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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の子供達
41/317

列車強盗

ポイントが56だ!

今日も上がってる。


うんやはり嬉しい。

嬉しすぎる。


ありがとう!


 

 俺達の乗る列車を追いかける銃声はもうすぐそこまでに来ている。

 この感じだと、じきに窓からも視認出来るだろう。

 開け放たれた扉の向こう、廊下を兵士達が慌ただしく走り回るのが見える。

 こちらかの応戦はまだだが、それも時間の問題か。


 その廊下の兵士を一人呼び止めた。

 俺は戸口に立ち、一応は気を使って廊下に出ない位置で声を掛ける。

 「忙しいところを済まないが、幾つか質問をさせて貰っても大丈夫だろうか?」

 

 その問いに立ち止まった兵士。

 見覚えの有る男だった。

 馬車を停めた時に居た記憶がある。

 「なんでしょうか?」

 やけに丁寧に返す男。

 容疑者扱いの俺に対しての態度にしてはおかしい。

 いや、この十日間づっと感じていた事だ。


 「この列車で護送しているのは、盗賊達と村人達か?」


 「そうです」

 頷いて続ける。

 「盗賊の頭目は治療の為にと、村長は中央からの任命なので合わせて王都です……後は刑が比較的軽い者は犯罪奴隷として王都で現金化されます、そんなもの達です」

 刑が重い者はあの街から直接に牢獄行きか。


 「親衛隊の三人は?」


 「あの者達はこの列車には居ません、隣街の親衛隊の詰め所に罪人として引き渡し済みです」

 

 「今回の襲撃はただの列車強盗だと思うか?」


 眉を寄せた兵士。

 「と言いますと?」


 「この状況は、可能性は四つ考えられるだろう」

 

 黙って続きを待つ兵士。

 その姿に理解しているのかどうかは読み取れない。


 「ただの列車強盗」

  俺は指を1つ折る。

 「頭目を取り返しに来た盗賊の残党」

 もう一本。

 「それは村長かもしれない、村の残党」

 指を自分に向けて。

 「俺に仕返しに来た奴等」

 これが一番可能性が高そうだ。

 「盗賊も村人も……相当数を取り逃がして居るのだろう? どれだろうな?」


 目の前の兵士は頷いた。

 取り逃がしたと言うその事にだろう。

 そして、続けて。

 「わかりません」

 それはわかっていても答える積もりは無いと言う事か。


 「じゃあ、最後にもう1つ」

 去ろうとした兵士を呼び止めて。

 「助太刀は必要そうか?」


 俺をジロリと見て。

 

 「俺は無理なのはわかっている」

 中の子供達を指して。

 「俺以外は拘束されているわけでは無いのだろう? 戦車も含めて」

 今、貨物で載っている戦車は平台車の上だ、なら砲塔は動かせる。

 エンジンの調子が悪い様だが、あの戦車は砲も回転砲塔も手動だからそれも問題ない。

 列車砲としては普通に使える筈だ。


 「確認してきます」

 速足で去っていく兵士。

 それが必要な状況に成る可能性も理解しているのか。

 やはり、ただの列車強盗では無いようだ。


 『砲は何時でも撃てるが……ワシでは当てる自信んがないぞ』

 マンセルが念話で返してきた。


 それに片眉を上げてエルを見た俺。


 エルは頷いて。

 「オープンチャンネルにしてる」


 何か有れば何時でも対応出来るようにか?

 俺は頷いて、それを肯定しておいた。

 『多分……狙われているのは俺だ』


 『なぜわかる?』


 『俺の釈放が延びたのは残党の残りが多すぎたからだろうと思う、拘留を理由にした保護が目的でだろうからな』

 王都に連れて行かれるのもその理由でとなら話がわかりやすい。

 残党の後始末に目処が立たなかった、そして俺の拘留期限にも限界が近付いた。

 だから距離を離して釈放しようと考えたのか?

 それとも王都ぐらいの街中なら危険も少ない程に警備もしっかりとしていると考えたのだろうか?

 列車に成ったのも同じ理由でだろう。

 トラックよりも襲い難いと。

 そう考えると辻褄も合う。

 だから、容疑者である筈の俺にあんな態度に成ったんだ。

 犯罪者としての体裁は有るが。

 その態度は明らかにおかしい。

 アンが言っていた「やり過ぎるな」とはこうなるからだったか。


 『俺が狙いなら有無を言わさずに撃ってくるだろう、この車両目掛けて』

 仕返しだって言うのなら列車を停める必要も無いだろうし。

 『頭目か村長の奪還なら……停めるか乗り移るかはして来るか』


 『その可能も有るんだろう?』

 マンセルは少し考えているようだ。


 『有るだろうが……そこまでの人望が有ればだがな』

 どちらにしたって犯罪者集団だ。

 わざわざ危険をおかして迄はやる理由もなだろう。

 ほっとけば次の頭目かリーダーかに自分が成れる可能性も有るのだから。


 『後は……口封じかだな』

 マンセルがポツリと。

 『黒服の奴等は警察軍の手元にはもう居ないんだろう?』


 成る程……そうかも知れない。

 マンセルは盗賊と村の黒幕は親衛隊かも知れないと考えているのか。

 頭目か村長か……その両方を殺せば、自分達の繋がりもわからなく為ると。

 となれば、追って来ているのは其なりの手練れか?


 『バルタを送る……マンセルは装填手と砲頭を頼む』


 『わかった、準備をしておく』


 バルタに目線をやる。

 それにすぐに頷いてくれた。

 そして横に立つ、犬耳の三姉妹が手を上げる。

 「私達がバルタを戦車まで送る!」


 「四人共、気を付けろよ」

 今ならまだ移動だけだが、それでも剥き出しの平台車の上の戦車に行くのだ何か有れば簡単に転げ落ちてしまう。

 「危ないと思ったら引き返してこい」


 しっかりと頷いたのを確認して四人を送り出す。

 客室を出て、狭い通路を兵士達を避けてスレ違い、先の車両に消えていく。

 「大丈夫だろうか?」


 「大丈夫でしょう、バルタもエレンもアンナもネーヴも運動神経だけは良いんだから」

 エルが心配する必要もないと告げてくる。

 「それよりも……私達は何をすればいい」

 そのエルの言葉に合わせてヴィーゼが俺の服の裾を引っ張った。


 「エルはそのまま通信を」

 頷いたエル。


 「ヴィーゼは、マップは見れるか?」

 だが、その問いに首を振るヴィーゼ。


 「動いていると駄目みたいなようよ、出した意識が置いてかれて体から離れてしまうの」

 エルが説明をくれた。

 そう言えば以前にも聞い気がする。

 「じゃあ、イナとエノと一緒に待機だ」

 実際にやれる事は少ない。

 と言うよりも無い。

 まさか銃撃戦に参加させるわけにもいかないし。

 それも列車から撃った所で走り回るトラックは小さな的でしかない、そうそう当たらん。

 向こうは大きな的で真っ直ぐにしか走れない列車を狙うのだ、弾は確実に飛んで来るだろう。

 ただ危ないだけだ。


 「私は?」

 花音が自分を指差して。


 「花音は元からやれる事は……」

 無い! と、言い掛けて止まる。

 やれる事は無いと考えたのは俺の知識が足らないからでは無いか?

 今はシャーマンとして得た知識の残り香で対応はしているが……それも随分と薄く成っている気がする。

 忘れるとは少し違う感覚だ。

 元から自分の記憶でも経験でも無いのだから、当たり前と言えばそうだろう、が。

 今はそれが必要なのかも知れない。

 小次郎の記憶は銃だ、それは今の俺の立場では無理だろう。

 ファウストパトローネの残骸の鉄パイプはドイツ陸軍歩兵の記憶? まだそれが残っていれば良いのだが……棄てられた可能性も有る、他人から見れば明らかにゴミだ。

 やはりライターか? ドイツ戦車兵の記憶、それも38(t)戦車に乗っていた装填手では有るがとても優秀過ぎるくらいの戦車兵だ。

 「花音に頼みがある」


 その俺の言葉に、目を開いてズイっと前に出た花音。

 なに? そんな顔だ。


 「煙草とライターを探してきてくれ」


 ええって感じで落胆する花音。

 「なにそれ?」

 自身が思い描いていたモノとは違い過ぎた事のようだ。

 わかりやすい子だ。


 「俺の持っていた……多分証拠品に成っているであろうそれを探してきて欲しい」


 「随分と限定的ね……それでないと駄目なの?」

 エルが聞いてきた。

 意味が有るのだと感じたのだろう。

 やはりこの子は賢い。


 「あ! そう言う事ね」

 そのエルの言葉に花音も頷いた。

 「わかった、行ってくる」

 花音も抜けたところは有るが本質は賢い子なのだ。

 

 「じゃあ、私達も一緒に行くわ」

 イナとエノが花音の手を握った。

 「一人じゃあ、大人の人に話辛いもんね」


 警察軍の兵士達の事か。

 だが、花音に頼んだのは話さなくても良いからなのだが……花音の能力? スキルの占い師は触れば相手の心が読めるのだから、この手の探し物は得意な筈だ。

 ただ、黙って持ってくる事には為るのだが。

 だがそうだな、イナとエノが一緒なら一言、断って持ってこれるか。

 そちらの方が平和的で、後々面倒な事にはならないだろうしな。

 

 「では頼む」

 三人を送り出した。 


 ドイツ国鉄52型,軍用蒸気機関車

 総重量100トンクラスの蒸気機関車

 最高速度は80キロ



 対戦中期から7000両以上造られた列車。

 元は50型と言う戦前の列車なのだが、それを軍用にする為に徹底して簡素化したものをベースに軍用としての能力を付与し直した物。

 

 やたらに頑丈だった50型を簡素化したものだから余計に壊れなく成った。

 設計段階では五年持てば良いとの事で造られたのだが、確かに一部部品は其なりに壊れた様だが、それを取り替えればすぐに復活した。

 その部品も製造も修理も簡単なものだったので、結果50型よりも頑丈となる。


 東ドイツ国鉄は経済的な理由も有るが1980年の後半までそれを使い続ける事が出来た程だ。


 そして、戦後はソ連その他の国で丸々コピーされて造られた。

 それらを含めると10000両以上と言われている。

 世界で一番造られた事に成る。

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