表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

まえがき

 島とは四方を水に囲まれた、大陸よりも小さな陸地のことだ。なにを当たり前のことをと思うかもしれない、けれどこれはとてもとくべつで、とてもすてきなことだ。大陸から切り離されているから生きものの行き来が乏しく、特有の生態系ができあがっていることは珍しくない。ほかでは見られない動物や、大陸では絶滅してしまった昔々の植物が、とある島では元気に過ごしている、なんてこともままある。

 東南の海に浮かぶ大小五つからなるファム群島にも、そんな生きものがいる。昔から、ほ乳類とも、鳥とも、虫とも違う、ふしぎな生きものが暮らしている。

 どうふしぎかというと、まずは見た目だ。単一電池に長い手と申し訳程度の足をつけたような体躯で、色は凍らせたゼリーのように白く、しかし縁は半透明に透けている。目と口らしきものがあるが、表情はいつも変わらない。触るとひんやりと冷たい。

 マシュマロのように柔らかく、グミのようにがんじょう、そして非常に力持ちだ。うっかり踏んでしまってもけが一つしないし、それどころか踏んだ人をひっくり返してしまうこともある。

 彼らが大きくなるためにはたくさんのエサが必要だけれど、生き延びるだけなら少しでいい。一度大きくなれば、その大きさまでなら、いくらでも小さくなったり大きくなったりできる。

 そして彼らは、夜になると増える。水辺だとか、岩場だとか、それぞれが好む場所で一晩そっとしておいてやると、どうやら増えるらしい。らしいというのは、だれかがちょっと覗いていると、ぜったいに増えない。だからだれも見たことがない、本当のことはだれも知らないのだ。どうやって増えるのか、つまり出産しているのか分裂しているのかすら、わかっていない。殻は見つかっていないから、少なくとも卵ではないだろう。

 そんな彼らだけどあまり賢くはなくて、だれかが助けてやらないと、エサを食べられずに死んでしまう。だから彼らは、自分たちを助けてくれる存在をいつも探していて、見つけると、懐いて従順に仕えた。見返りにエサをもらうというわけだ。

 その実、彼らのエサがなんなのかは、ずいぶん長いこと謎だった。彼らは、野菜も、果物も、パンも、肉も、水すらも口にしない。だから昔の人は、なぜ彼らが自分たちに付き従うのか、なぜ彼らが死んでしまうのか、わからないでいた。だのにときどきはとつぜん増える。あまりにふしぎなものだから、魔法の力で生きる、魔法の生きものだと考えられていた。

 今はもうわかっている。だれかの元気だ。彼らに食べられてしまうと、食べられたほうはとっても疲れてしまう。だけど心配はいらない、たくさん食べて、ゆっくり寝て、いっぱい笑えば、また元気になる。だれもが持っていて、だれもが自分の体のうちで育んでいる力が、彼らには作れなかったし、必要だったのだ。

 エサがわからなかったときの名残で、彼らは「マモノ」と呼ばれている。

 エサがわかっても、まだまだ謎は多い。たとえば、マモノはだれにでも懐くわけではない。おそらく、なんらかのルールがあり、それに則って選んでいるのだろうと考えられているが、どんなルールなのかはまったく不明だ。一つ言えることは、マモノに懐かれる人は幼いころからマモノを引き連れている。子どものうちにマモノが懐かなければ、その人にはもう懐かない。

 反対に、子どものうちはマモノがついてきたのに、大人になったらどこかへ行ってしまった、という人もいる。マモノのルールから外れてしまったのだろうけれど、やはり理由はわからない。シーフィシュ国のボビー・ベル卿がそうで、かつては神童と呼ばれていたのに、マモノ使いは廃業、今やひねくれて酒浸り、体を壊して見る影もない。


 話があとさきになってしまったけれど、ファム群島の人々は、マモノを利用することにした。マモノに選ばれた人はマモノを指揮し、各地で活躍した。

 その人たちを、マモノ使いと呼んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ