少し変わった留置所
今日も変わらずの42ポイントか……と
作者は呟いてみた。
俺は窓から下を覗いていた。
その建物は三階建てのコンクリートのビル?
国防警察軍の警察署? 詰所? そこの最上階の一室に俺は居る。
そして、両手は相変わらずの手錠が掛かったままだ。
ここは、物置のようだイロイロと雑貨が見える。
そこにベッドを押し込んで留置所の代わりとしていた。
何故にそんな面倒なことをと、考えるまでもない。
地下の本来の留置所が一杯なのだ。
あれだけの村人とその上に盗賊達まで居ては、それは溢れる事だろう。
そして、俺だけが優遇されているわけでもない。
親衛隊の三人も隣の部屋に居る。
そこは会議室らしい、ここよりも良いかもしれない。
分けられた理由は単純に広さだけだと思いたい。
親衛隊は三人共に一緒だ。
そして、地下は村人と盗賊……俺と戦ったものだからそれも分けた理由だろう。
そして、三階なのは警備の理由だと思う。
最上階にしていれば一階の出入口迄が遠く為る。
もちろん警察署だ、窓はそのすべてに鉄格子が入っている。
逃げ出さない為にでは無くて、攻められた時の備えだろうが……今回は逆に役立っているわけだ。
逃げる積もりなど更々無いのだが……。
その俺が窓際に立って見ているのは、中庭に居る子供達と戦車。
そこで、俺の帰りを待っているのだ。
もう七日も……。
三日ほどで出られる筈では無かったのか?
その子供達の所にアンがやって来た。
俺がここに居る間に良く顔を出している。
子供達とも打ち解けて楽しそうだ。
……。
俺の所には一度として来たためしは無いが。
何時に為ったら解放されるのだ?
飯を運んでくれる兵士は何も教えてはくれない。
状況すらも知らないのかも知れない。
毎日の夕食の度に聞いているのだが、首を振るだけ。
それでも今日も聞いてはみるのだが。
一日ここに居て、喋る機会がそれだけしかないと言うのも有る。
取り調べも初日に有っただけ……その後はずっとここだ。
そんなだからか暇で、寂しいのだ。
不安でも有る。
アンがバイクを引っ張ってきた。
どうも犬耳姉妹がねだったらしい、順番に跨がっている……悲しいかな足はサッパリ着いていないが。
その宙ぶらりんの両足では走らせるのは無理だろう。
アンが首を振って断っている素振りだ。
あからさまに落胆する三人。
それはそうだろう。
八歳の花音よりもほんの少しだけ大きいだけだ。
届く筈もない。
もう少し背が延びてからだな。
後、五年くらいか?
伸びるかどうかは知らないが。
あれだけチョロチョロ動き回っていれば伸びるだろう……多分。
しかし、犬耳姉妹は良く動く……と言うか、ジッとしていられない?
それは、イタチ耳のヴィーゼもだが。
それに比べてタヌキ耳の姉妹と狐耳のエルは落ち着いている。
エルはそれでも子供っぽいが、イナとエノは少し大人っぽくも見える。
バルタは一番年上の筈なのだが……そうは見えない。
大人しくしているのだが……落ち着いて見えない。
一応は子供達のリーダーの様だが……それも見えない。
楽しそうな輪の中に入りたいのに……入れない。
まるで大縄跳びに入るタイミングを逃した子? そんな感じか?
バルタ自身は運動神経は良さそうなのだが、心の運動神経は音痴なのかも知れない。
それでも皆には慕われては居るようだ。
ヴィーゼなんかは、チョロチョロと何処かに行っても最後にはバルタの側に行くし。
付かず離れずのエルもバルタの言う事は聞いている様だ。
犬耳三姉妹は頭にクエスチョンが浮かんだらバルタの所に行っている。
イナとエノはそのバルタをサポートしている様にも見える。
盗賊に捕まって居たときからのチームワークなのだろう。
そこに今は花音が加わっているが。
花音の立ち位置はまだ定まって居ないようだ。
多分、そのうちに馴れるのだろう。
時折、写真を撮っては遊んでいる。
決して仲間外れにされているわけでもない無いようだし。
そして、マンセルはこの七日間はズッと戦車と格闘していた。
レンチを持って、油にまみれて首を捻っている。
戦車の調子が悪いのだろうか?
確かに、相当に無茶をしたのだが……酒も飲まずに掛かりっ切りは余程に見える。
……あれの修理代は俺持ちなのだろうか?
見る度に胃が痛くなる。
やはり、さっさとここを出で仕事を探さねば。
そんな代わり映えしない景色を毎日見ていた。
朝から晩の見えなく為るまでの間……ズッと。
そして、ここ二・三日は夜も時たま覗いたりもする。
ベットに入っても寝れないのだ。
動いていないのも有るだろうが……。
それよりも、最近は嫌な夢を見る。
それは常に同じ場面。
薄暗い地下牢で鎖に繋がれている、そんな俺は歳を取り老人に成っている。
……そんな夢だ。
その先はわからない、そこで飛び起きてしまうからだ。
ゾッとするほどに恐ろしい。
見知らぬ異世界で牢獄で一生を終えるなんて……。
その上、その老人は何も反省はしていない。
自分の罪を理解出来てもいない。
意味もわからずにそこに閉じ込められているだけなのだ。
それが何故にわかるのか? そんなのは簡単な事だろう。
今の俺が罪の意識等は全く無いからだ。
子供達を守るため。
自分を守るために戦っただけなのだから。
決して好き好んで暴れたわけではない。
降りかかる火の粉を払っただけだ……子供達の為に。
アンが帰る様だ。
バイクを引いて中庭から離れていく。
子供達もそれに手を振っていた。
中庭の影の部分が大きく成り始めていた……もう日も暮れかけ始めている、そんな時間だ。
そろそろ晩飯時かと、俺はベッドに腰を掛けて側の机を引いた。
簡易的に造られた留置所なので、俺の為に用意されたモノはその二つだけだ。
後は、そのままの物置。
置かれていた物もそのまま。
それを利用して俺が、何かをする事も出来るだろうに片付けもしていない。
信用されているのか?
それとも……子供達が人質だとでも言うのだろうか。
成る程、それは完璧な拘束かもしれない。
だから、子供達を見下ろせるこの部屋なのかと、勘ぐらずには居られない。
扉からノックの音がする。
今日は珍しい……何時もはそのまま勝手に入ってくるのに。
一応の返事を返した。
次に鍵の開ける音。
そして、食事を持ってアンが入ってきた。
ヤッパリ珍しい……と言うよりも、アンをここで見るのは初めてだ。
俺を見て、少しぎこちなく笑うアン。
そのまま机の上に食事を乗せた。
今日は、魚の蒸し焼きとパンとスープだ。
俺は魚は決して嫌いではない……元の世界ではの注釈を付けねばならないのだが。
ここで出てくる魚は、どれも淡水魚だった。
しかもコレは、誰がどう見たってその姿はブラックバスだ。
こないだはブルーギルだったし。
フナや鯉の時も有った。
味は其なりに美味しいのだが、問題はその匂いだ。
どれもこれも強烈に泥臭い。
これはこの異世界のと言うよりも、この国の事情なのだろうか?
実は海に面して居ない? とかか。
それともこれが噂に聞いた臭い飯の正体なのかもしれない。
嫌がらせでは無い事を祈ろう。
フォークで魚をつつく。
「魚は嫌いか?」
アンがそんな俺の態度に。
「高級魚だぞ、普通は留置所で食べられる物じゃない」
「……いや、嫌いではないのだが」
成る程、これは特別だったのか。
俺には、要らぬお節介だったが。
「最近、動いていないからか……食欲がね」
一応は言い訳をしておこう。
そして、口に運ぶ。
残念だが、これでは鼻を摘まむ事は出来なさそうだ。
そんな俺に。
「ここでの食事はそれが最期だ」
そう告げたアン。
フォークを口に入れたままに顔を上げて。
「出られるのか? やっと釈放か……」
だが、すぐに否定された。
「釈放はまだ無い」
大きく息を吐き。
言い難そうに続ける。
「どうもヤヤコシイ事に成った、本部が貴方を取り調べたいそうだ」
「本部?」
魚の骨を指で出しながら。
「王都に在る、国防警察軍の本部だ」
俺の食事はそこで止まった。
「マズイ事にでも成ったか……」
嫌な予感しかしない。
「……わからん」
溜め息交じりに。
「私も一緒に呼ばれた……」
「どおして?」
「それも含めて……説明は無かった」
首を振るだけのアン。
「明日は移動だ」
俺は暗くなって見えない窓を見る。
それを見てか。
「心配するな、子供達も一緒だ」
俺はアンを見て。
「もしかして、アンの左遷のとばっちりを受けた?」
冗談だ。
背中に伝う汗がコソバゆくて笑いたかっただけだ。
だが、その一言でアンは暗く俯いた。
……。
マジか!




