レティ、意趣返しだよ(※ノエル視点)
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夕陽に照らされるレティの横顔に見惚れてしまう。
惹かれるままに腕を背に回すと、温かくて安心する香りが強まる。その中には自分と同じ香りもあり、レティと一緒に住んでいる実感がして落ち着く。
腕の中にいるのは最愛の人。
こんなに近くにいても時々、レティは全くこちらを見ていないようで、不安になることがある。
◇
レティが一生のお願いを聞いてくれと言うから甘い予感を感じ取っていたのに、実際に聞かされたのはスヴィエート殿下を救いたいという、予想を超えた願いだった。
「そもそも、シーアに行くのがどれくらい危険なことかわかってる?」
「当たり前よ! これまでに何度も衝突してきた国なんだもの。危険な場所だってことくらいわかってるわ」
わかっているのに行こうとするから困る。
生徒のことになると本当に必死になるものだから、きっと協力しないと言ってもレティはシーアに行ってしまうだろう。
それに加えて、止めたところで結果は見えている。
レティはきっと、なにがなんでもスヴィエート殿下を助けようとするはずだ。
そのためにも魔力至上主義の、魔術師たちが牛耳る敵国シーアに行くだろう。
ノックスの貴族がそこに行けば、なにをされるのか分からないのに。
私もまだ行ったことがない場所であるから、なにが起こるかまったく予想がつかない。
ローランの手引きで初めてシーア国王と会った時でさえ国境付近だった。
他国の外交官から聞いた話によると、一瞬の隙も見せられない場所だという。
そんな場所に行かせたくないが、レティはこちらの気持ちなんて少しも知らないだろう。
「ノエルが一緒にいてくれたら大丈夫だから」
「……っ。こういうときだけ調子がいいこと言うよね」
「失礼ね。いつもそう思ってるわよ」
レティがそう言って頼ってくれるのは嬉しいが、乗せられてはいけない。
いまこの時ぐらいしか、レティに交換条件を提示できそうにないから、まだ頬を緩ませてはならないのだ。
「シーアに着いたらなにがあっても離れないって約束できる?」
「もちろんよ! しっかり、ガッツリ、ピッタリくっついて離れないから!」
「……本当にそうしてくれたらいいんだが……」
前科が多い婚約者さんのことだから、なにかの拍子に消えてしまいそうでたまらなく不安だ。
失わないようにどこかに閉じ込められたらいいのにと、何度思ったことだろうか。
危険だからダメだと言いたいところだが、そんな選択肢はレティに頼み事をされた時点で無いに等しい。
「いいよ、レティの願いなら叶えるつもりだ」
「本当に?」
「ああ、嘘じゃない」
「やったー! ノエル、ありがとう!」
そう言って抱きしめてくれた。おまけに頬擦りまでしてくれる。
普段はここまでしてくれないから、よほど嬉しいのだろう。
そんな姿を見て「かわいらしい」と思ってしまうと、途端に幸福な気持ちになる。
レティは私を焦らして、惹き寄せて、翻弄させる。
それらが全て計算ではないから狡いと思う。
どれだけ策略を練って囲い込んでも気づいてくれなかったくせに、あっさりと落とされてしまうのだから。
私はレティに、一生勝てない。
「嬉しそうだな」
「ええ、ノエルがいたらすぐに解決できそうだもの」
ドレスや装飾品を贈った時よりも、あるいは花束を贈った時よりも数倍、嬉しそうにしている。
生徒、もしくは教え子のためになることがレティの喜びであるのだと、つくづく思い知らされてしまう。
レティのそんなところに惹かれている一方で、いつまでも生徒たちに負けているこの状況をどうにか打開したいところ。
そんな大人げないことを考えつつ胸に頬を寄せてくれるレティの満面の笑みを眺め、両腕しっかりとレティを捕らえる。
これが自分に向けられた気持ちであればいいのに。
そんな気持ちを込めてレティの頭に口づけを落とした。
「シーアに行くにはナタリスに案内してもらった方がいいかしら?」
「アーテルドラゴンに乗ったノックスの人間が急に現れたら警戒されるだろう。まずはシーア国王に手紙を送って、その後バルテ商会に頼んでみるよ。バルテ商会は外国との取引実績があるからノックスの人間にもシーアの人間にも怪しまれずに国境を越えられるし、貴族の馬車を狙った賊にも会わなくて済むはずだ」
卒業して元の姿に戻ったバルテをレティに近づけたくないのが本音だが、バルテを通せばアロイスの協力を得られるだろう。
アロイスは敵国の王子を迎え入れて欲しいと聞けば反対するかも知れないが、いまならうまく交渉できるかも知れない。
もうすぐで正式に王座に就くアロイスにとって、シーアは大きな不安の種。それならシーアをよく知る人物を味方に置くのはどうかと提案するのも悪くはないだろう。
幸いにもアロイスとスヴィエート殿下は最後の一年の間に親交を深めていたようだから望みはある。
頭の中で今後の計画を立てていると、レティが頭を肩に預けてくれる。
これまでに見た事のない、少し上目遣いで見上げてくれるものだから心臓が不可解な音を立てそうになるのだが、甘い空気にしてくれないのがレティであって。
「私、外国に出るのは初めてだわ。早めの新婚旅行になりそうね」
シーアに行くのを新婚旅行に数えるのは止めてくれ。
それではまるで、新婚旅行がついでのようになってしまうではないか。
おまけに楽しそうな表情を向けてくれるのが追い討ちになって悲しくなる。
こちらは大打撃を受けているというのにレティはお構いなしだ。そんな姿を見ていると禍々しい気持ちが胸の中で育ってしまうのを、レティは知らない。
「レティ、今日の夕食は久しぶりに部屋で二人きりで食べようか?」
「な、なんで? それにノエル、怖い顔してるわよ。いきなりどうしたのよ?」
「どうしてだと思う?」
たじろぐレティを腕の中に閉じ込める。
「レティはまだ私の気持ちをわかっていないようだから夕食の時にじっくり教えようと思うんだ。いわば補習だね」
「ノエル……怒ってる?」
「ああ、怒ってるよ。この際だからレティがわかるまでとことんつき合うよ。今夜は私の膝の上から降りられないと思っておいてくれ」
夕食のときは膝に乗せて逃げ道を塞いで、一口ずつ口元に運んで食べさせよう。
食事が終わっても放すつもりはない。レティが眠ってしまうまでずっとこの想いを囁くつもりだ。
「あの、お許しください。ノエル様」
「罰じゃないんだから謝らないでくれ。レティにわかってもらいたいだけなんだ。だから膝の上で一口ひとくち食べさせてあげるよ」
「うぅ……わかったから食事は自分で食べさせて」
「なにをわかって欲しいのか知らないくせに」
優しい色の瞳を泳がせるレティをじっと見つめていると、次第に頬が赤くなっていく。きっと、逃げられないと観念したんだろう。
すっかり熱くなってしまったレティの頬を撫でて、意趣返しの成功にほくそ笑んだ。
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引き続きレティたちの日常をお届けできるよう精一杯書いていきますね!
(もちろん、あまあまイチャイチャをマシマシで!)




