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【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第九章 黒幕さん、ファイトです!

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4

 今週は心臓に悪いイベントが目白押しだ。


 週末のラクリマの湖のことも不安で仕方がないけど、その前に今日行われるノエルとフレデリクの決闘もまた不安で。


 ゲームの中のフレデリクは結局、ウンディーネの騒動で決闘はうやむやになってしなかった。

 この時に好感度ごとにフレデリクの選択肢が変わるんだけど、好感度が高いと助けてくれたサラの言葉に心を動かされてジラルデ家の当主になると改めて誓う。一方で好感度が低いとジラルデは悩みを断ち切れないままになってしまうのよね。


 ジラルデは勝敗にどう賭けているのかしら?

 結果によってはまた流れが変わるかもしれないもの。しっかり見届けないといけないわね。


 意を決して決闘場所である鍛錬場に行ってみると、すでにギャラリーができていた。

 無理もない、生徒と教師の真剣勝負は好奇心をくすぐるわよね。


 みんなのお目当てであるノエルはと言うと、剣術部の部員らしき生徒と話していた。その手には剣を握っている。


「わ、ノエルが剣を持ってる!」

「さっき剣術部から借りて来たんだ」


 剣を持つノエルの姿は新鮮だ。


 そう言えば、学生時代はジスラン様が剣術部に入っていたからこっそり覗いたり練習試合を見に行ったりしたわね。

 我ながら健気な恋してたわ。


「ここに来るのは久しぶりだなぁ」

「前に来たのはいつ?」

「学生時代よ。幼馴染の練習試合を見に来て……」

「ビゼー卿のことか」

「ひいっ」


 幼馴染=ジスラン様って把握されている。

 もしかして、調べたの?!


「顔にわかりやすく書いてたよ」


 訊ねる前に教えてくれる。

 ノエルあなた、やっぱり私の心を読めたりするの?


「気のせいよ」

「そうだね、気のせいであって欲しい」 

「えっ?」


 ノエルはそう言うと頭の上にハテナマークが乗っている私に構ってくれることなく、フレデリクの前に進み出た。

 審判役を買って出たドナが開始の号令をかけると、二人から緊張感が放たれる。


 先に動いたのはフレデリクだ。


 ノエルは振りかざされた剣を受け止めるとすぐに流して間合いを取る。久しぶりに剣を握ったとは思えないほど軽い身のこなしで、余裕なのか微笑みさえ浮かべている。


「やっぱファビウスの噂は本当だったんだな」


 ドナがぽそりとつぶやいた。


「噂って?」

「んー、小さい頃は剣の腕がいいって有名だったらしいぞ。剣聖にもなるんじゃないかって騒がれてたらしいけど、ある日いきなり剣を握らなくなったってよ」

「そう、だったんだ」


 黒幕はチートだから何でもこなせるのかしら?

 だけど、ある日いきなり剣を握らなくなったっていうのがまた引っかかるわね。

 

 胸の中でモヤモヤとしたものが疼く。

 ノエルは今、どんな気持ちで剣を握っているのかしら……。


 複雑な気持ちで見つめる先にいる二人は、しのぎを削って睨み合っている。

 

「そろそろ終わりにしよう」


 ノエルはそう告げると攻勢に転じた。

 構えを変えて次々と斬りかかる。受け止めるフレデリクは一撃ごとに顔を顰めた。


 カシャン!


 フレデリクの手から剣が離れ、空中を舞う。

 音を立てて地面に落ちてしまった。視線を彼らに戻せば、ノエルは剣先をフレデリクに向けて、首筋に当たるギリギリで止めている。


「おおおお! 勝者はファビウス!」


 ドナが声を張り上げると、拍手喝采と完成が巻き起こり、ノエルはフレデリクに手を差し伸べて握手を求めた。


 すごいすごいすごい! 

 久しぶりに剣を握ったって言ってたけど、まるで本当の騎士みたいだった。特に最後の動きは勢いがあるのに綺麗で見惚れてしまったわ。 


 それに、「そろそろ終わりにしよう」だなんてRPGでしか聞いたことない台詞が様になっていたのも良かったわ。さすがはノエル。


「うわ……! ノエルカッコいい!」


 ギャップ萌えと言うやつだろうか。

 普段は文官らしく落ち着いている姿しか知らなかったから、こんなにも勇ましい一面を見せつけられると数割増しでカッコよく見える。


 褒めたい、無性にノエルを褒めたい。


 胸の奥底から気持ちが湧き上がってソワソワしていたところ、戦いを終えたノエルが現れた。

 

「おめでとう! ノエルの強さに見惚れちゃったわ! お母さんがご褒美をあげるからなんでも言いなさい!」


 わしゃわしゃと頭を撫でまわすと、ノエルはジト目で睨んできた。


「それ、まだ続いているのか……」


 溜息をついているのに大人しく撫でられてくれている。しかも、始めは不服そうな顔をしていたというのに、しばらくすると目を閉じてじっとしているのが不覚にもかわいらしいと思ってしまった。


 しかし、いつまで撫でられてくれるんだろ?


 生徒たちに注目されて、そろそろ私の方が恥ずかしくなってきた。

 ゆっくりと手を下ろすと、ノエルは瞼を開く。ちらと見えた紫水晶のような目と目が合った刹那、彼の目の奥に不可解な感情が見えて、ぶるりと震えてしまった。


「それなら、またデートしよう。髪を下ろして来て」

「えっ?!」

「第二の母上とやらはなんでも聞いてくれるんだよね?」

「え、ええ。もちろん」


 まさかデートしようと提案されるとは思わなかった。

 そんなことでいいの?


 まあ、あまり無茶なお願いされたら叶えられないから、私としては助かるけど。

 

 釈然としない気持ちでいると、フレデリクに声をかけられた。


「メガネ、ファビウス先生に頼んでくれてありがとうございます」

「いいえ、たいしたことはしてないわ」


 聞いてもいいのかしら?

 負けたばかりのフレデリクにかけるべき言葉ではないかもしれないけど、彼の未来のためだ。思い切って聞いてみた。


「ジラルデさん、ファビウス先生との勝負になにを賭けていたの?」

「勝てば次期当主としての役割を務めていこうと思っていました。でも、負けたので弟に譲ろうと思います」


 なんてことだ……弟に譲ると言うことは、バッドエンドの道を進んでいるのと同じだわ。

 フラグを折ったはずが悪い方向に進めてしまった。


 このままもしサラがフレデリクルートに入ってしまったら、バッドエンドへの道を踏み入れることになる。


 どうしよう。

 どうやって引き留めよう?


「そんな顔しないでください、おかげで吹っ切れたんですから」

「ジ、ジラルデさん、ご両親と一緒にお話しましょう?」

「ええ、ちゃんと伝えますから。だから泣きそうな顔しないでください。メガネのおかげでスッキリしました。本当にありがとうございます」


 でも、もしこの結果が影響してバッドエンドになってしまったら、フレデリクは命を落とすことになる。


 当主を継がなかったフレデリクは王国騎士団に入隊するため、在学中にとある騎士のもとに弟子入りすることになる。

 その時に学園がシーアに襲撃されて、駆り出されたフレデリクはシーアの魔術師に呪いをかけられて苦しみ、精神を壊されて敵味方の区別がつかなくなり、サラを殺してしまう。


 死に際にサラが遺した言葉を聞いてに正気に戻ったフレデリクは、罪を償うためと言って後を追って死んでしまう。

 

 嫌だ。

 そんなことがわかっているのに、そのままになんてできないわよ。


「でも、当主として今まで頑張ってきたのに止めてもいいの?」

「騎士として自分の力で居場所を手に入れたいんです。俺にはその方が向いてます」


 向いてる云々の話ではない。

 だけど反論しようとすると、ノエルに腕を引いて止められた。


「レティシア、止めるんだ。ジラルデがこの勝負に賭けた気持ちを尊重してあげよう。生半可な気持ちではこんなこと、できないんだから」


 ノエルの手がゆっくりと背中を撫でてくれる。

 まるで小さな子どもをあやすようで、宥めてくれている優しさにかえって涙が零れそうだ。


 私は生徒を危険から守れなかったのにこんなに優しくされると、罪悪感が次々と溢れてしまう。


「だけどジラルデ、騎士として生きていきたいなら、剣を持って守りたい存在がいるなら、後悔しないように考えなさい」

「もちろんです。迷いがあれば剣に出ると、さっき身をもって知りましたから」


 フレデリクは苦笑すると、ディディエと一緒に鍛錬場を出て行った。 

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電子書籍版の完全版2が2026年2月5日配信決定です!
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