今日だけは独り占めしたい(※ノエル視点)
「そのドレス、やはりよく似合っているよ」
小声で伝えると、レティは頬をかすかに赤くして「ありがと」と言った。
照れている姿がまたかわいいから困る。
今この時がどんなに幸せであるのか、言葉を尽くしても言い表せないのが口惜しい。
真っ白なドレスに身を包んだレティが教会に現れた途端、まるで己の時を止められてしまったかのように、身動きが取れなくなってしまったほど魅せられた。
ドレスのデザインが決まってから何度もレティのこの姿を頭に思い描いていたものだが、実際に着ている姿は想像以上に綺麗で見惚れてしまう。
やがて司祭の口上が終わり、私たちは誓いの言葉を交わした。
この日のために用意していた結婚指輪を手に取り、台座にはめ込まれている透明な魔法石に口づけして魔力を注ぐ。
それをレティの指につけると、レティはゆっくりと手を持ち上げて指輪に唇を落とした。
「綺麗ね」
レティが小さく言葉を漏らして、指輪を見せてくれる。
無色だった魔法石には、紫色と琥珀色のグラデーションができていて。
お互いの魔力が魔法石に溶け込んでできた奇跡のような変化に、感動のあまり言葉を返せなかった。
続いてレティが残りの結婚指輪を手に取り、同じようにして指輪を交換した。
レティの魔力が込められているとわかっているためか、冷たいはずの指輪に温かさを感じて幸福感が胸を満たす。
「レティ。あの日、回廊で話しかけてくれてありがとう」
憎悪で身が焼け落ちそうだったあの頃、レティの手を取らなかったらどうなっていたのだろうかと思うことがある。
きっと、泣きたくなるほどの喜びを味わう事なんてできなかっただろう。
「ノエルの方こそ、あの時私の話を聞いてくれてありがとう」
頬に手を添えられて、応えるようにレティを抱き寄せる。
触れ合わせた唇の熱に溶かされそうなほどの幸福感を覚え、何度も重ね合った。
◇
式はあっという間に終わり、拍手を贈られながら退場する。
その最中、レティは教え子のリュフィエたちを見つけると彼らの元に駆け寄った。
「ううっ……メガネせんせぎれ"い"でずっ!」
リュフィエは両目から涙を溢れさせ言葉にならない言葉を発している。
そんなリュフィエの隣にはセラフィーヌと、そしてアロイスの姿もある。
「リュフィエさん、まずはその涙と鼻水をどうにかしてください」
「うるさいっ! これは感動の涙なんだから放っておいて! アロイス殿下こそ、こんなに素敵な先生の姿を見ても涙の一滴も流さないなんて涙腺枯れてるんじゃないの?!」
「あと、先生はもうメガネをつけてないのにメガネ先生と呼ぶのはおかしくないですか?」
「メガネせんせはメガネせんせなの!」
リュフィエとアロイスはいつもの如く言い争っている。
卒業していよいよ国王になろうとしているアロイスは、他の教え子たちからは遠巻きに見られているのだが……。
リュフィエを含めた一部の者はこれまで通りに接しているようだ。
そんな彼らと話す時だけ、アロイスの表情が柔らかくなっているように思える。
レティは教え子たちに話しかけて、一人一人と抱きしめ合い言葉を交わした。
「みんな、今日は来てくれてありがとう。またみんなと話せて嬉しいわ」
優しい色の瞳にうっすらと涙を浮かべているレティは綺麗で、会場にいる誰にもこの姿を見せたくないと、醜い独占欲を抱く。
おまけに教え子たちが現れるとレティは彼らの事ばかり考えてしまうから。
しばらくは彼らにレティを盗られるのだと、そう思うと彼らのことが恨めしい。
しかし、レティの嬉しそうな顔を見ると邪魔なんてできない。
不満を口にする代わりにレティの目元を指先で拭った。
するとレティの眼差しはこちらを向いて、柔らかく微笑まれると決意は揺らぐ。
「よそ見なんてしないでくれ。今日は私だけを見ていて欲しい」
耳元で囁けばレティの頬はみるみるうちに赤く染まっていく。
「ノエルだけを見ていたら、誰にも挨拶できないじゃない」
唇を尖らせるレティを横向きに抱き上げると、招待客たちから歓声が起こる。
慌てて首元にしがみつくレティの頬にキスをして、会場を出た。
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次話も結婚式に来てくれたキャラたちとの交流が続きます。
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