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「セシア?」
メイヴィスに声を掛けられて、セシアはぎこちなく振り向く。
さりげなく赤毛の女性とメイヴィスの間に自分の体が入るように立ち位置を変えて、首を傾げてみせた。
「なんです、メイ様」
万が一のことを考えて、メイヴィスが王女だとすぐにバレてしまわないように、愛称で呼ぶことは予め話し合っていた。
犯人は知っているので意味はなかったかもしれないが、他の被害者女性に王女が誘拐されていることは知られない方がいいだろうから、こうなるとは予測していなかったが決めておいてよかった、とセシアは内心胸を撫で下ろす。
ないと思いたいが、この誘拐されてきた女性の中に犯人側のスパイがいないとも限らない。
ある意味、既にスパイはいるようだが。
「あまりここに長居しない方がいいのではなくて?情報が手に入らないようならば、皆で早々に脱出しましょう」
「そうですね」
セシアは頷いた。メイヴィスも、守るべき国民を前にして、王族としての冷静さが戻ってきたらしい。
振り向くと、女性達はセシアに注目していた。注目されるのは、慣れていないので苦手だ。
だが、彼女達にきちんと説明をしなければ。
「皆、さっきも言ったように、私達も連れてこられた側だから、ここがどこなのか、犯人が何人いるか全然分かってないの。当然騎士でもなんでもないから、この後皆を守って逃げる、てことも出来ない」
「じゃあなんで私達を解放したのよ!見つかったら、逃げようとしたからって殺されるかもしれないのに!」
一人の女性がヒステリックに叫ぶ。
「……あんた達を解放したのは、私の我儘だよ。拘束されたままでいるのを、そのままにしておいたら良心が咎めたから。親切心や、慈愛の気持ちとかじゃない」
セシアはハッキリと言う。
人助けをしたとは思っていない。
ひょっとしたら、このまま誘拐されて、犯人の目的に使われることを望んでいた人も、いたのかもしれない。
「……いい事した、なんて思ってない。残りたい人は残って。逃げたい人は逃げて。自分のことは、自分で決めて」
無理矢理連れてこられて、選択肢がないまま流されるのを見ていたくなかったのだ。
セシアが言うと、ほとんどの女性は部屋を出て行った。彼女達も状況は理解出来ていて、叫び声を上げたりせず、しかし慌てて外を目指して走っていく。
「で、なんであんたがいるのよ」
そのどさくさの中でセシアは赤毛の女性、見慣れた姿のマリアに近づいて声を掛ける。
マリアは苦笑をして、手を降参のポーズに掲げた。
「いやぁね。私だって誘拐されてきたに決まってるでしょう?怖かったぁ……」
うるっと嘘泣きをするマリアの頬を、セシアは容赦なく引っ張る。
「妹姫の前でやる?それ?やる??」
じろっとマリアを睨んで、セシアは女性達が出て行くのを心配そうに見送っているメイヴィスを示す。幸い彼女はまだこちらのやり取りに気付いていない。
妹の頼りない華奢な背中を見遣って、マリアは真顔になるとセシアの手を握った。
「……メイのこと、守ってくれて礼を言う。お前があいつの傍にいるって分かってたから、落ち着いて作戦行動が取れた」
「成り行きだけどね……ん?作戦?」
マリアの言葉にやれやれと首を振ったセシアは、そこで眉を寄せる。
失踪すれば最優先で捜索が始まる筈の王女を誘拐しておいて、放置していた犯人達。
未だ、この広い倉庫の中で彼らと遭遇していない現状。
「……この状況って、あんたが関係してるの?」
「さすが察しがいいわね、セシア。この倉庫街一帯を現在騎士隊が包囲しているの。ここではね、エメロードの見目美しい女性を誘拐して、他国に密売する……人間の輸出が行われていたのよ」
人間の輸出、という言葉に、セシアは青褪める。
「王女様も?」
「メイは、誘拐対象としてリスクが大き過ぎる。ようやくこのアジトを突き止めたのは最近で、私が囮として誘拐される形で潜入してきた後に、あなた達が誘拐されてるから……」
「……そろそろ潮時だと見て、リスクを冒してでも大物を誘拐した、てカンジかしら」
「そういうこと」
「それって、あんた達の動きも犯人側に筒抜けの可能性あるわよね、大丈夫なの?」
マリア…マーカス達が誘拐犯のアジトを突き止めてからさほど時間が経っていないのに、犯人達はリスキーな最後の大仕事を敢行している。
単純に考えれば、追跡者達にアジトがバレたことを知っての派手な行動だろう。
「そこは、国の威信に賭けてなんとかするわよ」
言って、マリアはすくっと立ち上がる。
「悪いけど、もうしばらくメイのことお願いしていいかしら。私は外にこの状況を知らせてから、後を追うわ」
マリアの、コーラルピンクの爪先に魔力が集まる。魔法で伝令か何か飛ばすのだろう、セシアにはまだ出来ない魔法だ。
誘拐されてからもこうして外部と連絡を取っていたから、メイヴィスとセシアが共に誘拐されたことをマリアは知っていたのだろう。
「……いいけど。助けに来るなら王子様の姿にしてよね!」
「あら、セシアも王子様に助けられたい願望があるの?もう、隅に置けないわねっ!」
何故かうきうきと嬉しそうに笑うマリアに、セシアはへっ、と舌を出してみせた。
「私じゃないわよ、ブラコンのお姫様の為よ!」
セシアが指し示すと、不安そうなメイヴィスをマリアは見遣る。
妹の体に傷ひとつついていないことを認めて、マリアは柔らかく微笑んだ。
「わかった。颯爽と白馬に乗って、助けに行くわ!」
「いや、普通でいいけど。女装姿見せたら可哀想なだけで」




