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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
七章 異世界の真実
315/317

猪の特攻

778ポイント!

今日も上がってる。

みんな応援ありがとう。


明日の分も明後日の分も、もう書いたから安心して読んでね。

あw、だから頑張るは当分無いのかw


でも、安心は嬉しい。


というわけで。

みんなまた明日。




 俺達は辺りを探したが猪は見付からなかった。

 少しずつ日が翳り始める頃には、皆が焦り始めた。

 

 「もう帰らないと」

 若い男は上官が気になってしょうがない様だ。

 

 「あの男は俺達が帰らなくても気にも止めないさ」

 それよりも猪の肉だと、歯の欠けた男は声を張り上げた。

 

 「帰れば怒り狂うんだけどな」

 それは何処で野垂れ死にしようが構わないが、生きているなら命令に逆らうなと、そんなところだ。

 それに一度大声で怒鳴り暴れると。

 1週間程後でまた思い出した様に同じ事で怒り出す。

 自分の感情をコントロール術を知らない。

 いや、その気も無いだけなのだろう。

 「今から帰ってももう遅いだろう、なら猪をもって帰るしかないな」

 

 「そうだな、流石に肉を差し出せば機嫌も収まるだろうからな」

 それしかないと横の二人の男も頷いた。


 「でも見付からなければ……」

 首を振って辺りを見渡し、情けない声をあげていた。


 確かに何処に隠れているのか皆目見当が付かない。

 それならばと。

 「探しても駄目なら、待ち伏せるか?」

 

 皆がその場で動きを止めて俺を見た。


 「夜に成れば水を飲みに来るだろうから、そこを捕らえるんだ」

 俺はそれを説明する。

 「何処に出てくるかもわからないが、そこは4人で適当にバラけて、藪に隠れて向こうから来るのを待つ」


 「ギャンブルか?」

 歯の欠けた男は少し考えて。

 「それでいこう」

 背の低い男は直ぐに頷いた。


 基地を出たのが昼前、まだ午前中のうちだった……長い1日に成りそうだと、俺達は覚悟を決めた。




 小川を少し離れて挟み、夜の闇のジャングルの藪に4人がバラバラに潜む。

 空に見える月は丁度半分。

 暗くも無く、明る過ぎもせずの狩りにはもってこいの月明かりだ。

 だが俺達に味方をしようとするのはその月だけだった。


 夜のジャングルは人を排除しようと躍起になる。

 むせかえる程の湿気と暑さだ。

 ただそこにジッとしているだけなのに汗は滴り、虫が這い登る。

 それを払うだけで藪草が音を立てる。

 基本的に臆病な夜行性の野生動物だ、気付かれない様にするには動けない。

 だから、両手で握り込む38式歩兵銃から伝ってきた、ゴキブリの様な虫も気には成っても払えない。

 

 目玉だけを動かして手元を見た。

 右手の親指から手首へ、そして二の腕へと這う虫。

 カサカサと音も聞こえる。

 やはりどうにも気持ちが悪い。

 俺は右手だけで銃を支えて、左手をソッと動かそうとしたのだが……その手に触れている草が大きく動く。

 音を立てずにとは……難しい様だ。

 待ち伏せているのが敵兵なら躊躇も無くに払うのだが、それよりもはるかに重要な肉だ……敵なら気付けば襲ってくる、つまり向こうから来てくれるが。

 肉は逃げる。

 戦争なのだから、敵に撃たれて死ぬのは仕方無いと諦められるが……。

 餓えて死ぬのは我慢が為らん。

 そんな覚悟は陸軍に入る時も、出兵の時も出来ては居なかった。

 いや、軍に入れば飯は腹一杯食えるもんだと思っていた。

 

 「この戦争……日本は負けるのだろうな……」

 思わず口から漏れた呟き。

 その自分の声に驚き、慌てて緩んだ気を戻す。

 戦争ならもう負けているのはわかっている。

 俺達が腹を空かせているのがその証拠だ。

 海軍なんかは壊滅しているとも聞いた。

 零戦で特攻攻撃をしているらしい……それはもう敗けを認めた様なものだ。

 一矢報いる?

 それは違う。

 零戦は兵器だ、ガソリンが少ないから飛べない?

 弾の補給が無いから撃てない?

 そんなものは零戦を一機造るよりも安く手に入る。

 それなのに自らの意思で壊す?

 国はもう、この戦争で負けたいのだろう。

 戦う兵器が無くなれば戦争そのものが続けられない。

 そうなれば、頭の悪いヤツ……往生際の悪いヤツも諦めが着くとでも考えたに違いない。

 いや、海軍の奴等は全員が頭が悪いか……。

 序にいえば、往生際の悪い奴等は陸軍の上に溜まっている。

 やっぱり、この戦争は勝てる理由が無い。

 みんな馬鹿ばかりだ。


 我慢仕切れず笑いが込み上げる。

 最後に、なら自分はどうなんだ?

 そんな思いが頭に浮かんだから。

 俺もそんな馬鹿の1人と笑ってしまう。

 どうにかこうにか吹き出すのを堪えていると。

 若い男の叫びが聞こえた。


 「でた!」

 俺は立ち上がり、その方向を見る。

 草木や藪で隠れていて見えない。

 銃を構えて走り出した。


 

 見たのは川のほとり。

 足跡を見付けたその場所だった。

 そこに腰ほどの高さの猪が唸りを上げている。

 唸られているのは若い男、腰が抜けて居るのだろう仰向けで半身の状態、へたり込んでいた。

 

 前足を掻き込む猪。

 鼻息も荒い。

 その理由は首の横に血が滴っているのが見える、側には若い男の38式歩兵銃が転がっている。

 果敢にも……無謀にもか? 銃剣で刺したのだろう。

 いや、恐怖にかられて突き出した銃剣がたまたま猪に当たったか?

 どちらにもしても、猪の怒りはかった様だ。


 俺は片膝を落として、銃を構えて引き金を引いた。

 カチン……。

 弾が出ない。

 「湿気ってやがる!」

 慌てて弾を抜いて、次を送り込む。

 カチン。

 「駄目だ」

 何処からか、同じ叫びが聞こえた。

 誰の弾も不発の様だ。

 「銃剣で刺し殺せ」

 それを叫んだのは背の低い男だった。

 俺よりも若い男の近い距離に居たようだ。


 それと同時に猪が走り出す。

 人が発した殺せという言葉を理解したかの様だ。

 真っ直ぐに若い男を目掛けて牙を突き出した。

 

 それを歯の欠けた男が銃剣で止めた。

 若い男を助けようと近付いていた所に猪の突進、咄嗟に差し出した剣先に猪自ら突き刺さった形だ。

 偶然だろうが、辺りどころが良かった様だ。

 猪の前足の付け根部分。

 突然に効かなくなった前足は体を支えられなくなり、突進した勢いのままに横にそれて、頭から地面に突き刺さる。


 俺は、走るよりもと新しい弾を腰のケースから紙箱ごと抜き出したそれを、乱暴に破いて、バラバラとその場に落とした。

 その一発を拾い上げて、口に咥えるそのままに右手でボルトレバーを引いて弾を込めた。

 猪を狙う。

 背の低い男も猪に突撃しているのが目の端に捉えていた。


 「撃つぞ!」

 叫んで引き金を引けば……。

 パン!

 弾は猪の胴体に吸い込まれた。

 だがまだ致命傷には至っていない様だ、動きを止めない猪。


 もう一度、弾を拾い……撃つ。

 パン!

 今度は耳の下辺りに命中した。

 もう一発。

 3発目は首根っこ。

 4発目を撃とうとしたその時……猪は倒れ込み、そして動かなくなった。


 「大丈夫か?」

 取り敢えず声を掛けた。

 銃はまだ構えたままだ。


 「ああ、怪我は無い」

 若い男を庇っていた歯の欠けた男が、倒れた猪に寄り…… 首元に銃剣を突き立てる。

 「コイツも死んだみたいだ」


 俺は、それでやっと息を着いた。

 銃を下ろして、銃の中の弾を確認する。

 どれもこれも、見れば弾の底が錆びていた。

 落ちた弾を拾い集めて、新しく弾を込め直す。


 「この島に来て、渡されてから一度も撃って居なかったからな……仕方無い」

 同じ様にしている背の低い男も、錆びた弾に笑っていた。

 

 「最初の頃は整備もそれなりにしていたが、整備用の油が切れてからはそれっきりだしな」

 俺も笑う。

 

 「それ以前に、その油を舐めていたヤツも居たけどな」

 歯の欠けた男も弾を入れ換えていた。

 

 俺は、地面に蒔いた残った弾の泥を払いポケットへ突っ込み、猪に近付いて見下ろして居ると、歯の欠けた男も側には立ち。

 「特攻隊の様な突撃だったな」


 「これが零戦か?」

 背の低い男も近付いて。

 「この野暮ったい体型なら赤トンボだろう?」

 そう言って笑う。


 赤トンボとは93式中間練習機……二枚羽の複葉機だ。

 

 「でも聞いた話じゃあ、特攻は赤トンボの方がはるかに成績が良いらしいぞ」

 

 「本当か?」

 背の低い男と歯の欠けた男が同時に大笑い。

 それは無いだろうと手と首を振る。


 「赤トンボに比べたら零戦なんて、糞の屁らしい」

 通信士との雑談でそう聞いた。


 「有り得ないだろう」

 「担がれたんだ」

 二人して俺を笑っていると。

 尻に着いた泥を払いながらに立ち上がった若い男が。

 「いや、それはそうでしょう」

 地面に転がる猪を遠巻きに見下ろして。

 「赤トンボは木と布で出来ていますから、レーダーでも捕捉し難いし……それに複葉機で低速も安定しています、低高度で飛ばれたら気付いた時にはすぐソコです」

 掌をヒラヒラと見せて。

 「敵の戦艦に特攻なら赤トンボの勝ちです」


 驚いた2人。

 「でも、速さが違うだろう?」


 「その速さだって、今じゃあ時代遅れですよ、アメリカの飛行機の方が全然速い、戦争の始めの最初だけです」

 今度は両手でヒラヒラと。

 「シコルスキーとかF6Fヘルキャットには全然歯が立ちません」

 シコロスキーとは海軍がF4Uコルセアの事をそう呼んでいた。

 ここは島なので、情報は無線機から聞こえる声だけ。

 自ずと海軍の電波を拾う事の方が多いから、そう為るのだろう。


 「そうなのか」

 二人も半分だけだが納得したようだ。

 レーダー技師が言うのだから……と、そんな感じか?


 まあ、どうでも良い話だ。

 足元に転がるのは戦闘機では無くて猪なのだから。

 

 「さて……持って帰ろう」

 緊張感で動かない足元も今の雑談でほぐれただろうから、と皆に声を掛ける。

 

 皆もそれに頷いた。

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