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「よ~し、書くぞ~っ!」


 イザベルが帰るのを見届けてから、机の引き出しを開けて封筒やら便箋やらを取り出す。


 まずは招待状の準備から始めよう。


 指を振れば羽ペンが書いてくれる魔法も使えるんだけど、この招待状は手書きで気持ちを込めたい。


「やい、小娘。そんなにいっぱいあるなら魔法を使ったらどうだ?」


 羽ペンを走らせていると、机の上に座って様子を見守っていたジルが手を止めてきた。

 予期せず肉球を触れてラッキーだと思ったが、言ったらジルは不機嫌になりそうだから黙っておく。


「手書きの方が気持ちが伝わるのよ」

「わからんな。文字なんて全部同じにしか見えないというのに」

「ジルは猫だからわからないのよ」

「俺様は猫なんかじゃないっ! 高潔なケットシーだっ!」

「はいはい、わかったから静かにして。書き間違えちゃう」


 まあ確かに、こんだけ全部書いたら腱鞘炎を起こしそうなんだけど。

 それでもジルに言ってしまった手前、魔法を使えないので意地で人数分を書き終えた。


「これでよしっと。さあ、みんなに届けてちょうだい」


 指を振るれば手紙は宙に浮いて、扉を開けると飛んでいった。

 きっとすぐに、学生寮にあるサラたちの部屋に届くだろう。


「お次は買い出しね。日持ちするものは先に買って教室に入れておこうかしら」


 パーティーをするのに教室を使ってもいいと、特別に学園長から許可をもらっている。


 ひとまず必要になりそうなものをリストアップすることにした。


 ・ケーキやお菓子の材料

 ・部屋をデコレーションする飾り

 ・冬星のおまじない用のキャンドル

 ・ミニゲームをするためのカードゲーム(いわゆるトランプ)


 ごちそうは食堂のシェフが作ってくれるらしいんだけど、なんせ料理人たちも休暇でほとんど帰ってしまったから人手が足りなくてケーキまでは手が回らないらしくて、それなら私が作ろうかなと思ってる。


 食品は後日買うとして、まずは装飾品を揃えないといけないわよね。


「う~ん、今日のうちに買い出しに行った方がいいわよね」

「お! 街に行くのか!」


 ジルは外を出歩くのが好きなようで、ソワソワとしている。

 本当は私の見張りとかしてないで自由に歩き回りたいわよね、猫だもの。

 本人は猫じゃないって言ってるけど。


「私ひとりじゃどれくらい買って運べるかしら? ケットシー宅配便は繁忙期だから届くのが遅くなるのよね」

「一日一回は街に出ればいい」

「それじゃあ仕事ができないわよ」


 勤務時間は短縮されるけど、休暇になっても教師たちは冬星の本祭まで仕事があって、次の学期に向けた準備があるんだから。


 ひとまず、今日は飾りを買いに街に出ることにした。


   ◇


「人でいっぱいね。ジル、はぐれないようにね」


 休暇になったためか、王都はいつも以上に賑わっている。


 馴染みの雑貨屋を目指して歩いていると、ノエルと初めてデートに行った時に入ったカフェを見つけた。

 あの時にケーキを食べていたノエルを思い出すと、なんだか寂しくなってしまう。


「ねぇ、ジルはノエルと心が繋がってるんでしょう? 伝言してくれない?」

「人使いが荒いな。ご主人様の仕事の邪魔をするようなら伝えないぞ」

「『ちゃんと休んでる?』って、聞いてよ。それだけでいいから」

「はぁ、まったく。俺様を伝書鳥のように扱いやがって」


 文句を言いいつつ、ジルは目を閉じて意識を集中させている。

 ヒゲがぴくぴくと揺れていて、電波を送信しているように見えて面白い。


「うむ。『元気だから心配しないでくれ』だとよ」

「よかった。『早く帰って来てね』って伝えて」

「おい、小娘! 一言だけじゃなかったのか?!」

「一言とは言ってないわよ?」


 嘘じゃないわ。

 一言だけとは言ってないもの。


 ジルはぷんすこと怒っているけど、ヒゲが揺れているから、たぶん伝えてくれてるんだと思う。


   ◇


 雑貨屋や冬星の祝祭日に合わせた出店で飾りを揃えていると装備品店の前を通りかかり、ショーケースの中にある美しいアクセサリーたちと目が合う。


 そういえば、ノエルは冬星の本祭の日に来てくれるから、なにかプレゼントを用意しようかしら。

 冬星の祝祭日では、大切な人にプレゼントを贈る風習があるのよね。


 ノエルが欲しいものがちっとも思い浮かばないんだけど……お守りみたいなものにしようかしら。

 また今回みたいに危険な地域に行くことがあるかもしれないものね。


 こういうお店には入り慣れてないんだけど、意を決して扉を叩いた。


「すみません、防御魔法を付与した贈り物を探してるんですけど、ありますか?」


 お店の中は狭いけど綺麗で、磨き上げられた装備品たちが輝いている。

 溌溂とした笑顔が素敵なお姉さんが出てきて対応してくれた。


「いらっしゃい、誰に贈るのかしら?」

「男性です。あまり装飾品とかつけない人なんで、なにがいいかわからないんですよね」

「なるほどね~。その恋人は騎士様?」

「こ、こいび、と?! ……あ、騎士じゃないです。文官でして」

「あらぁっ! エリートを捕まえたなんてうらやましいわ。文官なら指輪とかどうかしら?」


 お姉さんは指輪を並べたトレーを出してくれた。

 色んなデザインの指輪が並ぶ中、ひときわ目を引くものがあった。


 金色の土台に黒くて艶やかな魔法石がつけられたシンプルな指輪で、何故かそれに釘づけになってしまった。

 ノエルの髪を思わせる、濡れ羽色の魔法石が使われているからかもしれない。


「これにします」

「あら、もう決まったの? 他は見なくていい?」

「はい。これを見た瞬間、似合いそうって思ったんです」

「ふふ、いいわねぇ。冬星の本祭では甘い時間を過ごしてね」

「そういうのはないんですけどね」

「またまたぁっ! 照れちゃって可愛い」


 お代を払って包んでもらっている間、お姉さんが恋人を夢中にさせるための心得的なものをさんざん聞かせてくるものだから、お店を出る頃にはぐったりとしてしまった。


 伝授された心得を実践する時は、永遠に来ないと思う。

ブクマ&評価をありがとうございます!


LI●Eがわりのジルのおかげでちょっぴり寂しさを紛らわせたレティシアだけど、まだ自分の気持ちには気づけていないようです……。


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