると、本来の目的である敵のアジトはこの店のすぐ裏にあったのだ。

敵が油断しきっている、この午後の昼下がりに急襲をかける。


「さぁて。腹ごなしにさっさと片付けて、デートの続きをしましょ! ハニー」


ぐっと拳を握って勇ましいことを言うセシアを、マリアは眩しそうに見つめて柔らかく微笑んだ。


「そうね、ダーリン」




ワケ潜コミカライズ1巻発売、おめでとうございます!

皆様、どうぞよろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ