【電子書籍2巻配信記念】光使いは学園生活を振り返る
ご無沙汰しております。
電子書籍2巻が配信されましたので、記念SSを公開です!
初めてのサラ視点となります!
オリア魔法学園を卒業してから四カ月ほど経った。
私は卒業後に正式に魔術師団の光使いとなった。
魔術師団では魔物討伐の遠征がある時以外は毎朝鍛錬をすることになっているため、今日も朝の鍛錬を終えた私は二人の先輩たちと一緒に鍛錬場の隅で休憩している。
先輩のフェリシーさんは元子爵令嬢で、魔術師の仕事を続けたいから平民の裕福な商人と結婚して今は平民だ。すらりと背が高く、水色の髪と瞳が綺麗で知的な印象のお姉様だ。
グラシアンさんは男爵で、鳶色の髪と緑色の瞳を持つ爽やかなイケメンで、誰にも気さくに話しかけている。
二人とも私より四歳年上で、オリア魔法学園の卒業生だから学園の先輩でもある。
「そういえば、サラはオリア魔法学園の卒業生だよな。グーディメル先生は元気か?」
「はい! いつも元気で、たまにドルドル――見習い騎士のファビウス卿がサボっているところを見つけると追いかけて説教していました!」
私が在学していた頃のグーディメル先生の思い出を話すと、フェリシーさんがふふっと上品に笑った。
元貴族令嬢のフェリシーさんはあらゆる所作が洗練されていてとても綺麗。
「相変わらず元気なおじい様ねぇ。私が在学していた時も、門を越えて街へ出ようとした生徒たちを追いかけて捕まえていたわ。そういえば、魔法応用学のオーリク先生はお元気?」
「私が在学していた時はギックリ腰で療養していたので、代わりにファビウスせんせーが教えてくれました!」
「ああ、そういえば魔術省のファビウス卿が教師をしているという噂を聞いた事があるな」
「私も聞いたわ! あの魔性の貴公子に教えてもらえるなんて羨ましい!」
フェリシーさんは心底羨ましそうに叫ぶと、鍛錬着の上着のポケットから取り出したハンカチを噛んだ。
いつも上品でお淑やかなフェリシーさんらしからぬ反応に、私は驚きのあまり固まってしまう。
フェリシーさんはファビウスせんせーの大ファンで、舞踏会で見かける度にじっくりと鑑賞していたらしい。ファビウスせんせーって本当に人気者だなぁ。
「魔法薬学はロアエク先生だよな? グーディメル先生とは正反対の、聖母みたいな先生だったなぁ」
「いいえ、魔法薬学はメガネせんせーです」
「メガネ?」
グラシアンさんがきょとんと首を傾げる。私は自分がメガネせんせーをあだ名で呼んでいた事に、今気づいた。
「あ、ベルクールせんせーです! ずっとあだ名で呼んでいたので、ついあだ名で言ってしまいました!」
「サラったら、恩師の名前を忘れるなよ。その先生が聞いたら泣いてしまうぞ?」
「うっ。名前は、私はメガネせんせーと過ごした日々をちゃんと覚えていますよ! 世界で一番大好きな先生ですから!」
メガネせんせーはいつも私たちを見守ってくれていて、だけど私たちが危険な目に遭うとすぐに駆けつけて助けてくれた。
それにメガネせんせーのおかげで、私はイザベルという大切な大親友ができたのだ。
(まさか貴族の友だちができることになるなんて、思ってもみなかったなぁ)
オリア魔法学園に入学した当初は、貴族出身の生徒たちの悪意ある言葉や悪質な意地悪にへこたれそうになることもあった。
貴族からの嫌がらせで心が弱ってしまったせいで最初はイザベルのことも怖かった。けれど一年生の時に植物園で魔物襲撃事件が起こった後から、少しずつ交流するようになった。
その後、メガネせんせーが私たちが仲良くなれるよう奔走してくれたおかげで私たちのクラスは平民と貴族の間にあったギスギスとした空気がなくなった。それからの学園生活は、どの場面を切り取ってもとても楽しいものになった。
「はぁ。メガネせんせーに会いたいなぁ……」
メガネせんせーの話をしていると、なんだか急にとても恋しくなってしまった。
もう一度ため息をついていると、鍛錬場に来たモーリーを発見した。
魔術師団の先輩たちはモーリーのことを「ディディエ」か「モーリア」と呼んでいるけど、私は引き続き「モーリー」と呼んでいる。
モーリーを見た途端、閃きが舞い降りてきた。
(そうだ! みんなで遊びに行こう!)
私は早速、モーリーを誘うことにした。
「モーリー! 来週の風の日はモーリーも非番だよね? 一緒にオリア魔法学園に行こう? 久しぶりにメガネせんせーと話したくなっちゃった!」
「わっ、リュフィエさん。突然だね。僕はいいけど……」
モーリーは眉尻を下げると、モーリーの隣にいる人物に視線を投げかける。モーリーが他の人と一緒にいたなんて気づいていなかった私は、その視線の先を見る。
なんと、モーリーと一緒にいるのはファビウスせんせーだった。
「あ、ファビウスせんせー!」
「久しぶりだね、リュフィエ。元気そうでなによりだよ。妻が君たちの事を気にかけているから様子を見に来たんだ」
ファビウスせんせーがにっこりと微笑むと、背後からフェリシーさんの黄色い声が聞こえてきた。振り返ると、フェリシーさんが目をハートの形にしてファビウスせんせーを見ている。
「ところでリュフィエ、来週の風の日のことだが――レティを観劇に誘う予定なんだ。お願いだから学園へ行くのは別日にしてくれ」
「……はい?」
「先ほど、レティが気になっている演目のチケットを手に入れたんだよ。久しぶりに誰にも邪魔されず外出をする機会なんだ。君たちが来ると知ればレティは観劇をそっちのけで君たちに会いたがるだろう。もし意地でも学園に行こうとするのであれば、私も本気で立ち向かおう」
ファビウスせんせーの笑顔に不穏な翳りが見えた。なぜかぞわりと寒気がして、私は両手で自分の体をさすった。
「リュフィエたちがオリア魔法学園に行けないよう、あらゆる手段を行使して君たちの休みを返上させようではないか」
「えーっ! 職権乱用ですよ!」
「新婚なのに妻と過せる時間が少ないから私も必死なんだ」
私が指摘すると、ファビウスせんせーは開き直ってしまった。
ファビウスせんせーはメガネせんせーのこととなると、ちょっと大人げない。
以前イザベルはそんなファビウスせんせーを、「ベルクール先生を心から愛していて、全力で尽くしているから素敵ですわ」と言っていた。
予定を狂わされてしまってちょっと恨み言を言いたい気持ちになるけど、ファビウスせんせーに意地悪するつもりはないからここで退こう。
「もーっ、わかりましたよ! だけど、その次の非番の日は、なにがなんでもお邪魔しますからね!」
私がそう言うと、ファビウスせんせーは安堵した表情を浮かべた。
私の背後でグラシアンさんが、「ファビウス侯爵の愛妻家ぶりは噂以上だな」と茫然と呟く声が聞こえてくるのだった。
電子書籍2巻は書き下ろしSSを2本掲載いただいています。
レティシアとノエルがほのぼのとしている様子を描いていますので、よろしければお手に取っていただけますと嬉しいです!
これからも黒幕さんをよろしくお願いします。




