カワズの仕事
772ポイントだ。
上がってる!
うれしい。
みんな応援ありがとう。
あしたもがんばるよ。
また明日。
「傷を治すとは言っても……」
ドラゴンはペトラを見た。
「今のペトラには無理だろう……新しく造るのも勿論だが」
なにを言われているのか。
驚いた顔のペトラ。
「今は人だからね……」
頷くカワズ。
「私は……人です」
復活の言葉と一緒に自分が人だと言われて戸惑うペトラ。
自分にそんな力が在る筈も無いと首を振る。
「今の君には無理だよ、死んで思念体に戻れば簡単だけど……」
「死ねば良いの?」
ペトラが呟いた。
「死ぬと言ってもだ、君も永遠の命が在る存在だ」
カワズが説明を始めた。
「今は記憶が無いと思うが……それは、その小さな頭では永遠を生きた君自身の記憶が収まらないからだ、だから、人に成る時は記憶の殆どを別の場所に保管しているんだよ、それさえ有ればペトラはほぼ全てのスキルが使える」
笑い。
「まあ、君が作ったスキルなのだし、当たり前ではある」
「しかし、せっかく人として生きているのだし、もう少し楽しませてやりたいのだが……」
「まあ、この世界はペトラが自分の為に造った世界だしね……思念体に戻ればまた退屈な時を過ごさないといけないからね」
何度か小さく頷いたカワズ。
「一度、思念体に戻るとその次は……何時、人に成れるのかもわからないし」
「入れる器と成れる者が、何時産まれるかだな……思念体に馴染む体は中々産まれないからな」
「自分で造れれば簡単なのに、作り物の体では駄目だってのが面倒臭い」
「仕方が無い、ファウストと違って転生者では無いからな」
ドラゴンも渋い顔。
「いっその事、ドラゴンの体で諦めてくれれば良いのに」
「それでは、ペトラの楽しみに成らんだろう……この体では人と交わる事も難しいから」
「あの……私って、何ですか?」
「ん? ああ、君は彼の娘」
カワズはドラゴンを指差した。
「太古の昔から、この世界に居た思念体の1人……ファウストの記憶の世界に憧れた女の子だよ」
「私が?」
「別に気にする事は無いし、忘れてもいいよ。死ねば総てを思い出すから、その時に考えて」
カワズの言葉にドラゴンも頷いた。
「今は世界を楽しめば良い」
ドラゴンのゴツゴツとした無骨な顔が優しく見えた。
「しかし、そうなるとどうする?」
もう一度カワズに向き直るドラゴン。
「いや、彼に頼もうと思ってね」
その場所から消えて……結界の前に現れる。
「頼まれてくれないか?」
「ゾンビにしろと?」
元国王は目の前に立つカワズに。
「いやそれだと、傷が治らない……君の持つ治癒の力で傷を治して欲しいんだよ」
「死体の傷は無理だ」
「それは大丈夫、死体とは言っても彼の体は魔素が固まって実体を持ったモノだから問題はないよ……そうだね、魔素を捏ねくり回して造った魔素ゴーレムみたいなモノだからって、そんな説明でどう?」
返事を返さない元国王。
「そうだね、私のお願い事だしね……それ相応の対価が必要か」
大きく頷いたカワズ。
「では、やってくれるなら、君の願いを何でも1つ聞いてあげよう……ただし、私に出来る事が条件だが、どうかな?」
「死ねと言ってもか?」
「構わないよ、もう長く生きたしそれもいい」
笑ったカワズ。
「おい、セカンドが死ねば、このペトラの世界はどうする? 誰が維持をする?」
慌てたドラゴン。
「いや、そこのお嬢さんが私と同じスキルを持っている様だし、この子に頼むので良いのでは?」
指を指したのは百合子。
「あれ? そう言えばどうやって若返っているの? ダンジョンを転生させれば見返りに10年や20年は歳を取るだろう? 若返る為の魔素を君はどうしてる?」
「ダンジョンの転生者を殺してないのが不思議なのでしょう?」
百合子が答えた。
「代わりに魔物を殺しているわ」
「なるほど……だから魔物を大量に使役しているのか」
チラリと元国王を見た。
「でも出来るなら、この世界に干渉する前の転生者で魔素を回復して欲しいのだが……でないと、魔素のバランスが崩れるんだよね」
「なにそれ?」
「この世界は魔素の微妙なバランスで成り立っているのだけど、それが狂うとスキルに異常が出たり……最悪はこの世界の1部が何処かに飛ばされたりするのでね」
「最近、魔法とかが弱くなっているとかか?」
元国王が口を挟んだ。
「そう、それもだ」
頷いて。
「私の代わりに魔素の供給を遣ってくれれば、命は挙げるよ」
「人を……転生者を殺せって事?」
「まあ、そうだね……それが一番に平和な方法だから」
「嫌よ」
即答だった。
「なら、他の誰かに頼まないと駄目か……」
考え始めたカワズに、元国王が聞く。
「他に方法は無いのか?」
「無いね……有ったら何千年も何万年も同じ事をしていないよ」
溜め息。
「そんなに短い時でも無いだろうに……少なくとも何億年以上の事だろう?」
ドラゴンも溜め息。
「そうかもね、もうどうでも良いけど」
苦笑い。
「そんな……罰ゲームみたいな事、誰がやるの」
百合子の顔に嫌悪感が出ている。
「だよね……私はどんな罪を犯したのだろうと常々思うよ」
チラリとドラゴンを見て。
「解放されたい」
ドラゴンはペトラを見た。
「あの娘が飽きる迄だな……」
「それもねえ……私もこの世界に居て友達も居たりしたし、出来るなら壊したくないんだよね」
「どうせ退屈凌ぎでだろうに」
ドラゴンがカワズを笑う。
「それでも、想い出なのは確かだ。ロンバルディアの建国の時は初代国王とあれやこれやと話したのは楽しかったし……何度か国王もやったしね」
「そう言えば、英雄王とか呼ばれて居たなルイ・オーギュストだったっけか」
「そんな時も有ったね」
何処か遠い目で。
「あの時は楽しかった、魔素の取り込み過ぎで殆どを赤ん坊に成ってしまってね……その時の国王に拾われたんだ、それが何故か国を譲ってくれてねあの時は普通に生きたな」
「王位継承で揉めたから、孤児に御鉢を回しただけだろう?」
ドラゴンも知っていた様だ。
「そんな想い出話はどうでも良いわよ」
マリーが吐き捨てた。
「君とも一緒に旅をしたよね……あの時は可愛かったのにね」
「どういう事?」
少し眉を上げたマリー。
しかし、直ぐに百合子に目線を移した。
そして元国王を見る。
その視線に気付いた元国王が口を開く。
「わかった、貴様への願いは保留だ……何時までもここでこうしているのも時間の無駄だからな」
チラリと真上の結界に寄り掛かる戦車を見て。
「どけてくれ」
ドラゴンが軽く持ち上げた。
そしてカワズはペトラの側に飛び、そのまま抱えて結界の前に戻ってきた。
「ペトラ、触れてくれ」
言われるままに手を出すと、結界は消えて無くなる。
「その子も純血種?」
マリーが驚くが、直ぐに間違いに気付いた様だ。
「そうね、純血種どころか古代人なのよね……」
ロンバルディア人の元を造った者だ。
そして、全てのスキルの適正も持っている……当たり前だ。
自分で造ったモノを使えなくてどうする。
元国王は俺の死体にしゃがみ込み、綺麗な装飾をされた長めのナイフを俺の体の空いた穴に突っ込んだ。
それを何度も繰り返す。
「相変わらずに凄いね」
カワズはそんな元国王の後ろに立って覗き込み。
「ゾンビなんて造ってないで、そっちの能力をいかせばいいのに」
「うるさい……終わったぞ」
元国王がその場を退いた。
「有り難う、助かったよ」
先に礼を言って。
次に俺に語り掛けてきた。
「もう戻れると思うけど……少し忠告しておくよ」
なんだ?
「君は直ぐに人の記憶を取り込むから……」
頭をつついて。
「何時も限界一杯なんだ、だから少し混乱するかもね……まあ、気にしないで戻ってきてよ」
それは……自力で戻れとそう言うことか?
混乱は……たぶん何時ものアレだろう。
そんな事を考えていると……次第に目の前が暗くなる。
強烈な眠気で目が開けられない、そんな感じだった。




