閑話:舞台袖でも物語は進む(※ノエル視点)
学園内で魔術を使った事件が起こっていた。
レティシアについていたジルとミカが昼間の集会のことを教えてくれなかったら、僕も気づかなかっただろう。
居合わせていたら気づいていたはずだが、気づかれないように留守を狙っていたに違いない。
厄介な犯人だ。
幻影を見せる魔術――人の意識に干渉するのはシーアの魔術師が得意とする。
そのためおのずと犯人の目星がつくが、動機は見当がつかない。
事件はごく些細なもので、多少の混乱はあるが学園内の空気がかき乱された程度で大した痛手はない。
しかしあのお方がわざわざそんなことをする理由を知るためにも話す必要があるだろう。だから学園に着いてすぐに魔力を辿り、スヴィエート殿下の姿を探した。
強い魔力を探るうちに庭園に辿り着くとスヴィエート殿下は一人、ベンチの上で眠っていた。恐らく気配を感じ取って起きているだろうからそのまま声をかける。
「殿下、複数の生徒に幻影を見せたのはあなたですね?」
スヴィエート殿下は答える代わりにクスクスと笑い声をあげて起き上がった。
「えー? どうしてそう思うの?」
「本物と見紛うほどの精巧な幻影を作れるのは殿下ぐらいです」
幻影は人の意識に干渉する。微力な力なら魔力の壁によってその干渉を防げるが、かけてくる相手の魔力が強ければ強いほど意識を支配されて鮮明に幻影を見せられる。
この学園の中でそれができるのはスヴィエート殿下しかいないと言っても過言ではない。
「あの光使いちゃんたちをちょっとつつきたかったんだよね。邪魔ばっかしてきて鬱陶しいからさ」
スヴィエート殿下はまだ腹に手を添えて笑っている。
一体なにがおかしいのか見当がつかないが嫌な予感はした。
「俺を問い質すのもいいけどさ、早く助けてあげないと危ないかもよ?」
「助ける?」
「あれ? イザベル・セラフィーヌに変身していた生徒の話は聞かなかった? 二年にいるリゼーブルって子、例のおまじないかけてあげた方がいいよ。ほら、ダルシアクの魔術からモーリアを守ったあれだよ」
どうやらローランの魔術が防がれたのは殿下にも知られていたらしい。あれはローランが単独で動いていたというのに知っているということは、きっと魔力を辿って把握していたのだろう。
「さあ、なんのおまじないかはわかりませんが、その生徒が危険な状況に陥っている理由を教えてください」
「あの子、シーアの魔術師が操っているからさ。二人きりになった時にこう言ってきたんだよ――ダルシアク卿に渡している霊薬を飲め、と母上が言っているとね」
「……なんてことを」
スヴィエート殿下だけではなく他のシーアの魔術師が関与しているとは予想できていなかった。
「悪事がバレて大人しくしているいまのうちに跳ね返してあげた方がいいよ。今回の事件はどこまであの子の意思でやっているかわからないけどさ、このまま放っておいたら自我が壊されるよ?」
きっと使い捨ての駒にできると踏んでその女子生徒を使ったんだろう。
ついにシーアが動き出そうとしている。それも、自国の王子を犠牲にしてまでノックスに打撃を喰らわせようとしているようだ。
ローランに渡されている霊薬の正体は知っていた。あれは作ることさえ禁じられている恐ろしいものだ。
飲めばまず普通の生活には戻れないことくらいわかっているはずなのにそれを自分の子どもに飲ませようとしているのか。
スヴィエート殿下は小さく肩を竦めた。
「ついに母上は憎き国王陛下に取り入ろうとすることにしたようだ。だから俺は兄上に献上されてしまったってわけ」
スヴィエート殿下の母君は長らく現国王と対立していた。しかし後ろだてがなくなってきて焦っているのだろう。
「ネブラ峡谷に母上の手の者が潜り込んでいるらしい。だからそこで飲んで暴動を起こせってさ。一波乱ありそうだね」
自分がそう命令されているというのに他人事のように話す。
そんなスヴィエート殿下は大儀そうに立ち上がると校舎の中に入っていった。
【外出の日】
週末の決められた日だけ王都に行くのが許される。
たまにレティシアとノエルがデートしていところを生徒たちに目撃されており、ノエルがケーキを食べさせてもらっているところもバッチリ見られている。




