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【電子書籍3巻配信記念】レティシアのメガネの行方

お久しぶりです。本日電子書籍3巻が配信されましたので記念SSを投稿いたします!

レティシアのメガネが欲しいノエルのお話です。

「あら、メガネをここに入れておいたこと、すっかり忘れていたわ」


 私は魔法薬学準備室の戸棚の引き出しから銀縁メガネを取り出す。

 かつて毎日かけていたメガネだけど、サラたちの卒業式の日の夜にノエルが魔法で視力を回復してくれてからは使っていない。


 戸棚の整理を手伝ってくれているノエルが、私の声を聞いて隣に来た。

 

「全く見かけないからどこに片付けているのかと思ったら、そこだったのか」

「卒業式の後に、ここに入れたままだったみたい」

 

 私は手に持っているメガネをかけてみた。

 久しぶりにかけたメガネは想像以上に度数が強く、眩暈がする。


 ふらりと傾く体を、ノエルが咄嗟に片手で抱き止めてくれた。

 

「レティ、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。度数が強いからふらついてしまったのよ。私、とても目が悪かったのね」


 ノエルは私からゆっくりと手を離すと、まるで壊れ物に触れるかのような丁寧な手つきで、私からメガネを外した。

 眼鏡を正面から観察すると、右側のレンズを人差し指でトントンと叩く。

 

「このレンズに魔術をかけたら、度数を調節できそうだ」

「あら、ノエルが視力を回復してくれたから、私はもうメガネをかけなくて大丈夫よ?」


 私の言葉に、ノエルはなぜか照れくさそうにはにかんだ。

 

「私がかけてみたいんだ。もし良かったら、譲ってもらえないだろうか?」

「いいけど……もしかして、視力が悪くなったの? それなら私が使っていたメガネを使うよりも、新しいものを作った方がいいわ。きっとメガネのフレームが合わないと思うもの」


 ノエルは目がいい方だと本人から聞いていたのだけど、仕事で目を酷使したから視力が落ちてしまったのだろうか。

 このところ、ノエルは魔術省の仕事に加えて領主としての仕事も増えたため、一日の大半は資料に目を通しているのだ。


 ノエルは私の言葉を聞くと、口元に微笑みを浮かべて首を横に振る。


「いや、目が悪くなったのではないよ。レティが見ていた世界を見たいと思ってね」


 そう言うや否や、早速ノエルは魔法でレンズに小さな魔法印を刻印すると、今度は魔術をかける。


 ノエルの手元にあるメガネが一瞬だけ、淡い金色の光を帯びた。


「成功した?」

「ああ、レンズの度をなくしたよ」


 ノエルの声はどこか弾んでおり、魔術の成功を喜んでいるようだ。

 そんなノエルが少し可愛らしいと思い、微笑ましく見守っていると、彼はメガネをかけた。

 

 銀色のフレームはノエルの白い肌をより綺麗に魅せ、知的な雰囲気を醸し出す。

 おまけにメガネをかけたノエルはいつもとはまた違うカッコよさがあり――色気が倍増した気もする。


(同じメガネをかけているのに、どうしてそうなるの?!)

 

 ノエルから目が離せずにいる私に、ノエルは微笑みを浮かべて首を傾げる。

 その仕草もまた今のノエルがするとときめいてしまい、心臓からズキュンという音が聞こえたような気がした。

 

「どう?」

「よ、よく似合うわ」

「レティ、どうして顔が赤くなっているの?」

「~~っ!」

 

 私は咄嗟に自分の頬に手を当てた。じわじわと頬の熱が手に移る。

 

「こ、これは、その……」

「熱があるなら、今日は早く帰って寝よう。このところ屋敷の切り盛りで忙しかっただろう? ゆっくり休んだ方がいい」


 ノエルはメガネをつけたまま、私の額に自分の額をくっつける。


「熱は無いようだ」

「え、ええ、そうね」


 ノエルは少しだけ私から顔を離す。

 相変わらず至近距離だ。

 

 メガネのレンズ越しに紫水晶のような瞳に見つめられると、ドキドキとして落ち着かない。

 

「メ、メガネをかけているノエルがカッコよくて、ド、ドキドキしてしまったのよ……」

 

 あまりにもいたたまれなくなってしまい、思わず言ってしまった。


 ノエルは瞠目して固まった。

 

「レティが私を、カッコいいと言ってくれた……」


 そう小さく呟くと、ふにゃりと嬉しそうに微笑む。その微笑みもまた、私をキュンとさせるから困る。

 

「これからは毎日メガネをつけようかな?」


 まさかの伊達メガネ宣言だ。

 毎日見ていたらなれるのだろうか。いや、慣れる前に心臓がもたなくなりそう。


「ま、毎日ではなくて、たまにつけるのはどうかしら?」

 

 慌てふためく私を、ノエルはしっかりと抱きしめて頬にキスをする。 


「そうだね。たまにつけてレティに見てもらいたいところだけど――レティの大切な思い出の品だから、厳重に保管しておくことにする」

「ええ、そうしましょう! ぜひ!」


 この後、ノエルはファビウス家のお屋敷に戻ると、執事長に言いつけてメガネを入れるメガネケースならぬ宝箱を用意させた。


 ノエルは生涯大事に保管していた。

 ファビウス侯爵家の末裔たちの間で、なにか特別な由縁があるメガネのようだと言い伝えられるほどに。

 

電子書籍3巻では書き下ろしSSにレティシアとノエルが二人の結婚式の準備をするお話を収録いただいておりますのでお楽しみいただけますと嬉しいです!

引き続き黒幕さんをよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


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電子書籍版の完全版1が2025年12月4日配信決定です!
-ミーティアノベルス様告知サイトへの移動はこちらの文字をクリック- 挿絵(By みてみん)
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