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引き続きルスとのお話です。
一緒にいるところを見たらノエルはきっと怒るでしょうね……。
ルスの正体を推測しながらお読みください(*´˘`*)♡
私たちは、サラが連れていかれたであろう時計塔を目指して街中を進んでいた。
街の人たちを捕まえて道を訊ねながら向かっているとゲームで見たことがある路地に入る。
「レティは誘拐された生徒がどこにいるのかわかるんですか?」
「ええ、勘ですが……怪しい連中が潜みそうな場所を知っているんです。そこに連れて行かれたんだと思います」
「ふーん? 本当に普通の教師ですか?」
さっきまで陽気に話していたルスの声がいきなり冷気を帯びる。
どきりとして見上げれば赤い瞳がしっかりとこちらを捕らえていた。
薄い唇が片側だけ持ちあがっていて、身がすくむほどの不敵な笑みを浮かべていて。
本能的に身の危険を感じた。
「え、ええ、ただの教師ですよ」
「それでは、月の力のことを知っていますか?」
「月の、力?」
「おや、知らなさそうですね」
ほんの一瞬のことだった。
殺気にも似た空気がルスから取り払われて胸を撫でおろす。
月の力のことはウンディーネも口にしていたけど、それがなにであるのかは教えてくれなかった。
「それはどんな力なんですか?」
「ある王族に伝わっていた力だったんです」
「だった? いまは違うということですか?」
「ええ、きっと女神に見放されて与えられなくなったんでしょうね」
ルスは不敬にも愉しそうに笑っている。
王族に伝わる力があるなんて聞いたことがない。
ルスの作り話か、あるいは限られた者しか知らない話なのか……。
「どこの王族に伝わっていたんですか?」
「ここですよ」
「え?」
「ノックスの王族に伝わっていたんです。ある魔力の強い男が平穏な国をつくると誓って宵闇の中で建国し、夜を自分たちの国の名に取り入れて畏怖と敬愛の念を示した、この国です」
まさかこの国の話だったとは。
いや、真偽がわからないから何とも言えないけど。
だけど、ウンディーネはオリア魔法学園に月の力がいると言っていた。
眉唾物の話だけど、生徒たちに関わりがある話なのかもしれない。
「その力のこと、詳しく教えてくれませんか?」
「手取り足取り教えてあげたいのはやまやまなんですが、少し問題が」
「いや、話してくれるだけでいいんですけど。別に手も足も使う必要ないんですけど」
「つれませんね~」
凄むような空気を纏っているかと思えば、急にふざけ始める。
やっぱりルスのことはわからない。
「続きはレティとの話を邪魔してくる奴らに制裁を加えてからにしましょう」
「へ?」
邪魔してくる奴らって……周りに誰もいませんけど?
呆気に取られているうちにルスの足元に金色に光る魔法印が現れる。
呪文なんて唱えていなくて、ルスはただ、自分の指につけている指輪に触れているだけで。
すると物陰から人の呻き声が聞こえてきたかと思うと、どさりと鈍い音がした。
先ほどまでは全く人の気配がなかったのに、見ると地面に人が転がっている。
旅装束のようなローブに身を包んだ人影が三つ。
しかも倒れた拍子に出て来たのか、見慣れぬ魔術具のような物が転がり出ている。
明らかに怪しい人物だ。
こんな人たちが隠れていたのに気づいていなかったなんて、もしものことを考えてしまい、ぞっとした。
「ルス、あなた一体何者なんですか?」
「レティの騎士ですよ。あ、さっきはつい魔術を使ってしまいましたが、騎士です」
弁明しようとしているけど、聞きたいのはそういうことじゃない。
だけどルスは騎士式の礼をとると、無邪気にウインクを飛ばしてきた。
「さあ、大切な生徒を探しているんでしょう? 早く行きましょう」
「え、ええ、そうですね」
もしかすると最強の仲間を手に入れてしまったのかもしれない。
慣れた手つきで不届き者たちを縛っているルスが頼もしく映った。
【校門】
特殊な魔術が掛けられていて、侵入者が開けようとしたら門に装飾されているドラゴンやら聖獣やらの彫刻に追いかけられるようになっている。
ドナが学園を抜け出そうとした時も追いかけられてしまい、つかまってそのままグーティメル先生の元に連れていかれた。




