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閑話:あなたのことだから、きっと(※ノエル視点)

 姿を消したのは、スヴィエート殿下が名前を挙げていた(くだん)の生徒。


 シーアの魔術師たちはもう動き始めたようだ。

 どれほどの人数が潜り込んでいるのかわからないが、レティシアが動き出す前に早く始末するしかない。


 レティシアはじっとしていられないだろうから、そのうち宿を出て探し始めるだろう。

 殊に生徒のこととなると、なにをしでかすかわからないから困る。


「フォートレル先生、僕は東の方を探します。一時間後にここで再会しましょう」

「そうだな。手分けした方がいいだろう。自分は南を見てくる。カントルーブ先生は北、ル・クレジオ先生は西を見に行ってくれ」


 潜り込むならきっと逃げ道が確保できる国境付近を拠点としているはずだ。

 拠点を潰してから散らばっている奴らを仕留めよう。


 昼間に見た街の様子から拠点になりそうな場所を割り出していると、フォートレル先生に回復薬が入った瓶を押しつけられた。


「ファビウス先生、顔色が良くないが大丈夫か?」

「ええ、レティシアが――ベルクール先生が無茶をしそうで不安なんですよ。じっとしてくれていたらいいんですけど」


 自然とため息が零れる。

 これまで何度も、生徒のために身を投げ出そうとするレティシアを見てきていただけに今回もそうなってしまうような予感がしてならない。


「がはは、こんな時も生徒より先に婚約者の心配か。惚れこんでいるのはいいが、グーティメル先生に知れたら怒られるぞ」

「命よりも大切な人なので」


 レティシアはかけがえのないものをくれた。


 穏やかな日常。

 無償の愛。

 そして、居場所を。


 突拍子もないけど愛情の溢れた人で、なににも代えられない存在だ。

 彼女を失ったら正気ではいられないだろう。


 だから、どんなに手を汚すことになろうが、不穏分子は始末するしかない。


   ◇


 他の教師たちとは別行動が取れたのは幸いだ。

 これでローランと合流できる。


 ローランの話では、スヴィエート殿下に呼び出されて例の霊薬を渡せと要求されたらしい。あの禁忌の霊薬は今、スヴィエート殿下の手に渡っている。

 いまは他の生徒と一緒にいるようだが、いつ動き出すのかわからなくてそちらも気がかりだ。


 本当に、ご自分が飲むのだろうか? 

 スヴィエート殿下もあの薬の正体は知っているというのに、敢えて飲むということは、なにか思惑があるように思える。


 しかし――。


 ほんのわずかだが頭を持ち上げる予感がある。

 しかしほんのわずかだ。

 これまでのスヴィエート殿下の様子を見ているだけでは確信を持てないが、先日の様子が妙に引っかかっていた。


 全てを投げ出したいと思っているのではないか、と。


 どのような理由であろうとレティシアの脅威となり得るのなら対処するしかない。

 場合によればスヴィエート殿下を捕らえることになるだろう。




 西区画は人通りがあって賑やかだが、一本通りに入ると途端に静かになる。

 事前にローランと打ち合わせていた酒場の前に行くと旅装束に身を包んだローランが待っていた。


「ローラン、状況はどうだ?」

「四~五人ほど潜り込んでいます。そのうち数名が動き出してここを離れているようです」

「拠点は見つけたか?」

「ええ、目星はつけました。時計塔から気配を感じ取っています」

「すぐに始末しよう。奴らの気を引いている間に意識を奪ってくれ」

  

 そのまま傭兵団に突き出して良しなにしてもらえばいい。


 上着のポケットに手を入れて魔術具を取り出していると足音が近づいて来た。

 振り返るとアロイスとクララック、そしてバルテがいる。


「ファビウス先生、私たちも一緒に探します」

「アロイス殿下たちがなぜここに?」


 つけられてはいなかったはず。

 それなら彼らは宿を抜け出してここまで来ていたのだろうか。


「リゼーブルさんを見つけ出したいので。……今回のことは私たちにも責任があるんです。リゼーブルさんは以前から変身薬を使って別の生徒になりすますような妙な行動をとっていました。忠告したから問題を起こすようなことはしないと思っていたのですが、いきなり消えたと聞いて、なにかまた起こすような気がしたので探しに来たんです」

「なぜ、変身薬のことを教師に相談しなかった?」

「自分たちで対処しようと思って話していませんでした……すみません。自分の力を過信してこの事態を招いてしまいました」


 生徒たちが動き出しているとなると嫌な予感がする。

 彼らの変化にレティシアが気づかないわけがないから、きっともう動き出す頃だろう。


「宿に戻りなさい。リゼーブルさんは必ず見つけ出すから、君たちは安全な場所にいなさい」

「足手まといにはならないようにするのでこのまま探させてください」


 アロイスは頑なで、譲ろうとしない。


 まったく、狂わせてくれる。

 生徒たちを連れ歩いていてはシーアの魔術師たちの拠点に乗り込めないではないか。


 ローランだけを動かそうか。

 しかし、シーアの手練れの魔術師たちを相手にローラン一人で戦うのは不可能だろう。


 この手づまりな状況に、笑いたくなる。

 自分はいつから、こんなにもしがらみが増えてしまったのだろうかと。

 以前ならこれほどまでに手こずることなどなかったというのに。


 すっかり、レティシアに変えられてしまったのだと思い知らされる。


 生徒たちの身に何かあればきっと、レティシアは傷つく。

 それなら眠らせておいて防御魔法でもかけておいた方が安全かもしれない。


 思いついた計画は実行できなかった。

 呪文を唱えるよりも先に、大きな爆発音があたりに響いたのだ。

【職員室】

一応あるものの、常勤の先生たちにはそれぞれ準備室が与えられているから準備室にいる方が多い。

ノエルのような非常勤の先生たちが主に利用している。

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電子書籍版の完全版1が2025年12月4日配信決定です!
-ミーティアノベルス様告知サイトへの移動はこちらの文字をクリック- 挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
[一言]  大きな爆発音←騎士(のはず)のルスかな?  アロイス達まで抜け出して来たとは……先生方の胃が心配ですね。責任問題がぁ!!殿下それ一番やっちゃ駄目なヤツ!Σ(・ω・ノ)ノ  ノエル、レテ…
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