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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の子供達
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 「アン奴等が来るぞ」

 そう叫んで振り向いたのだが、そこにはもうアンは居なかった。


 後方からはまた爆発音。

 火が消えきらなかったのか?

 それとも邪魔を排除するのに使ったか?

 確認の為にアンはそこに向かったのだろう。


 『バルタ、後ろに回ったトラックはわかるか?』

 念話を飛ばす。


 『はい……すぐ側まで来ています、真後ろです』


 危なそうだな。

 目の前の開け放たれた扉を見て。

 わざと開けているのだろう?

 これは……自由に出ても良いと言う事に為るよな?

 誰とも無くに確認。

 もう既に子供達は行動を起こしている。

 獣人の子供達の飼い主は俺に為っている、詰まりはその責任は俺に有ると……もう俺もこの戦闘に参加している、と。

 勝手な解釈だろうが、面倒臭く為って来た。

 行くか?

 

 廊下に出て後方に、兵士達を掻き分けてゆっくりと向かう。

 アンとは知らない仲じゃあ無い。

 子供達も良くして貰っていたようだ。

 好みかどうかは別にして、可愛らしい若い女の子だ。

 後は……と、適当な言い訳を箇条書きしていく。

 どれもこれも出てくるのは警察軍に対してでは無くてアンにでは有るが。

 手錠を付けられた者が出来る言い訳はサッパリ思い付かない。

 そしてその暇も無くにアンの後ろ姿を見付けられた。

 その先には見事に屋根の吹き飛んだ車両の後端も見える。

 火は多少の燻りは見せるが、やはり吹き飛ばされていた。

 そして、煙の影にチラチラと見える追いかけて来るトラック。

 もちろん銃は撃ってきている。

 線路を跨ぎながらの走行ではまともに狙いは付けられていないので狭い廊下の半ばに居るここまでは弾は飛んで来ない。

 来たとしても偶然の1・2発だ。

 

 「アン、こちらには手榴弾は無いのか?」

 背中を叩いて声を掛けた。


 振り向いたアン。

 俺を見て、手錠に目を落とし……だが、その事には触れずに。

 「無い」


 「火炎瓶は? 無ければ俺達の戦車で材料が揃うぞ」

 ガソリンと酒瓶だ。

 マンセルはそれをしっかりと積み込んでいるはずだ。


 その俺の問に、アンは首を縦にも横にも振らない。

 だが、否定もしないのだ。

 肯定と受け止めよう。

 『エレン、アンナ、ネーヴ聞こえるか?』


 『聞こえてるよ』

 『なに?』

 『新しい仕事?』


 『火炎瓶を用意してくれ、作り方と材料は……』


 『大丈夫!』

 『知ってる』

 『前に一緒に造ったじゃん』

 丘の上での事だな、確かにそうだった。

 

 『じゃあ、それをこっちに届けてくれ』


 『わかった!』

 三人同時だ。

 

 段取りは着いた。

 だが、それが届くには少しはばかり時間が必要だろう。

 その間の次はと、辺りを伺う。


 「この後ろの囚人達はどうした?」

 車両の後ろにも居ただろう?


 「前に移した」

 客室の部屋は俺の居た所と同じようなモノだったのだろう。

 等間隔に扉が見える。

 開け放たれては居ないようだが。

 屋根が無く仕切りと扉が傾いている後ろの二部屋を除いてだが、そこはもう閉めようがない。

 

 そこの瓦礫とかしたモノの隙間から兵士が一人顔を出して叫んだ。

 「誰か! 弾をくれ」

 

 そこに入り込んで撃ち返しているようだ。

 その中を覗いく。

 二部屋目の壁際に陣取っている数人の兵士達。

 その前は瓦礫でバリケードを造っている。

 最後端の一部屋は瓦礫がそのままで複雑に絡み合っていた。

 その部屋を空けているのは手榴弾対策なのだろう。

 これから乗り込もうとするのに照明弾はもう撃ってこないだろうから。

 この形なら反撃はし難いが、敵の弾も手榴弾も防げる。

 アンは何処までも逃げ切る積もりのようだ。

 防御が最優先にされていた。

 それはあくまでもトラックからの……外からの距離を空けての攻撃はだが。

 乗り移られれば逃げ場は無い、昔の塹壕戦の様だ。

 いやそれ以上に不利となるか、こちらはこの列車を守らねばならないが相手には関係のない事だ。

 手榴弾でドンドンと破壊していけば良い。

 肉弾戦に持ち込む積もりなど更々無いようだし。

 ここまで派手にやるのだ、もう誰かの救出ではなく殺害の方だろう。

 死体の確認だけなら丸焼けでも出来る。

 

 「もう、客室に戻ったらどうだ?」

 アンが目は外のトラックに留めたままで呟いた。

 「見ての通りに取り付かれ無ければ、いずれ逃げ切れる」

 

 「そうだな……これだけ用意をしているのに、いまだにウロチョロしているだけだしな」

 

 その一言に俺を見たアン。

 「何が言いたい」


 「いや、おかしいなと思ってな」

 肩を竦めて。

 「銃はもちろん、追い付けるトラックに照明弾と手榴弾……それらを用意するのはそれなりに面倒だろう?」


 「一般では無理とは言わないが、買えば身分証の提示は求められて記録として残る」


 「その身分証は、例のカードだろう?」

 

 「そうだな……」


 「盗むにしたって何処から? って事になる……警察軍の車庫と倉庫で揃うか?」

 

 「無理だ、あれらは警察軍では過剰装備だ」

 眉を寄せて。

 「仮に集めるとしても、一度本部を通して許可を得る必要も有るから何日も先の事になる……それは親衛隊でも同じだ」


 「銃は親衛隊の使う装備の様だな? それ以外は闇でか?」


 「親衛隊も……陸軍も盗まれたとの報告はまだ無い……闇で手に入れるとしてもアレだけのサイズと量は目立ちすぎる」


 「それを盗賊の残党で逃げながらに可能か?」

 

 「無理だ、もちろん村の残党でも……我々も無能ではない」


 「そうだろうな……手配は完璧だろう」

 そう答えて。

 外のトラックを指差し。

 「だが、奴等は揃えた……そして実行した」


 「何が言いたい……」


 「計画も準備も完璧……でも、最後の詰めの乗り移る所でまごついている」

 溜め息一つ。

 「まるで注意を引き付ける様に派手にそこに居るのにだ」


 「……」

 一瞬の間で理解したかの様に目を見開いた。

 「もう、既に中に居るのか!」


 「そう……陽動だろうコイツらは、この列車はチョクチョク停まるようだし駅から乗り込まなくても潜り込む隙は有ったろう? ウサギの肉も食ったし」


 鬼の形相で叫び出すアン。

 「誰か! 列車内を調べろ」


 「積み荷も、客も確認しろ」

 俺も合わせて叫んだ。

 そして同時に。

 『エレン、アンナ、ネーヴ! 今何処だ?』


 『運んでるよ、半分くらい来たとこ』


 『戻れ、戦車を守れ』


 『え!』

 

 『もう乗り込まれている!』


 『何処?』


 『わからん、とにかく戦車だ』


 『わかった』

 三人の返事に重ねて。

 バルタの叫び。

 『一般客の客車の中で銃声がしました』


 『人数はわかるか?』


 『無理ですう、人が一杯居るのと銃声しか聞こえませんん』

 一般客と敵兵の区別は付かないか。


 『こっちにも居た!』

 エレンの声だ。

 『荷物の影に隠れてた!』

 アンナ。

 『ぞろぞろ居るよ!』


 「アン! 出てきたぞ、客と荷物に紛れて居た」

 それだけを伝えて、俺も走り出す。


 「中に敵だ! 排除しろ!」

 アンも叫ぶ。

 それに兵士達の答える様に動き出した。


 『こっちも不味いわよ』

 今度はエルだ。

 『デッカイ猪の魔物が出てきた』


 『猪? バルタわかるか?』


 『はい、こちらに真っ直ぐ来ています、葡萄畑で取り逃がした母親の猪です』

 パニックに近い叫びのバルタ。

 『トラックは……無視して来ますう』


 『そこから撃てるか?』


 『もう撃ってますが』

 泣いている様だ。

 『当たりませんん』


 『落ち着け……ゆっくりと狙えば良い』

 これだけ色んな所から音がすればバルタの能力を越えるのか?

 だが、なぜ今……猪だ?

 タイミングが悪すぎるだろう?

 いや、敵に取っては良いのか?

 まさか……。

 『エル! 聞いても良いか?』

 昨日のウサギは小次郎の討伐依頼だった。

 それも偶然?

 

 『なに?』


 『魔物をコントロールする方法って有るのか?』


 『エルフは魔物を使役してるわ、土木工事に巨大土竜を使ったりしている』


 『それが出来るのはエルフだけか?』


 『奴隷紋の変形版だから、もう少し改良すれば人間でも使える人が出てくるかも?』

 

 エルフの奴隷紋はイメージの共有だったな……それに使役を足したか?

 人に使う時は翻訳も間に挟むと言っていたが……魔物ならそれを感情か何かに置き換えるのか?

 

 『わかった!』

 俺は念話と声とを同時に叫ぶ。

 『奴等の中に魔物使いが居るぞ!」

 少し考える。

 「切り札は、蜂の魔物だ!』

 小次郎を殺した蜂の毒。

 アレも魔物使いの仕業だろう。

 ここまで偶然が続くとは思えない。

 魔物達はすべて、用意された必然だったのだ。

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