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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界紀行
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作戦変更


 『近付いてるってどんな奴?』

 『敵かな?』

 『味方ならかっこいい系が良いなあ』

 犬耳三姉妹は余裕だな。

 戦闘開始からズッと走り回っているのに疲れると言う単語は知らないのか?


 砲塔内で聞いていた俺は少し呆れてしまう。

 そんな俺の膝をマンセルがつついて呼んだ。

 「本命ですかね?」


 「かも知れないな」

 頷いて。

 『移動手段はわかるか?』


 『徒歩みたい……走ってる?』


 「なら、ヴィーゼの視認範囲を考えても時間はたっぷりと有るだろう」

 そうマンセルに返して。

 『敵でも味方でも、獲物を取られるぞ』


 『あ! それはマズイよね』

 『私達の獲物よね?』

 『後から来て横取りは駄目だよね』


 やはり、犬耳三姉妹は遊び始めている。

 いや、さっきのヴィーゼ達を見るに、子供達が全員でか?

 弱い敵に緊張感が維持出来ないで居るのだろう。

 銃を持っていてそれはマズイ、事故に繋がる。

 『ハダカデバゴブリンは一気に殲滅だ』

 気を引き締める為にも叫ぶ。

 だが、そろそろ作戦自体を変えた方が良さそうだ。

 

 そして俺は戦車から飛び下りた。

 

 『え! 何処へ?』

 バルタとマンセルが同時に同じ言葉を発した。


 『伝令だ』

 と、一言で済ました。

 『砲は真っ直ぐに前に向けて在る、そのまま砲固定の突撃戦車として使え……3.7cm戦車砲も一発だけは詰めてある』

 mp-40サブマシンガンを下に構えて松明を縫うように荷馬車に走った。

 今の情報をそこに居る男達に伝え無くてはいけないだろうからだ。


 位置的にはヴィーゼが仁王立ちのしている荷車から近い場所。

 最初に焚き火を囲って、戦車、荷車、荷馬車と並べて、そのうち戦車だけが動いたのだからそれはそうだ。

 すぐに辿り着いた俺はリーダーを探した。

 荷馬車の影で銃を構えている。

 「その方向のハダカデバゴブリンはもう居ないぞ」

 

 「脅かすなよ……撃っちまうだろうが」

 男達が全員で俺を見る。


 「やめてくれ……」

 笑って返した。

 男達も笑っていたのだから冗談なのだろうとすぐわかる。

 「それよりも、ここに何者かが向かってきている様だ」


 「なぜわかる?」

 眉をしかめたリーダー。


 俺はヴィーゼを指差した。

 そこを戦車が横切る。

 「戦車に何か魔道具でも積んでいるのか?」

 リーダーは勘違いしたようだが、それでもいいとそのままで話を進める。


 「敵か味方かはわからない』

 

 「救援か?」

 リーダーの横に居た男が溜め息と共にホッとした仕草で。


 「多分違うだろう』

 俺は即座にソレを否定する。

 「お前立ちを襲った奴らの可能性が高い』

 そう言って荷馬車を叩いた。

 

 「いや、でも盗賊は撃退したのだろう?」

 リーダーが反論する。


 「ただ、追い払っただけだ』

 

 「しかし……」

 敵では無いと食い下がるのか?


 「何も無い草原のフィールドを暗い夜に灯りも灯さず移動しているのにソレを怪しく無いと?』


 「それは俺達が魔物と戦っているから、その用心だろう……冒険者なら魔物を集める光は避ける」


 「銃声は聞こえるだろうが、魔物は確認出来る距離じゃあ無い……大方このハダカデバゴブリンも奴らがツツいてけしかけたんだろう』

 本来は大人しいとマンセルも言っていた。

 

 黙り込んだ男達。


 「でだ、俺達はそいつ等に魔物を押し付けようと思う』

 

 リーダーの顔がほんの少し歪んだ気がした。


 「奴らが俺達を襲う積もりなら逃げられる』

 リーダーからは目を離さない。

 「救援なら、ハナから魔物と戦う積もりだろうから……魔物に素人の俺達が邪魔に為る事も無いだろう?』


 「俺達だって元冒険者だ……素人じゃない」

 リーダーの横の男が息巻いたが。


 「だが、実際にハダカデバゴブリンごときの襲来に手こずっているじゃないか』

 

 「これは……」


 「お前達で何匹倒した?』


 やはり黙り混む。


 「素人の俺達は半数は倒したぞ? これは多数決で票は倒した魔物の数だ』

 ハダカデバゴブリンすら倒せない者の意見は聞かないとばかりに睨み付けて。

 「兎に角、今はこの辺りには魔物は居ない、今の内に移動の準備を急げ』

 俺はそう告げて踵を返す。

 「俺達は自分達の準備が終わり次第に移動を開始する』


 「置いていくのか?」


 「そう成りたく無ければ急げ』

 それを最後の言葉にして走り出した。

 答えの出ない議論をする積もりもないし……第一、俺はこの男達をそこまで信用をしていない。

 ただの行きずりの雇い主だ。


 走りながらに念話を飛ばした。

 『今の話を聞いていたか?』

 男達の話の殆どを念話と声とで話して居たのだ。

 もちろんそれは俺の声だけだが、それでも内容はわかるだろう。

 『逃げるぞ』


 『ええ……魔物狩りは?』

 渋るエレン達だが。

 『時間切れだ!』

 一喝するように強くいい放つ。

 

 

 引き返して来た戦車は、マンセルが荷馬車を繋ぐ。

 その荷馬車の後ろに荷車を繋ぐ、それは俺と子供達の人力だ。

 所詮は庭師の荷車だそんなに重いわけでもない。

 俺達の方も雇い主である男達の方もそんなに荷物を拡げていたわけでは無かったので、そこらの準備はすでに終わっていた。

 アンもバイクに跨がり、何時でも走れる状態で居る。


 「よし繋がったぞ、出発だ」

 マンセルが声を上げた。

 

 その同時に、荷馬車から照明弾が打ち上げられた。

 辺りが光に照らされて、草原が見渡せる。

 だが、それに意味は見出だせない。


 「何で撃った!」

 俺は荷馬車に怒鳴り込んだ。


 「いや……出発前に辺りの確認を」

 リーダーの横の男がいいよどむ。


 「それに何の意味がある! 光は魔物を誘き寄せるだけだと自分で言っていたろう」

 闇に紛れて逃げる筈なのにだ。


 「だが、魔物の群れに飛び込む事に為るかも知れないだろうが」

 確認は必要だと言いたいのか?


 「そんなモノも戦車で蹴散らすだけだ、それにその危険は今の照明弾で上がったと思うが?」

 明るい草原をさして。

 「俺達の姿は確実に魔物に見られていると思うぞ」

 語気は強くいい放つ。


 黙り込んだ男達を睨み付けて。

 「照明弾は後何発有る」


 「……三発だ」

 リーダーが声を絞り出した。


 五発も用意していたのか?

 そんなに必用な物なのか?

 「まあいい……それを全部寄越せ」


 「なぜ?」


 「俺が囮に為る」


 「……駄目だ……これは俺達の物だ」

 それを拒んだリーダー。


 「アン!」

 手招きをして。

 「警察軍で接収をしてくれ」

 

 「横暴だ! 国家権力の乱用だ」

 騒ぎ出した男達をアンが一喝した。

 「人命が掛かったこの状況で、素人に持たせて良いものではない」


 「何が素人だ」


 「プロが逃げようとする時に敵に自分の位置を知らせるわけが無いだろう」

 ズイッと前に出て。

 「逮捕してもいいんだぞ」

 

 「何の罪だ」


 「魔物集合準備罪だ」


 『そんな罪が有るのか……』

 異世界ならではか?


 『無い』

 念話でアンがさらりと言った。


 嘘かよ。

 だがまあ何でもいい。

 俺は男が握っている照明弾を取り上げて。

 「弾は?」

 その一言に渋々とだが残りの三発を出す。


 それを受け取った俺はすぐに弾を込め直して。

 「アンは戦車に乗れ、バイクは俺が借りる」

 

 それに首を振ったアン。

 「バイクは貸すが……私は馬を借りる」

 リーダーを見ながら。

 「借りるだけだ、構わないだろう?」


 もう諦めたのか、小さく頷いたリーダー。

 それを見て。

 「子供達、手伝ってくれ馬と荷車を繋いで別動隊だ」

 そのアンの一言に喜んで動き出す。

 特に犬耳三姉妹が。


 結局、戦車にはマンセルはもちろんだが、子供達はバルタとイナとエノのタヌキ耳姉妹が乗り込んだ。

 急造の馬車はアンが馭者をやり、荷車には花音とエルとヴィーゼに犬耳三姉妹が銃を構えて乗った。

 俺は一人、アンのバイクだ。

 

 古いバイクbmw.R75だが、そんなに現代のモノとの違いは無いだろう。

 多少の事はシャーマンの力でなんとか出来ると決めて掛かり。

だいたいアンが乗れるのだ、俺に乗れないわけが無い。


 早速に跨がりキックを蹴ってエンジンを掛けた。

 イキナリの違いに苦笑い、この時代のバイクにセルスターターは無い。

 フォースト二気筒のキックなんて始めて蹴った。

 ツーストのバイクで経験が有ったが、全くの別物の様に硬い。

 一瞬感じた大丈夫かの不安はアクセルに反応するエンジンで吹き飛ばす。

 掛かってしまえば同じだ。


 「よし! 出発だ』

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