103.コミカライズ1巻発売お礼SS(親友とアフタヌーンティー)
「怪しい……」
王都の貴族街にある、瀟洒なカフェ。
この店で特に人気なのがアフタヌーンティーで、豊富に選べる茶葉などがその理由である。
今そこに、セシアがマリアに連れられて来店していた。
「うーん、そうねぇ……お茶はアールグレイで、ジャムは何があるの? まぁ、杏子? いいわね、私はそれにして頂戴」
「…………すごく、怪しい……」
向かいでブツブツと言うセシアを無視して、マリアはニコニコとメニューを眺めている。
「ねぇ、セーラ、あなたはどうする? 茶葉はハウスブレンドと季節のオススメ、あとコーヒーが選べるのよ。あとスコーンにつけるジャムね! 私は断然、季節のジャム!」
「変に詳しい……」
「前食べた柑橘のジャムも絶品だったわ、販売して欲しいぐらい!」
「恐縮です、お嬢様」
「常連……?」
マリアは店員に向けて優雅に微笑み掛け、さすがに熟練の店員も如才なく礼を言う。
そこでようやく、マリアはセシアへと視線を向けた。
「もう、セーラったら! どうしたの? あなた柑橘とチョコのケーキ好きだったわよね? あとイチゴのタルト」
にっこりと微笑むマリアの笑顔が、大変胡散臭い。彼女に応えることなく、セシアは店員に顔を向けた。
「…………私はこちらのお店は初めてなので、茶葉もジャムも一番人気のものにしてください」
「かしこまりました」
店員が優雅に頭を下げて、メニューを下げて去って行く。
「あやしい……」
「もう、セーラったらすっかり疑い癖がついちゃって! 今日はあなたと美味しいアフタヌーンティーを楽しむのが目的よ?」
「じゃあ何故セーラと呼ぶ……?」
セーラは潜入任務時のセシアの偽名だ。マリアは可愛らしく首を傾げた。
「……ノリ?」
「嘘だぁ」
あっけらかんとセシアが否定すると、マリアはころころと楽しそうに笑う。
今日のマリアはストライプにシンプルなレースのドレスで、アクセサリーも小さな真珠のみだが、それでも優雅な佇まいの所為で、高貴な令嬢の様子が隠しきれていない。
セシアのドレスもマリアがコーディネイトしたが、十分に街娘に溶け込めていた。
「今日はなに? 誘拐? 麻薬? 横領?」
「うふふ、聞いて驚いて。全部よ」
「わぁー……フルコースかぁ……」
話している間に、店員が銀のケーキスタンドを運んでくる。
上段には艶々の苺のタルトにチョコレートと柑橘のケーキ。中段に二種類のスコーンとたっぷりのジャムとクリーム。下段にはハムとキュウリのシンプルなサンドイッチ。
他にも果物とチョコレートの皿が別皿に盛られたものがテーブルに並ぶ。
「うう……せっかく美味しそうなアフタヌーンティーなのに、そんな話を聞いちゃったら素直に味わえないじゃない」
セシアが唇を尖らせると、マリアは自分の皿に載っていた苺を一粒つまみ、セシアの唇に押し付けた。
「だから内緒にしてたのに」
「むぐ……これで懐柔されたりしないからね」
苺を咀嚼して、セシアはまだマリアを睨む。
「あらあら。じゃあ後は何を貢げば許してくれる? チョコレート?スコーンかしら」
「苺のタルト」
「冗談だろ?」
「素が出てるわよ、マリア」
表情を無くして、つい『本来の口調』で喋ってしまった相手に、セシアはわざと『マリア』と名前を呼んで注意喚起する。
「……。やぁだ、それはちょっとひどいんじゃないかしら? メインのケーキよ。ここのタルトは絶品で、日によっては売り切れの時もあるんだから!」
気を取り直したマリアが、優雅な仕草で首を傾げてみせる。
「どんだけ常連なのよ。……分かった、じゃあ半分ちょうだい」
「どうしてそんな意地悪言うの?」
「結構主旨変わってない? じゃあ一口! 一口ならいいでしょう?」
セシアが強めの口調で言うと、マリアは渋々頷いた。
「珍しく執着してるわね」
「途中からやり取りを続けるのが楽しくなっちゃって」
うふふ、と笑って、マリアはナイフで丁寧にタルトを切り分ける。タルト地もシロップのかかった苺も、間にたっぷりと挟まったカスタードクリームも完璧に収まった、一口サイズだ。
「美味しそうっ」
小さく囁いて、セシアはその一口をもらおうとフォークを手に取る。が、マリアが自分のフォークを突きさす方が早かった。
「ん? 私にくれるんじゃないの?」
ムッと眉を寄せてセシアが顔を上げる。すると、マリアは艶やかに微笑んでフォークをセシアの口元へと運んだ。
「はい、あーん」
「はぁ?」
「あ、ほら、形崩れて落ちちゃうから、早く」
マリアはにこにこと微笑んで、再度「あーん」と言ってくる。
先程苺を食べさせられた時は平気だったのに、こんな風に意図的にされると恥ずかしくてたまらない。
顔を赤くしたセシアは、ええい、とフォークに齧りついた。
もぐもぐと咀嚼すると、タルトは本当に美味しかった。が。
「さっきの仕返しね?」
「どうしてそんな意地悪言うの?」
先程と同じ言葉をもう一度呟いて、マリアがふふっと笑う。というか、ずっと笑っている。
「やけにご機嫌ね……」
「だって、久しぶりのデートだもの」
セシアの唇の端についたカスタードを、マリアのほっそりとした指先が拭う。そのままマリアはぺろりと指を舐めた。
「……誘拐で麻薬で横領なのに?」
「そんなの、私とセシアにかかれば、デートのちょっとした前哨戦よ」
「デートと前哨戦は普通一緒に語らないと思うけど……」
二人は視線を合わせて、ニヤリと笑い合う。
そんな風にお喋りを続けながら、順調にお菓子を摘まむ。マリアオススメのチョコレートのケーキの絶品で、こちらもマリアに一口奪われた。
香り高いお茶を飲みきって、たっぷりと甘いものを食べ終えた二人は、ほう、と満足の溜息をついた。
「んんー! 美味しかったぁ」
「でしょう。ココ、本当にオススメなの」
二人は店を出ると、横の裏路地に素早く入る。柱を伝って店の屋根に上ると、本来の目的である敵のアジトはこの店のすぐ裏にあったのだ。
敵が油断しきっている、この午後の昼下がりに急襲をかける。
「さぁて。腹ごなしにさっさと片付けて、デートの続きをしましょ! ハニー」
ぐっと拳を握って勇ましいことを言うセシアを、マリアは眩しそうに見つめて柔らかく微笑んだ。
「そうね、ダーリン」
ワケ潜コミカライズ1巻発売、おめでとうございます!
皆様、どうぞよろしくお願いします!!




