【同人誌3巻発売記念】甘い誘惑
ご無沙汰しております。
このたび、BOOTHにて黒幕さんの同人誌3巻を発売しましたので、記念SSをお届けします!
ノエルの誘惑をお楽しみください。
私は魔法薬学準備室にある戸棚の一番下を、お茶菓子専用の収納場所にしている。
もともとは繁忙期に備えて非常食を保管していたのだけど、近頃はノエルや生徒たちが来るようになったからお茶菓子を置くようになった。
「レティ、補充したから好きな時に食べてね」
「うっ……嬉しいけど、最近お菓子を食べ過ぎているから控えさせてもらうわ」
いつの間にかノエルがお茶菓子を補充してくれるようになった。
今日も仕事帰りに王都に寄り、人気の焼き菓子店で袋一杯にお菓子を買って来てくれたのだ。
学園に泊まり込みで働いている私が自由にお菓子を買いに行けないから、代わりに買って来て補充してくれている。
おかげで毎日美味しいお菓子にありつけている。
(嬉しい反面、悩みの種でもあるのよね……)
なんせこの頃、顔にお肉がついてきたような気がしてならないのだ。
「そもそも、控えるなんて必要あるの?」
「あるわよ。堕落して食べ過ぎてしまうと、太るんだから!」
「むしろレティはもっと太った方がいいよ。だから安心して堕ちておいで?」
「ぬぬっ……悪魔の囁き!」
ノエルが言うと悪魔と言うより黒幕だ。
人を唆す台詞なんて他の人が言っても冗談のように聞こえるのに、ノエルが言うと様になっている。
「ダ、ダメよ。最近は舞踏会に行くことが増えたんだもの。舞踏会用のドレスを着た時に体型が変わっていたら周りから太ったって思われるわ」
「もしもレティの体型まで見ている奴がいたら、僕が葬り去るよ」
先ほどまでは楽しそうに話していたノエルから、急に不穏な空気を感じる。
見ると、ノエルは穏やかな笑みを浮かべているのだけど――目が笑っていない。
静かな怒りを感じるから恐ろしい。
「ふ、不穏な事を言わないで! そこまでしなくていいから!」
予想外の事で、黒幕(予備軍)らしさを発揮されてしまった。
私の心配事を真剣に受けとめてくれるのは嬉しいけれど、お願いだから被害者は出さないでほしい。
「お菓子を全く食べないわけではないわ。毎日食べるのは止めるだけよ。ノエルは気にしないで食べてちょうだい?」
「レティが食べない時は、僕も食べないよ」
「私に合わさなくていいのに……」
「レティと一緒だといつもより美味しく感じるから食べていただけで、もともと好んで食べたりはしないんだ」
ノエルは切なそうに眉尻を下げる。
なぜか、ノエルに犬の耳と尾がついているような幻覚が見えた。
「幸せそうに食べているレティの顔を見るのが好きなんだ。これからはあまり見られなくなるなんて……残念だな」
「ノエル……」
毎日お菓子を買って来てくれた理由を改めて聞かされると、決心が揺るぎそうになってしまう。
そう思っていたのだけど――。
「――そうだ、お菓子を食べる度に運動するのはどう?」
「う、運動?」
ノエルはどこか黒幕然とした、抜け目ない笑みを浮かべる。
「二人でダンスの練習をすればちょうどいいでしょ?」
「ダンスは……まあ、練習が必要だとは思っていたけど――」
なんせパーティーに出る回数が増えたから、その度にダンスに悩まされているのだ。
幸にもノエルがリードしてくれる時は上手く踊れるけど、いつまでもノエルに頼ってばかりではいられない。
とはいえ、かねてより運動不足な私が毎日体を動かせるのか不安だ。
言いよどむ私の口元に、ノエルが美味しそうなオランジェットを近づける。
これはノエルが今日買って来てくれた、有名店のお茶菓子だ。
お砂糖をまぶした色鮮やかなオレンジに、艶やかなチョコレートがかかっていて美しい一品。
誘惑に負けて食べさせてもらうと、ほろ苦いオレンジと甘いチョコレートの組み合わせに頬が緩む。
「……美味しい」
「よかった。レティのこの笑顔を毎日見たいんだよね」
そう言い、ノエルはふにゃりと笑った。
かくして私は、まんまと黒幕(予備軍)の誘惑に負けてしまったのだった。
同人誌は2024年2月29日(木)23:59まで販売しております。
※商品がなくなり次第終了となりますので予めご了承くださいませ
1巻と2巻の再販もありますので、お買い逃がしの方はぜひご購入をご検討いただけますと幸いです。
3巻の表紙は、王都でデートしているレティとノエルを描いてもらいました。
二人のデートの様子を見守っていただけますと幸いです(^^)
(今回の挿絵には、あのケンカップルたちが登場します!)
また、書き下ろしの新編や、SSをご用意しておりますので、お楽しみいいただけますと嬉しいです!
これからも黒幕さんをよろしくお願いします!




