【電子書籍完全版2配信記念】ノエルの幸福
こんにちは。
いつも応援いただきありがとうございます。
黒幕さん電子書籍版の完全版2が配信開始しましたので、記念SSを投稿いたします!
真夜中に目が覚めると、レティに抱きしめられていた。
私の胸元に顔を寄せて目を閉じている姿を見ていると、胸の中が幸福感で満たされる。
たまに、こういった予期せぬ嬉しい出来事が起きるのだ。
しかし、今回は一つだけ、気になる点があった。
どうやら、レティは既に起きているようだが、私を起こさないようにじっとしているのだ。
「……レティ、眠れないのかい?」
「ノ、ノエル……もしかして、起こしてしまったかしら?」
レティは瞼を開くと、不安そうに私を見上げてきた。
そのような表情を見せられると、どうにかして安心してほしくなる。
「いいや、いつもこれくらいの時間に起きて、レティの顔を眺めるのが習慣なんだ」
だから、私は嘘をつきながらレティを抱きしめ返して、レティの額にキスをした。
レティは腕の中で、くすぐったそうに笑う。
少しだけ、いつもの彼女に戻ったようで、安心した。
「もうっ、わざわざ夜中に起きてまで見るようなものではないでしょう?」
「ずっとレティを見つめていたいんだ。むしろ、寝ている時間が惜しいくらいだよ」
レティを見つめると、レティは頬を赤くして、私の胸元に顔を埋めてしまった。
可愛らしいから、そのままレティの頭や背中を撫でる。
「レティは、なぜ起きていたんだ?」
「……うん、ちょっとね……」
レティは少し躊躇う素振りを見せたが、曖昧な返事をした。
理由が気になるが、気が進まない状態のレティに対して、深堀をしたくない。
「もう一度、眠れそう?」
「ええ、ノエルが撫でてくれていると心地よいから、眠れそうだわ」
「それはよかった」
「だけど……ノエルの声を聞いていたいから、少しの間だけ、話しに付き合ってもらってもいいかしら……?」
なんて可愛いおねだりなのだろう。
自分の頬が緩むのを感じた。
「もちろん。大歓迎だよ」
私はレティの頭や背中に触れながら、二人でピクニックに行く計画について話した。
初めはレティも会話に参加してくれていたが、次第にレティの反応がまばらになる。
しばらくして、レティから規則正しい寝息が聞こえてきた。
「おやすみ、レティ。良い夢を」
私はレティの髪を一房掬って、キスをした。
◇
翌日の昼下がり、執務室で仕事をしていると、隣に並ぶ机で同じく仕事をしていたレティが立ち上がる。
どこへ行くのだろうかと思っていると、こちらにやって来た。
「どうしたんだい?」
「……邪魔ではなかったら、隣に居てもいいかしら?」
「大歓迎だよ。――二人で並んで座れるように、ソファへ移動しようか」
レティから隣に居たいと言ってくれるのは、初めてだ。
私たちは執務室の端に置いてあるソファとテーブルへと移った。
レティが腰かけた隣に座ると、レティが私の肩に頭を乗せてくれる。
「ねえ、膝枕してもらってもいい?」
「……!」
一瞬だけ、私の願望が引き起こした幻聴かと思った。
「ああ、喜んで。……だが、急にレティから膝枕を願ってくれるなんて、どうしたんだ? いつもは、あまり乗り気ではないのに……」
「き、今日は、そういう気分なのよ」
レティの肌が、頬から首にかけて、赤く染まっている。
照れているようで、可愛らしい。
「なるほど。毎日そのような気分であってくれたら、嬉しいな」
私はレティの頬にキスをして、彼女を横たえさせた。
そして、控えていたミカが持って来てくれたひざ掛けを、レティの体に被せる。
「実は……昨夜、元にいた世界に帰る夢を見たわ」
「……っ」
レティが発した言葉に、私は心臓を掴まれたような苦しみを覚えた。
いつか、レティが元の世界に帰ってしまうのではないか。
もしくは、レティが元の世界に戻ることを願っているのではないか。
そうした恐れを、ずっと抱き続けてきた。
「……久しぶりに、親しい人たちと再会できたかい?」
「ええ、そうね。懐かしかったわ」
レティが身動きをとり、仰向けになる。
ミルクティーのような優しい色の瞳が、今にも涙を零しそうな気配を滲ませて、私を見つめた。
気付けば、私の右手は、レティの頬に触れていた。
もしもレティが涙を零したら、すぐに拭えるように。
レティはその手の上に自分の手を重ねると、目を閉じて、頬擦りをしてくれる。
「家族や友人に、生徒たちを遺してこの世界に来たから、未練がないわけではなかったわ。……だけど、ノエルがいない世界ではもう、生きていけないと気付いたの。夢の中ではノエルがそばに居なくて、とても寂しかった。だから、もしも急に元の世界に戻ることになったらと思うと……怖いと思ったわ。ノエルから、離れたくない」
「レティ……!」
感極まって、言葉がすぐには出てこなかった。ただ、込められるすべての愛おしさを込めて、彼女の名を呼ぶので精一杯だ。
私がいるから、この世界で生きていきたいと言ってくれた。
それが、どんなに私を幸せな気持ちにしてくれたのか、いくら言葉を尽くしても、レティには伝えきれない気がする。
「最高の告白を、ありがとう。幸せ過ぎて、どうしようもなくレティを抱きしめたくて、仕方がないよ」
私の言葉に、レティは笑って体を起こす。
そうして、私が抱きしめるより先に、レティから抱きしめてくれた。
レティの温かさや、匂いが、私を安心させてくれる。
「レティだけを愛しているよ。永遠に」
私は目を閉じて、レティの唇にキスをした。
ついに電子書籍版の黒幕さんシリーズの完全版も最終巻の発売となりました。
連載開始から5年もの間、応援いただき誠にありがとうございました。
完結まで書き進められたことや、本作が商業化できましたのは、ひとえに皆様に応援いただきましたおかげです。本当に、ありがとうございます。
(感謝の思いでいっぱいで、ありがとうございましたしか言えず、すみません…)
本作が少しでも、皆様のお楽しみになることができていましたら、とても嬉しいです。
一旦は結婚編の年内完結に向けての執筆をしていきますが、機会がありましたらまた番外編を投稿していきますね。
それでは、新しい物語の世界で、またお会いしましょう。
そして、よろしければまた、オリア魔法学園に遊びに来てくださいませ!
レティシアやノエルたちと一緒に、皆様のご来訪をお待ちしております。




