面倒臭いヤツ
112ポイントだ。
今日も延びてる。
明日も伸びるのだろうか?
1日一回のこの確認んがとても楽しみになってきた。
増えていれば単純に嬉しいんだからしょうがない。
認められた証のその数字なのだから。
有り難う。
まだまだ続くよ。
そしてもう一回。
有り難うみんな。
戦車を街道に停めさせた俺はアンに説明をした。
馬車がどうやら追われているらしいと。
「こちらに逃げてくるのか?」
「そのようだ」
「何も見えないのだが……」
バイクの上から手で庇を作って街道の先を見る。
俺も戦車の上から双眼鏡を覗いたのだが。
随分と遠い所で土煙が見えのが精一杯だった。
「取り敢えず確認して来よう」
半信半疑な様子では有るが頷いたアン。
「それならこれを持っていけ」
戦車に積んでいたもう1つの双眼鏡を投げて渡す。
前に形だけで気にいって持って来たヤツなのだが、結局はジジ臭い黒い双眼鏡を使っていた。
やっぱりレンズはニコンだろうと、それだけの理由では有るのだが。
投げられたそれを両手で受け止めて。
「有難い、借りていく」
首にぶら下げてアクセルを煽り、そのまま加速して行った。
『俺達も前進しよう』
スピードはバイクにかなうわけでは無いが、少しでも近付いておこう。
アンも一応は銃を持っているようだが、それはバイクの後ろに括り付けられた鞄に突っ込まれままだ。
すぐに抜ける様にしておかないで良いのだろうか?
そして鞄から銃口がチラリと見えるそれ。
サイズ的にはmp-40だが、常に持ち歩いて居るのか?
警察軍の備品では無いのか?
確か仕事は休みだと言っていたが……それは持っていても大丈夫なのだろうか?
どうもハラハラさせられる。
『速度は、これ以上は無理そうか?』
『様子を見ながら頑張っては見るが……どのみちバイクには追い付かん』
マンセルも心配に為って居るのか、声に焦りが見える。
『確認だけで済ましてくれれば良いのだが』
確かにだ。
ここまで何回かの戦闘を見てきたが、警察軍の遣り方は少し雑だ。
常に考えるよりも先に行動している様に見える。
それは単純に司令官であるアンの性格が反映しているのかそれとも、警察軍の遣り方によるものかはわからないが、どっちにしたって同じことだろう。
元からの性格か訓練で出来た性格かだ。
『荷馬車を追いかけて居るのは車のようです』
バルタの耳レーダーの範囲に入ったようだ。
『距離を開けて、速度を合わせて追っています』
『俺達がやったように、馬を潰してから襲うのだろう』
少し考えて。
『銃声は聞こえるか?』
『聞こえません』
『銃を使ってないのか?』
首を傾げる。
銃声は、ほぼ雷と同じ音量の筈だ、車の走る音が聞こえるならそれよりも先に聞こえる筈なのだが。
『魔法使いでも居るのでは?』
と、マンセル。
『魔法によってはあまり音がしないのも有りますし』
列車の時の魔法使いのあれか。
『魔法使いも昔は花形でしたけど……今は仕事に溢れている者も多いでしょう』
『冒険者崩れが、盗賊に為ったか』
『一流、二流迄なら何か出きるかもしれませんが……それ以下は』
『需要が無いと、そういうことか』
『それでも銃も持っていると思いますがね、撃たないのは弾の節約ですかね』
『弾って……高いのか?』
『高か無いですが、9mmで50円位ですかね……ライフル弾でも100円迄はしないですよ、正規品の話ですが』
『1発だろう? mp-40は装弾数32発だから撃ち切れば……1600円か』
高いのか安いのか良くわからんな。
『因みに、さっき倒したスライムの報奨額は10円ですけどね』
『え? やっすう!』
『子供でも倒せますし、一匹倒せば飴玉1個ですね』
『じゃあ、さっきのは……』
『はい、単純に90円の赤字です』
『成る程……確かに節約したくなるな』
『その点、魔法は0円ですからねコスパは良いですね、当たれば怪我もしますし』
『怪我で済むのか?』
『どうせ三流以下の魔法使いです、一発当たったくらいじゃ死にはしないでしょう』
『銃の無い時代は、魔法使いは花形ってさっき言ってたよな』
『魔物も所詮は生身ですし、何発も当てるとか……牽制に使って、で剣士が斬るかですかね』
笑って。
『あ! でもたまに硬い魔物も居ますよ』
『そんなレベルなのか』
『一流ならシッカリと威力は有りますがね』
『列車の時の魔法使いは一流だったのか?』
『ギリギリ二流ってとこじゃあ無いですか、あれで9mm弾くらいですよ』
そうなのか、結構派手に見えたのだが。
でも9mmの威力があれば殺傷能力は有るのか。
『どのみち詠唱が有りますから、魔法一発の間に撃たれ捲りですよ』
『剣士とかも、そんな感じなのか?』
『斬り込む前に撃たれますからね……飛び道具の無い魔物までですね』
『成る程……』
夢が壊れる話だな。
『でも、対魔物には今でも古式戦闘術の使い手の知識は有用ですよ……そんな感じだから魔物の対処法とか弱点とかの知識を長い年月で蓄積してますからね』
『古式戦闘術なのか……まあ魔物退治も必要だろうし』
『随分と数は減りましたけどね、昔はこの辺も魔物だらけだったんですが……銃で撃たれまくって何処かに行きましたね』
『実際に俺達も銃や大砲で倒したけどな』
『あの猪は古式戦闘術も一流で無いと無理でしょうね……相当に強い方ですよ』
『でも、まだまだ強いのも居るのだろう?』
『最高はドラゴンですかね』
『ドラゴンか! それは凄いな』
『見たことは無いですけどね、ってか本当に居るのかも怪しい……出てくるのは童話か噂だけですよ』
笑って。
『ダンジョンに入ればドラゴンは無理でも、それなりの魔物が出ますよ……ここらのダンジョンはもう討伐済みでしょうけど』
『そうか、じゃあ今度その魔物見物にダンジョンに行こうか』
『嫌ですよ……ダンジョンなんて、背中が痒くなる』
首を縮めて。
『あの場所はどうにも肌に合わない』
魔物自体では無くて場所なのか?
何かが有るのだろうか?
それとも単純に気持ちの問題か?
ゴキブリは見るとそれだけで気持ち悪いし、それと同じなのだろうか。
そんな話をしていると。
『荷馬車ですが、アンさんに驚いたようで方向を変えました』
バルタが報告をくれる。
アンは何をやっているんだ?
襲われて居るかも知れないのに驚かしてどうする。
『あ、でも……馬が駄目見たいです、一頭が倒れました』
走りながら戦車から双眼鏡で覗いて見た。
『アンに驚かされて、トドメに為ったか』
その上に撃たれているようだ、アンが慌てて逃げ帰ってくる。
双眼鏡でハッキリと見える距離だ。
その向こうの追いかけて来る車も見える。
たぶんキューベールワーゲンだな。
大戦中のポルシェ博士が造った軍用車だ。
『バルタ、少し驚かしてやれ』
『当てなくても良いんですか?』
『ああ、序でに道路も外しとけよ』
もう手錠は懲り懲りだ、追い払うだけでも十分だろう。
今の段階では盗賊と決めて掛かるのも怪しいかも知れない。
追われているのを見ただけの事だから。
逃げている方が盗賊の可能性だってある。
撃つのは……まずいかな?
『バルタ変更だ、追って来る方と荷馬車の丁度真ん中辺りに撃ち込め』
『そんな弱気な……ありゃあ盗賊で間違い無いと思いますよ』
『もう流石に懲りた、バルタ撃て』
砲撃。
どちらにも遠い所で土煙が上がる。
だが威嚇には成ったようだ、追っての車は反転して逃げて行く。
荷馬車の方は逃げられないので戦車に向かって撃ってきた。
『撃たれてますね』
バルタ荷馬車に照準を合わせたのだろう、撃って良いかの確認だ。
『誰も撃つなよ』
バルタだけで無く他の子供達にも注意だ。
『マンセル、そのまま近付いて荷馬車の前で停めろ』
『まだまだ時間は掛かりますよ』
その距離は結構あった。
『かまわん、その方が荷馬車の奴等も考える時間が出来るだろう』
『へーい』
軽い返事で返したマンセル。
面倒臭いとでも思ったのだろう。
それは俺も思ったのだから仕方無い。
すべてはアンが悪い。
やっぱり不用意過ぎる。
そのアン。
バイクで戦車を追い越して後ろに隠れるように着いてきている。
撃たれるとは微塵も思っていなかったのだろう、横切った時に見えた顔は焦りまくっていたようだ。
困ったヤツだ。




